おはようございます。
人生こそが最大のギャンブルだと気付いてから、一切ギャンブルに手を出さなくなった一龍です。
さて、今日ご紹介するのは企業の”賭け”方の本。
市場経済そのものが一種の賭博場、当たるかどうかわからない製品やサービスを”賭け”続けるのが企業なわけですが、豊富な具体例を読み進むうちに、色々な示唆に富んでいる本だということが事がわかります。
実はこれ、マネジメント本なのですよ。
【目次】
はじめに
第1章 『大きな賭け』対『小さな賭け』
第2章 成長志向のマインドセット
第3章 素早い失敗、素早い学習
第4章 遊びの天才
第5章 問題は新しい答え
第6章 質問は新しい答え
第7章 大から小を学ぶ
第8章 小から大を学ぶ
第9章 小さな勝利
第10章 あなたの『小さな賭け』
【ポイント&レバレッジメモ】
★クリス・ロックの小さな賭け
1回の演し物を完成させるまでにロックは、(何千回とまでは言わなくとも)何百回ものリハーサルをする。無数のアイデアのうち、本番まで生き延びるのはほんのひと握りだ。面白いジョークには普通、6つから7つの要素がある。クリス・ロックほどの経験があるコメディアンでも、観客にウケるのにどの要素がどのくらい貢献しているかを判断することは難しい。<中略>
クリス・ロックほど成功したコメディアンがこうして毎夜、毎夜、失敗に身をさらしていると聞くと、多くの人は驚く。しかしロックは、抱腹絶倒するようなジョークのアイデアがそのままの形で頭に浮かぶことなどまず絶対にないことをよく理解している。すばらしいアイデアは、組織的で過酷な試行錯誤の過程からしか生まれないのだ。
★実験的イノベーター
クリス・ロックやサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジ、ジェフ・ベゾス、そしてベートーベンなどの実験的イノベーターは、これからやろうとしていることを始めからあまり深く分析はしない。標的が未知であるのに、あまりに狭い範囲に目標を絞り過ぎることになるからだ。それは1回の賭けですべてを得ようとすることにつながる。実験的イノベーターは、「こうすれば成功するはず」という計画を細かく立てる代わりに、何をなすべきかを知るために今できることをさっさとやる。彼らは「小さな賭け」を繰り返すことで驚異的な成功を収める。
★「小さな賭け」の原則
・実験する
・遊ぶ
・没頭する
・明確化する
・出直す
・繰り返す
★アメリカ陸軍とデザイン
「時にエラーを犯すのがクールなことなんだと考えさせなければいけない。つまり事なかれ主義の安全策をとってはならないと覚え込ませなければならないのだ」とハスキンズは言う。
意外に聞こえるだろうが、この変化を浸透させるため、アメリカ陸軍は思考に対するデザインの適用に取り組んでいる。アメリカ陸軍の精鋭中の精鋭を集める権威ある指揮幕僚大学高等軍事研究スクール(SAMS)には、「デザイン研究コース」が設けられている。合衆国陸軍野戦教範FM5-0「作戦のプロセス」第3章のテーマが、まさに「デザイン」だ。そこにはこう定義されている。
「デザインとは、複雑かつ把握困難な様相を呈する問題を解決に導くために、批判的かつ創造的な思考を適用してそれらの問題を理解し、視覚化し、描写するための方法論である」
★「許容し得る失敗」
「小さな賭け」というアプローチは、失敗の可能性を前提としている。だから「許容し得る失敗」は、「小さな賭け」のもっとも重要な要素のひとつだ。あらゆる種類の創造的な過程では失敗――数多くの失敗――を覚悟しなければならない。冒頭でピル・ヒューレットの「小さな賭け」が大成功を収めた例を見てきたが、この成功の陰には無数の小さな失敗があったことを忘れてはならない。<中略>
「小さな賭け」アプローチを実践して成功を呼び込むためには、「失敗」に正しく向き合う心構えが重要となる。実験精神に富み、イノベーションを成功させた人々は、失敗を必然的なものとして受け止めるだけでなく、目標を達成する上で不可欠の要素と考えている。クリス・ロックは毎夜毎夜、無遠慮な観衆の前でウケないジョークを披露してもめげない。そこで得られた数少ない笑いが、本番のショーを成功させるために決定的に重要な役割を果たすことを知っているからだ。
★ピクサーの成長志向
事実、エド・キャットムルは、ピクサーの創造的プロセスについて、「『つまらない』から『つまらなくない』へと変える作業だ」と要約する。ピクサー映画のアイデアは、ラフ絵コンテから始まる。この絵コンテは当初、「つまらない」。それが何千という難問を苦労して解決していくうちに、しだいに磨き上げられ、「つまらなくない」ものに完成していくのだ。もちろん、失敗すればいいというわけではない。重要なのは失敗から系統的、組織的に学んでいく態度だ。何がうまく行き、何がうまく行かなかったかを詳しく観察し、その情報から教訓をくみ取る。ピクサーは過去の11作がいずれも連続して大ヒットするという驚くべき記録を残しているにもかかわらず、キャットムルは口癖のように
「成功は問題を覆い隠す」と言う。ピクサーの社風の大きな特徴は、「凡庸さ」を恐れることだ。問題の発見、対応策の議論、対策の実行は常にオープンにされる。
★「素早く学ぶために素早く間違える」
