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大西孝弘(著)『孫正義の焦燥』日経BP【本の紹介】稀有な経営者、孫正義はこれからどんな歴史をつくるのか?

おはようございます、一龍です。
つい先日ペッパーの家庭向け販売がスタートして、話題になっていたソフトバンク。
そんな最先端の企業を率い、つねにその経営や言動が注目されている孫正義氏は日本で現役の経営者としてはあらゆる意味でトップだということは衆目の一致するところでしょう。

今回はそんな孫氏を徹底して取材し続け、書き下ろされた 『孫正義の焦燥』から、 特に本書で主題とされている孫氏が「情報革命で人々を幸せにする」と掲げる「理念」についてと、その「経営手法」に関して、ヒントとなるエピソードをピックアップしてみました。

いわば、”経営者、孫正義のポイント”です

『孫正義の焦燥』より、経営者、孫正義のポイント

★まだ100分の1も成し遂げていない

「日本を代表するベンチャーの旗手」といったイメージの孫正義氏ですが、今や押しも押されぬ大企業の社長です。

そして、Forbesにも登場する日本屈指の資産家でもあります。
そんな絵に描いたような成功者の孫さんから、本書の巻頭に登場する言葉とある意味衝撃的です。

「俺はまだやりたいこと、やるべきことの100分の1も成し遂げていない。まだスタートラインに立つところという意識だよ」

「実に自分はちっぽけな存在で歯がゆい思いをしている」

「いや、本気でそう思っている。たるんでいると思う」

2015年8月で58歳になる孫正義氏ですが、歳を重ねるごとに丸くなるどころか、思考を研ぎ澄まし、過激になっていくと著者は言います。

いったい孫正義氏は今後何を成し遂げたいのか?

一つの応えとしてこの言葉が象徴的に表しています。

「俺は歴史をつくりたいんだ」

★イノベーションへのスタンス

つい先日、ソフトバンクから家庭用ロボット「ペッパー」の発売が開始されました。
ロボットと人工知能AIの分野は今後有望な市場です。

が、同時にAIの加速度的進化に対して、AIが全人類の知能を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」についての議論も悲観論と楽観論が入り乱れて議論されています。

世界でいち早く家庭用ロボットを発売した孫氏はどのように考えているのでしょう。

「近い将来、コンピュータの知的能力が人間の知的能力を超えるシンギュラリティの日が必ずやってきます。コンピュータ、ロボットは機械的で、人間の脳細胞は微妙な心のひだを表すと思われるかもしれませんが、森羅万象の微妙な物事を分析・推論し、知恵を働かせ、ありとあらゆる情報を集めて処理・判断し、知恵を出すという知的活動をコンピュータが担うような時代がやってくると思います。
 私が一番伝えたいのは、シンギュラリティの日をむかえたとき、人類はコンピュータとどう触れ合えばよいのかということです。正しい使い方をすれば、人類にとって最高の同士になります。生産性を大きく上げることによって生まれる新しい時間、エネルギーは人類をより心豊かに、感情豊かに、幸せにすることができると思います」

また、日本の労働人口の減少という社会課題に対しては

「私には日本の製造業における労働人口1000万人を、1億人に増やしたいという構想があります。ロボットは1日24時間働けるため、一台のロボットで3人分の仕事をします。土曜日も日曜日も働いてくれますので、本当は3倍以上ということが言えるかもしれません。仮に3倍として、3人分の仕事をやってくれるロボットが3000万台、つまり9000万人分の労働人口に匹敵するわけですね」

というふうにロボットの活用が解決策となると説いています。

孫氏のイノベーションへのスタンスは、プラスの側面を徹底的に活かすという思想だとこの言葉からわかります。

★ハードウェアよりもソフトウェア重視

孫正義氏のビジネスはソフトウェアを重視し続けてきました。

「人間の脳の働きに例えてみるといいんだよ。ハードウェアなんて、人間の頭に例えれば、頭蓋骨。骨にどれほどの価値があるんや。メモリーチップだとか、CPUですらコモディティー(汎用品)になる時代が来る。
 その時に人間の脳で言えば、大脳のニューロン(神経細胞)って、みんな300億個持っているんだよ。CPUの能力とかメモリーチップの能力がないと機能しないんだけど、みんな持っているんだよ。
 一般的な人とスティーブ・ジョブズだとか、ビル・ゲイツとかは、ハードウェア的には一緒なんだよ。ニューロンの数はみんな一緒。つまり、トランジスタの数が一緒でも、そこの中に入っている知恵と知識が100万倍ぐらい違う」

