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僕が紀伊国屋の村上春樹新刊買い占めに怒った理由をちゃんと説明しよう

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photo credit: Museum of Modern Art Book Store via photopin (license)

シルバーウィーク直前にアップしたこちらの記事

www.s-ichiryuu.com

思いがけずバズって、16000PV以上のアクセスを生み出しました。
それ自体はいい経験をさせていただいたと感謝しております。

が、ブログのコメント欄やFacebookでシェアしてくれたものへのコメントなど読んでいると、一部の方はご理解いただいたようですが、ほとんどの方にこちらの問題定義が伝わっていない。

まぁ、特定の書店名を出しているわけですから直接的なきつい表現はできるだけ避け、短い文章になるようにちゃちゃっと短時間で書いた文章なので、言葉足らずの部分は大いにあったと反省はしておりますが、それにしても伝わっていない。

そこで今回あらためて、なぜ僕が紀伊国屋書店に対して怒ったのかをしっかり説明したいと思います。
そして、リアル書店がネットに対抗するための方法ももう少し語りたいと思います。
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僕が紀伊國屋書店の村上春樹新刊買い占めに怒った理由

バックグラウンドとして、田舎の本を取り巻く環境

まず最初に今回僕が怒った理由にはバックグラウンドがあるのでそれから理解してもらいたいと思います。
これはリアル書店がネット書店に押されている原因にもつながるものです。

都会の人にはわからないでしょうが、田舎の本屋(私が住んでいる香川県)にはとにかく新刊が入らないのです。
それこそ発売から1ヶ月遅れなどはザラです。
おそらく、全体の出版数から言えば、一度も地元の書店に配本されずに消えていく本が圧倒的多数でしょう(出版点数が多すぎるので当然ですが)。

もちろんしかたがないというのは分かっています。
僕がよく読むのはビジネス書ですが、ビジネス書だと初版の刷り数が数千冊のレベルでしょうから、全国の書店さん(約14000店弱 日本著者販促センターHPによる)に潤沢に行き渡るのは物理的に無理です。

しかし、かなりネームバリューがあり、ヒット作もだしている実績のある初版の多そうな著者の本でもなかなか回ってこないし、今まさにベストセラーになっている本でなかなか入らなという現状がずーっと続いているのです。

また、雑誌や週刊漫画にいたっては、いまだに1日遅れで発売です(かつては2日遅れでした)。
瀬戸内海の向こう側の岡山県はちゃんと発売日に店頭に並びます。
四国は離島ですか?

新刊がなかなか店頭に並ばない、雑誌の配本が遅い。
こういう不満が潜在的に積もりに積もっていることをまずはご理解ください。

紀伊国屋書店の買い占めの目的

さて次に、今回の紀伊國屋書店による村上春樹氏新刊『職業としての小説家』の買い占めの目的を確認してください。

これが問題定義と論点の出発点です。

今回の施策については詳しくは日経のこちらのページをお読みください。

簡単に言うと、村上春樹氏の新刊初版10万部のうち、9万部を紀伊國屋書店が買い占める。
そのうち3〜4万冊を自社で、残りを他社書店に供給する。
Amazonなどネット書店には出版社の手元に残った1万冊のうち5000冊しかまわさない、ということ。

で、紀伊國屋書店が表明したその目的は

「街の書店に、注目の新刊がなかなか行き渡らない現状がある。ネット書店に対抗し、全国のリアル書店が一丸となって出版流通市場の活性化をはかりたい」

出典は以下の朝日新聞デジタルサイト

よろしいでしょうか?