「私の戦略は昔から決まっている――間違うならできるだけ素早く間違えろ。言い換えれば、『われわれは誰でも間違える。さっさとそれを認めればよい』ということだ。間違えることを恐れてはならない。早く間違えれば、それだけ正しい解答を得るのも早くなる。思春期を過ぎずに大人になることはできない。私は最初から正しいやり方をすることは、できないかもしれない。しかし、非常に早い時期に、間違ったやり方をすることはできる」
ピクサーの長編アニメ、『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』の監督、アンドルー・スタントン
【感想など】
とにかく内容が濃いです。
洋書らしく具体例がこれでもかというぐらい豊富なので、本書全編にわたってピックアップしたい内容がてんこ盛り。
(しかも翻訳が読みやすい。この訳者さん、いい腕してます)
今回の【ポイント&レバレッジメモ】は前半3分の1までの内容で泣く泣く自主規制しました。
で、本書のテーマはタイトルの「小さく賭けろ!」が物語っていますが
ひとつのアイデアにあまり深入りしていない時点でなら、われわれは失敗しても感情的にも現実的にも、失うものが少ない。われわれは失敗による損害にさほど心を悩ませることなく、失敗からどんな教訓が学べるかに注意を集中できる。思考を即座に活性化し、実験的アプローチの方向を定めて組織化していくのに、プロトタイプの利用はもっとも効果的な方法のひとつだ。
と本書内にあるように、「とにかく試してみる」ということに尽きます。
具体例で登場するのが、アメリカトップクラスのコメディアンや建築家、Google、ヒューレットパッカード、そしてワタクシが尊敬するスティーブ・ジョブズのAppleやピクサー、さらにはアメリカ陸軍といったそうそうたる顔ぶれなので、一瞬「うちの職場とは関係ないかな」と思ってしまう方もいるかもしれません。
が、考えてみれば、どんな職種でもどんな職場でも、あるいは新製品開発でも通常業務の改善でも、
「ちょっとここを変えてみませんか?」「こういうのやってみませんか?」「こんなのおもしろくないですか?」
といった会話、職場でも、飲みの席でもありますよね。
問題はこの時の周りの、特に上司の反応。
「お、それ面白いな、やってみようぜ」「ああ、いいところに気がついたな。それ試してみよう」といった反応が、あなたの職場では返ってきますか?
もしそうなら、あなたの職場は「小さく賭ける」ことを日常的にやっている、そしてそういう精神が根付いている活気のある職場だと思います。
逆に、「いいアイデアだけど予算がなぁ」とか、即座に「それは無理だろうなぁ」なんてろくに考えもせずに脊髄反射のように返してくる上司だったらかなり硬直していて閉塞感を満喫できる職場ではないでしょうか。
そして、こういう上司のもとでは、「何を言ってもムダ」「言うだけ損」という空気が流れていて、なんと言うか、あきらめムードと言いますか、白けたムードが漂っていますよね。
ワタクシは今まで転職したことはありませんが、何度か転勤を経験したなかで、上記の2種類とも経験しました。
そこで感じたのは、”上司の質”が空気を作るということでした。
あまり管理職の方々ばかり責めてはいけないのでしょうけど、やはり管理職の姿勢ってとっても大きいですよ。
本書にはトップが変わってがらりと会社が変わったヒューレットパッカード社の例が登場しますが、ワタクシもトップが変わって組織ががらりと活気づいという経験があります。
その方は仕事に対する姿勢がすごく厳しい方で(人目をはばからず部下を怒鳴りつけることもありました)したが、その一方では「ほんまにやりたかったらやったらええんや。責任はワシが取ってやる」という親分肌。
昨年まで白けムードだった職場が、若手を中心に一気に活気づきました。
考えてみれば、自分のアイデアを上手くいくかどうかは別として、”試す”ことを許容してくれる職場は楽しいですよ。
それは人間の基本的な欲求の一つである”承認”なのですから。
今、ワタクシは管理職に近い立ち位置になっています。
まだまだ自分が”小さな賭け”をしなければならないのですが、同時にチームのメンバーの”小さな賭け”を承認する立場にもあります。
この立場になってはじめて、”承認”するのは勇気のいる事だというのが実感できました。
そんなに肝の座った人間ではないので、事なかれ主義といいますか、「前例がないから」とか、逆に「今までやって来た事だから」とか、つい言いたくなるんです。
だって楽ですもんね。
でもそれをすれば、自分の価値って何?存在意義って何?、と思うわけです。
上司の意向をチームに伝えるだけならメールでええやん。
締め切りまでの進捗状況を調整するのであればガントチャートでええやん。
去年と同じ事をしていたらええんやったら、自分いらんやん、と。
今回本書を読んで思った事、それは
イノベーティブな雰囲気を作り出し、小さな賭けをできる環境を作る事こそがマネジメントなんじゃないかと。
世の中の管理職のみなさん、”お試し”いいじゃないですか、”実験”大いに結構。
「ほんまにやりたかったらやったらええんや。責任はワシが取ってやる」、これが言える管理職が増えれば日本は変わるかもしれませんよ。
本書は日経BP社、東城様より献本していただきました。
ありがとうございました。
【関連書籍】
<本文中で引用・紹介されている本>
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