「重さは一緒だけど、価値が100万倍違う。それは、中に入っている知恵と知識でそれだけ差が出るわけ。これはチップのトランジスタの数で差が出るんじゃないんだよ。
 知恵に相当するのがソフトウェアであり、知識に相当するのがデータ。世界中の人々の英知を集め、それをまるでひとつの固まりのように全部集める。それがバンクだよ。世界中の人々の知恵と知識のバンク。それが社名にソフトバンクとつけた理由だよ」

この言葉から著者は、ペッパーは情報端末となり、パソコンやスマホでは吸い上げられない情報をロボットで集め、その集めた情報が価値を生むということがソフトバンクの狙いだと分析しています。

「ソフトバンクのロボット事業はGoogleの政略に近い」といえるでしょう。

ロボットというハードで収益を上げるのではなく、ロボットが集める情報に収益を見いだす戦略は、まさにソフトを重視し続けてきた孫正義氏を象徴するビジネスだといえます。

★「ソフトバンクバリュー」

孫氏は入社する若者にベンチャー精神を直接語りかけることを重視していて、毎年春に「新卒LIVE」という名の新卒向けの説明会を実施ている。

また、2014年10月には「ソフトバングバリュー」を策定している。
これは人事が過去の孫氏の発言をピックアップして、5つに絞り込んだもので、ソフトバンクという会社のカラーを理解するための一助となると思います。

「ソフトバンクバリュー」は以下のとおり 

「№1。やる以上は圧倒的№1」
「挑戦。失敗を恐れず高い壁に挑み続ける」
「逆算。登る山を決め、どう行動するか逆算で決める」
「スピード。スピードは価値。早い行動は早いせいかを生む」
「執念。言い訳しない、脳がちぎれるほど考え、とことんやり抜く」

★「エネルギーは趣味」

孫正義氏は”熱き情の人”というイメージを僕は持っています。
それは東日本大震災に際して100億円の私財を提供したこと。
そして、脱原発を掲げて再生エネルギーの分野に進出したことがもとになっていすま。

しかし再生エネルギーには収益に至るまでまだまだ壁が高く、現在は日本やモンゴル、ロシア、中国などの争点線を海底ケーブルなどでつなぎ、電力を相互融通する「アジアスーパーグリッド構想」にシフトしています。

このエネルギー事業に対して著者が投げかけた質問

エネルギーは本業ではないんですか?

に対して、孫氏はこう答えています。

「エネルギーは趣味だよ。本業は、もちろんあくまでも情報革命なんだけど。通信というのは電気なしには成り立たないからね。それと、我々が情報の世界で培った分散型のネットワークシステムだとか、でもやっぱりクラウドだとか、その分散とクラウドの集中のベストミックスを常に考えながら、その時代の最高のテクノロジーを組み合わせてやっている」

まだ収益化が難しい再エネの先端技術には投資をして普及を図りつつ、現実的には実現可能な現在の事業とシナジー性の高いエネルギー事業をすすめる。

この両面性が孫正義氏の真骨頂なのだと思います。

★「マサ、パンツ濡らすぞ」

本書に登場する孫氏の数々のエピソードの中で個人的に最も印象的だったのがスティーブ・ジョブズとのエピソードでした。

それはソフトバンクがまだ携帯電話事業に参入していないにもかかわらず、ジョブズにiPhoneの独占販売権を迫った話です。

(携帯電話事業に参入するには武器が必用だ)
そう考えていた孫は、ジョブズに電話をかけて会いに行った。孫はiPodを参考に書いた新しいモバイルのスケッチをジョブズに渡した。
「マサ、汚いスケッチなんか要らないよ。ぼくには自分のがあるから」
「製品が完成したら日本に持ってきてほしい」
「君はクレージーだな。誰にも話してないのに、最初に会いに来たから、あげよう。これを見たら、おまえならパンツ濡らすぞ」
 スケッチを見た孫は驚愕し、こう迫った。
「ちゃんと紙に書いて署名してくれ」
「マサ、署名なんかできないよ。だって、まだ携帯キャリア(通信会社)すら持っていないじゃないか」
 孫は待ってましたとばかり言い放った。
「いいかい、スティーブ。あなたが約束を守ってくれるなら、私も日本のキャリアを連れてくるから」

本書にはこれが何時のことかは書かれていませんが、iPhoneは2005年から開発が始まり、試作機ができたのが2006年12月、正式な発表が2007年1月。
そしてソフトバンクがVodafoneの買収をしたのが2006年4月。