この買い占め作の目的は、ネット書店に対抗して、リアル書店に新刊を行き渡らせて、リアル書店にお客様に来ていただいて活性化することです。

ここ、ご理解いただきましたでしょうか。

僕の怒りは本を愛する者の義憤である

ではなぜこの紀伊國屋書店の買い占め施策に僕が怒ったのか。

まずこちらのライブドアニュースの記事をよーくお読みください。

この記事をしっかり理解していただきたいです。

通常の委託取引よりも高い価格で買い切りを要求しているのです。

この記事を読んで僕は怒ったわけです。

この施策は目的の「リアル書店の活性化」にはまったくの逆効果であること。
田舎のリアル書店ではむしろ入荷しないか、入荷数を減らすだろうと。

前回のエントリーをよく読んで欲しいのですが、僕は「事実上の独占販売」と書いています。

「事実上」とつけたのは、これまでの新刊がなかなか店頭に並ばないという経験から直感的に紀伊国屋にしか在庫がない状態になるだろうと予測したからです。

このエントリーに対して、「書店は注文したら配本してくれるのだから独占販売ではない」というありがたいご指摘をいただきました。

確かにそうかもしれませんが田舎の現実は違うのです。

僕は『職業としての小説家』を購入した9月17日からシルバーウィークあけの24日まで、近くのリアル書店を数件回って実際に見てきました。

その結果は

・紀伊國屋書店丸亀店 在庫山積み
・未来屋書店(綾川イオン) 店頭に4冊のみ在庫あり
・TSUTAYA郡家店 売り切れ(9月下旬に再入荷予定とアナウンスあり)
・宮脇書店3店舗(丸亀バサラ店、フジ丸亀店、琴平店) いずれも在庫なし(売り切れなのか、未入荷なのか不明)

というものでした。
この現状をどう判断しますか?

ちなみに、前回のエントリーを読んで、僕が近所の本屋ではなくわざわざ車で20分かけて紀伊國屋書店に買いに行かなくてはならなくなったことに怒っているのだと判断して、「紀伊國屋書店のネット通販があるではないか」と教えてくれる優しい方々もおいでましたが、さすがにもうお分かりでしょう、問題の論点はそこではありません。

それにネット書店に対抗する手段なのに紀伊国屋のネット通販を使うってどういうことですか?
一応言っておきますが、紀伊国屋のネット通販は知っていますし、僕も利用したことがありますのでご心配なく。

そしてもう一つ声を大にして言いたいのは、僕が個人的に本を購入するのに多少不便を被ったことだけに怒っていると思われるのは心外だということです。

そんな瑣末なことで怒っているのではありません。

かっこいい言い方を許してもらえるなら、これは私憤ではなく、本を愛する者の義憤であると言わせていただきたい。 

「街の書店に、注目の新刊がなかなか行き渡らない現状がある。ネット書店に対抗し、全国のリアル書店が一丸となって出版流通市場の活性化をはかりたい」

という目的のためと説明しているのに、

そもそも商売敵を締め出すというアンフェアな方法で、他店には新刊が行き渡りにくい状況を生み出し、全国のリアル書店が活性化するとはとても思えない施策であること。

そして遠回しに表現してもなかなか理解してもらえないので、本エントリーでははっきり言います。

要は、

紀伊國屋書店が絶対売れそうな超人気作家の新刊を買い占めて、自分のとこだけ儲かったらいいという施策なのではないのか?

ということです。

こんなことをされたら、読者に不便がかかるだけでなく、地方のリアル書店が活性化どころかますます停滞していくことになるんじゃないかというところから僕は怒ったわけです。

そしてこれが論点の一つ目です。

「紀伊国屋書店のこの施作が、目的のために有効かどうか」です。

この論点で意見がございましたらコメント頂きたいと思います。

僕が本当に心配しているのは、「このままでは近い将来リアル書店が消滅する」ということ

僕が怒った理由にはもう一つ背景があります。

それは「このままでは近い将来リアル書店が消滅する」のではないかという心配です。

前出の日本地社販促センターのHPを御覧ください。

1999年から 2014年までに 8,353軒の書店が減少しています。16年間の減少平均を出すと、522件になります。仮にこの推移で続くとなると、2022年には 9,945店前後になるだろうと予測できます。

さらに、現在14000店弱の書店がありますが(2014年)、店頭に実際に本を並べている書店数はもっと少なくて、店売りしている書店は10800件前後ではないかというのです。

この書店が減少しているという実感はすごく感じています。

例えば香川県らしい例を紹介しましょう。

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この2件のうどん店の店舗、いずれも元書店です。

この他、ソフトバンクショップになったり、学習塾になったりと、どんどんリアル書店が廃業しています。

このまま書店が減少し続けたら、リアル書店空白地帯が出てくるでしょう。
香川県はもともと面積の狭い県なので、まだそこまでは至っていませんが、面積の広い県ではもうリアル書店空白地帯が生まれているのではないかと思います。