このエピソードには試作機ではなくスケッチが登場しているので、2005年後半から2006年の初め頃のことだろうと思われます。

秘密主義のジョブズがスケッチとはいえ開発中のガジェットを見せたというのも驚きですが、それをひと目見てその商品の凄さを理解し、独占販売権を求めた孫氏もただ者ではありません。

「分かるやつには分かると。後々になるとほとんどの人が『おお、と言うよ』と。日本ですら、俺がiPhoneに興奮して『わあわあ』と言っている時に、ドコモやKDDIはあんなものが日本人に売れるわけないでしょう、と堂々と言っていたんだから。日本の携帯は世界最高だと一生懸命言っていた。今振り返ってみたら、何言っていたのということだよ」

天才同士、相通じるところがあったのでしょう。

それにしてもこの時孫氏はどんなモバイルのスケッチ描いたのだろう、見てみたい。

★動物的臭覚と即断即決

ソフトバンクが急速に拡大成長した影には投資の成功があります。

かつてはヤフーへの投資、そして近年ではジャック・マー率いるアリババへの投資の成功が思い出されます。

孫氏はアリババへの投資を決めた時のことをこう言います。

「2000年に私は中国に行きました。これから伸ばしていこうというインターネットの若い会社、20社くらいに会いました。それぞれ10分くずつでしたが、その中で一社だけ投資を即断即決した会社がありました。それがアリババです。
 最初の5分間でけ話を聞いて、残りの時間は私の方からジャック・マーに『出資をさせてほしい』と。彼としては、『じゃあ、2億円なら』と。僕は『そうは言うなよ』と、『20億円受け取ってほしい』と。
 売上がまだほぼゼロ、赤字の会社で、ビジネスプランも作ったことがないという会社でしたが、私としては、『なんとしても資本を受け入れてほしい』と、『お金は邪魔にならないだろ』、という押し問答を繰り返して、出資に至りました。
 やはり20人くらい会ったなかで、ジャック・マーが圧倒的に伸びる、そういう予感を与えてくれた。これってですね、別に数字を見せてもらったわけじゃないです。プレゼンの資料があったわけでもないです。言葉のやりとりと、目のやりとりだったわけですが、やっぱり彼の目付きや、動物的匂いですね。
 やっぱり匂いを感じるってあるんですよね。不思議と。これはヤフーアメリカが社員5人くらいの時に大きく出資した時もそうでした。」

動物的臭覚と即断即決。
これが現代の名経営者に必須の条件ではないでしょうか。

★自転車操業の解消法

業績の悪い部門や投資案系から撤退中に、平行して大型買収を仕掛けた時期があります。
その時のエピソード

 (藤原和彦氏、現ソフトバンクモバイル専務取締役兼CFOは)2003年からヤフーBB!を展開するソフトバンクBBの経営本部長に就任。一時は毎月120億円の赤字を出す状況で、今度はその出血を止めることに奔走する。
 その最中に孫は、2004年に日本テレコムを約3400億円で、2005年にはプロ野球球団、福岡ダイエーホークスを約200億円で買収する。そんな時に藤原と孫がこんなやりとりをした逸話がある。
「本当に買収するんですか」
「藤原、またおまえか」
「社長、このままでは自転車操業になります。」
すると孫が諭すように言った。
「解消の仕方を教えてやる。もっと勢いよく(自転車の)ペダルを漕げばいいんだ」

この返答、ベンチャー精神そのものです。
そして、この会社の魅力でもあります。

大企業になったソフトバンクはペダルを漕ぎ続けることができるかというのが今後の課題となりそうです。

★「ストリートファイター」集団

孫氏は幹部たちを「ストリートファイター」と呼び、こう評しています。

「ソフトバンク社員は、NTTやKDDIに学歴では明らかに劣る。大学卒業した直後の地頭とか、直後の素養という意味では絶対向こうのほうが上だと思うんです。いや、ほんと。
 うちの幹部社員のトップ100人の中で新卒から上がってきたというのは1割もいない。9割以上が中途採用だ。
 だけどその後の鍛えられ方が違って、ストリートファイターになっていく。企業カルチャーの中で貧乏人の息子が寄り集まって、みんなでファイティングスピリッツで燃えているだと思うんですね」

とはいえ一般レベルで考えるとかなり優秀な人材を採用していて、決して野武士集団とういわけではないでしょう。

ソフトバンクの強みは、もともと優秀な人材がストリートファイターに成長する環境、企業カルチャーなのだと思います。

★弟・泰蔵に語り聞かせた英雄伝

歴史好きであり、坂本龍馬の大ファンでもある孫氏。
その歴史館はかなり面白いものでした。

実弟の泰蔵氏に

「泰蔵、日本の歴史の三大偉人は誰だと思う?
 聖徳太子と織田信長、坂本龍馬だ。この3人のイノベーターには共通点がある。当時の最先端機器をいち早く取り入れた点だ。聖徳太子は折れにくい刀を誰よりも早く使い、その武器が権力を支えた。信長は鉄砲だな。龍馬は黒船だよ。現代の経営者もテクノロジーへの見識が不可欠だ」

という話を繰り返ししているそうです。

本書第6章 「日本の三大偉人は誰?」 「孫史観」による1000年のタイムマシン経営 に詳しく書かれていますが、織田信長、チンギス・ハーンに関する史観は是非本書でお読みください。

ある意味、この章が一番孫正義という経営者を理解するヒントに満ちていると思います。
社員を走らせるのは「塩」と「銀」です。

『孫正義の焦燥』まとめと感想

最近「やりましょう」が聞けないと思っていたら

私は孫正義氏のファンです。

もちろん会ったこともないのですが、Twitterで「やりましょう」と気軽に答えてくれたり、同じ龍馬ファンとしてNHK大河ドラマ「龍馬伝」に夢中になっていた頃のツイートなど、とても親近感を持っていました。

ときに、「パケ放題」ならぬ「ハゲ放題」というユーザーの提案にも「やりましょう」と応えてくれた時には、本当にやるのかドキドキしたものです。

ところがその「やりましょう」が最近ぜんぜん聞けません。

寂しく思っていたところ、本書を読み、軸足を海外に移していることを知って「相変わらず自転車を漕ぎ続けているんだ」と安心しました。

孫正義とソフトバンクを知るための最良の資料

さて、そんなワールドワイドに展開を始めたソフトバンク。

本書は現段階で孫正義という傑出した経営者と、彼が率いるソフトバンク社を知るための最良の資料だといえます。

特に質量ともに高いレベルの取材をもとに、経営者として人間としての孫正義を客観的に観察分析しているところが秀逸です。

本人へのインタビューはもとより、周辺幹部やふるさと九州での取材など、”孫正義”が形成されるバックボーンから精緻に取材を積み上げており、間違いなく現役国内ナンバーワン経営者である孫氏の実像を浮き彫りにしています。

すべてはつながっている

また本書で一つ納得できた点があります。
それはソフトバンクという会社の方向性です。

もともとパソコンソフトを取り扱う会社から通信業界、そして近年はエネルギー業界、さらにはロボット事業へと進出していて、いったい何がしたいのかよくわからないと思っいました。

一見バラバラの方向性。

しかし、ソフトも、通信も、エネルギーも、ロボットも孫氏のビジョンの中では繋がっているのです。

本書を読んですべて合点がいきました。

今の段階では各々の事業が有機的につながってシナジー効果を生み出すところまではいっていません。
ですが、近い将来、各事業が有機的につながると、これま想像を超える企業ふと成長する可能性があります。

「私は歴史を作りたい」

と孫氏は言ったそうですが、全ての事業がつながったとき、まちがいなく歴史に名を残すことになると思います。

ファンとして孫正義氏の活躍を最近あまり見なくなったのは残念ですが、この人には日本という器は狭すぎるのでしょう。

数年のうちに必ず僕達を驚天動地させるニュースとともに孫氏の誇らしげな姿を見ることを楽しみにしたいと思います。

本書はそんな孫氏の「歴史の証人」です。

本書は日経BP社、東城様から献本していただきました。
ありがとうございました。

『孫正義の焦燥』目次

はじめに
第1章 「数十年間、無駄な時間を過ごしてきた」  ロボット「ペッパー」誕生の舞台裏
第2章 「長く苦しい戦いになる」  アメリカの夢と挫折
第3章 「収穫期に入った」  盤石の国内事業に忍び寄る大企業病
第4章 「本業ではなく趣味」  情と理に揺れるエネルギー事業
第5章 「天才を使えるのは俺しかいない」  急成長を支えるストリートファイターたち
第6章 「日本の三大偉人は誰?」  「孫史観」による1000年のタイムマシン経営
第7章 「後継者はおぼろげながら見えてきた」  ニケシュは孫正義2.0になれるのか
巻末インタビュー ソフトバンク社外取締役(ファーストリテイリング会長兼社長) 柳井正 「膨張より成長を目指せ」 

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