そこで便利なのがネット書店というわけですが、子どもやお年寄りは本との接点が希薄になります。
子どもたちは学校図書がありますからまだましですが、図書館もない地域のネットの使えないお年寄りはどうなるのでしょうか。

僕はリアル書店というのは、実は大きな責務を背負っていると思っています。
その国の教育・教養の基礎の部分。
そして表現の自由の一端を担うという観点から民主主義の基礎でもある。

「なにをおおげさな」思うかもしれませんが、僕は30年近く前の中国上海で立ち寄った本屋さんでそれを実感しました。

だから子どもたちには気軽に寄れる街の本屋さんが残っていて欲しいし、これから本格的に高齢化社会になってもお年寄りが近くの本屋さんを気軽に利用できる環境は残っておいてほしい。

もちろん、僕が本好きで、なによりも本に囲まれている空間が好きだというのもありますが、リアル書店にはネット書店が完全に取って代わることができない存在価値があると思っているのです。

だからこそ、今回の紀伊國屋書店の施策はまったく納得の行くものではありませんでした。

ネット書店が脅威だというのはわかります。
しかし、ネット書店と対抗して、リアル書店にお客様が来てもらえるようにする方法は、もっと他の方法でするべきだと思います。

リアル書店がネット書店に対抗する方法は他にある

これが論点の二つ目です。
リアル書店がネット書店に対抗する方法は必ずあります。

それは前回のエントリーでも書きましたが、リアル書店のネット書店に対する最大のアドバンテージであるお客さまと直接触れ合えることを利用することだと僕は確信しています。

身もふたもないことをいいますが、本という商品は日本中どこで買っても同じ。
しかも値段も同じ。

だったら、クリックひとつで注文できて、当日かもしくは翌日には家まで届けてくれる便利なネット書店を利用するのに決まっているじゃないですか。

リアル書店はこの便利さに勝る魅力を身につけなければならないわけでしょ?
しかし新刊の入荷スピードでは勝てない。
品揃えでも勝てない。

だとすれば答えはかなり絞られてきます。
マーケティングでよく言うところの、「何を買うか」は決まっているわけですから、狙うのは「どこで買うか」、そしてその究極は「誰から買うか」でしょう。

たとえばTSUTAYAさんはカフェを併設したり、図書館と組んだりと面白い試みをしていますよね。
ゆっくりまったりと本のある空間を楽しみたい方にはとっても魅力的。

また、ヴィレッジヴァンガードさんは(本屋と呼んでいいかちょっと悩みますが)、おもしろ雑貨と本の組み合わせでお客様を楽しませてくれます。
僕も大好きです。

こういう他店との差別化の取り組みは、「どこで買うか」に有効でしょう。

ただし、体力のない街の本屋さんにはなかなか出来ないですよね。
とすると、街の本屋さんが狙うのは「誰から買うか」しかない。

きめ細かいサービスとコミュニケーションで客をファン化させるのです。
この方法、全然珍しい手法でも何でもなくて、異業種の小売店ではよく見られるし、ビジネス書のマーケティング本でもよく書かれているものです。

前回のエントリーで

リアル書店のネット書店に対する最大の強みはお客様(読者)と直接触れ合えることだ。 しかし、生まれてこの方、リアル書店で店員に声をかけられたことがただの一度もない(某東京池袋の一店を除いて)。 「何をお探しですか?」「先日お買い上げいただいた本どうでしたか?」「この本を読まれるならこちらもおすすめですよ」 他の業界の小売店なら普通に行われているお客様との会話が、リアル書店で経験がないとはどういうことだろうか。
という記事を書きました。これに対して
あと、本屋で「どんな本をお探しですか?」って、馬鹿ですか?どんな内容の本なのかをあの膨大な書籍の本を読み込んで覚えておけと? 本は洋服のような、一目で内容が理解できるものではありません。 そんなこともわからないのでは、頭の悪さが露見しますよ。
というコメントを頂きました。

日本では一日に200冊の新刊が出るわけで、その全てに目を通すことなど不可能です。
だれもそんなことやれなんて言ってないし、一言も書いてないでしょ。

しかし、扱う商品に対してもっと知識を深めていただきたい、ということは強く要望したいです。

文芸なら文芸、ビジネス書ならビジネス書の分野だけでもいい、せめて、定番とか古典的名作ぐらいは読んでおいてもらいたい。

それでもすごい冊数になるでしょうが、ネット書店に勝つためにはその努力は必要だと思います。
なぜならば、”本の目利き”がいないリアル書店は魅力がないからです。

昔、ジュンク堂書店さんに初めて行ったとき、棚に並んでいる本を見て感動しました。
棚係の選書が圧巻だったからです。

データ配本ではない、人間の”本の目利き”による選書は、本好きにとっては感動するのです。
それはネット書店にはない魅力です。
あそこに行けば本との出会いがあるんじゃないかという期待感は、リアル書店に足を運ぶ大きな理由になります。

そして、”本の目利き”がいる書店で、お客様とのコミュニケーションがあると最高です。
それを実感させてくれたのが東京池袋にある天狼院書店です。

何時間いてもいいし、カフェも併設したりして居心地の良い空間を演出しているのも魅力ですが、なによりも店主が”本の目利き”であり、お客様と本談義ができるのです。
しかも読書会も主催されている。

基本的に本屋さんに通う人の中にはコアな読書好きが多いわけです。
そして好きなものについて語り合うのって非常に楽しいですよね。

だから巷では”読書会”なるものが存在しているわけですが、読書会を開いている本屋さんってどれくらいあるのでしょう?

残念ながらあまり聞いたことがありません。

もうひとつ例を紹介しましょう。
うちの母は、70歳になりますが読書好きで、話題になった文芸書はけっこう読んでいます。

先日も僕は『火花』を母から借りてきました。

www.s-ichiryuu.com

さて、母はまだ車の運転をしますが、最近はかなり億劫になっています。
しかし、スマホもPCも使えないのでネット通販は利用できません。

では、どうやって購入するのかというと、馴染みの書店に電話して持ってきてもらうのです。
そして、いつも持ってきてくれる書店員さんとあれこれ世間話をしたり、おすすめ本を教えてもらったり、新刊情報を聞いたりします。

これ、お年寄り向けのサービスではなくて、例えば僕が職場から電話しても配達してくれます。
しかもしっかり、「こんな本いかがですか」なんてセールストークもあります。

要するに本の御用聞きなのです。
実店舗は非常にこじんまりしたお店で、僕も高校生のときよく通いましたが、学習参考書のアドバイスなどもしてくれました。

これからうちの実家近辺はどんどん高齢化が進んでいきますが、こんな本屋さんがあると母のような本好きにとっては心強いと思います。

最後に、

前回のエントリーで

「何をお探しですか?」「先日お買い上げいただいた本どうでしたか?」「この本を読まれるならこちらもおすすめですよ」 他の業界の小売店なら普通に行われているお客様との会話が、リアル書店で経験がない
と書きました。

これ、気がついた方がおいでるかもしれませんが、

「何をお探しですか?」
「先日お買い上げいただいた本どうでしたか?」
「この本を読まれるならこちらもおすすめですよ」
この3つのキーワードは意識して書きました。

種明かしをすると、この3つはAmazonが取り入れているのです。

・「何をお探しですか?」→ これは検索システム。ネット書店がもっとも得意としているところです。

・「先日お買い上げいただいた本どうでしたか?」→ レビューですよ。購入するとしつこく書け書けとメールしてきますよね。そして書いたらレビューを読んだ人に評価される。

・「この本を読まれるならこちらもおすすめですよ」→ 「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というやつですよ。

Amazonがすごいなと思うのは、自分たちの最大のハンデであるお客様とのコミュニケーション不足をこうやって解消しようとしているところです。

以上長々と書いてきましたが、ネット書店にリアル書店が勝つ方法は絶対にあると思います。
その最大の武器は”書店員の人間的魅力”、そしてコミュニケーションだと僕は考えています。

この点についてご意見がある方はぜひコメントしてください。
お待ちしております。

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