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いつかあなたの武器となる【書評】榎本 まみ『督促OL 修行日記』 文藝春秋

おはようございます、日曜日の夜は毎週ポンポンペイン(腹痛)になる一龍(@ichiryuu)です。

さて、今日は年間2000億円回収する督促OL、榎本まみさんのデビュー作のご紹介。
とにかく面白い!。

そして、「仕事行きたくないなぁ」なんてこの本読んだら恥ずかしくて言えなくなりますよ。

 

【目次】
はじめに
01 ここは強制収容所?
02 ”ブラック部署”の紅一点!
03 ストーカー疑惑と襲撃予告
04 なぞの奇病に襲われる・・・
05 自分の身は自分で守る
06 N本、大抜擢される
07 自尊心を埋める
08 濃すぎる人間修行
09 センパイ武勇伝
10 合コンサバイバル
11 仕事からもらった武器と盾
おわりに

【ポイント&レバレッジメモ】

★悔しさと意地を捨てる

 自分が成績を上げたいからと苦手なお客さまを抱え込んでいても、いいことなんてない、と私は悟った。それからは、自分では難しいと判断したお客様は強く言える男性社員にお願いし、逆に私は男性だと家族が警戒して電話を取り次いでくれない女性のお客様を引き受けることにした。

 おかえしという気持ちで始めた女性への督促だったっけど、今までどんな男性が電話をかけても話すことができなかったお客様でも、私が電話をすると繋がるようになり、いつもよりも早く回収できる債権が現れた。
 人には長所短所が必ずある。もしどうしても自分で回収できないのなら、プライドをしまって他人に頼めばいい。誰だってできないことがあるし、それを自覚することも一つの成長なのかもしれない。

★不幸になる仕事

 仕事ってなんだろう?
 お金を稼ぐために、生活をしていくために、しなければいけないものだけど、人生にとって仕事がマイナスになっちゃダメなんじゃないの?仕事が原因で働けなくなるとか、幸せでなくなるというのはおかしいんじゃないだろうか。

★感情労働

 督促やコールセンターの仕事は「感情労働」と呼ばれているらしい。<中略>
 感情労働は自分の感情を抑制することでお金を得る。「心を売る」なんて言葉があるけれど、まさにそれだ。<中略>
 感情労働をする人々は、たとえお客様に一方的に罵詈雑言を浴びせかけられたとしても、反論せず黙ってそれに耐え、相手のプライドを満たし満足させることを求められる。
 感情労働は心の疲労の問題が深刻なのだそうだ。肉体労働や頭脳労働の疲れは休息を取り、体や頭を休めることによって解消されるけれど、感情労働による心の疲労は、一日寝たからといって解消される保証はない。こうして心に疲労を蓄積させた結果、感情労働をする人が心を病む確率は他の労働よりも高い。

★「私は謝罪するプロだ」作戦

 そこで私が考え出したのが、「私は謝罪するプロだ」作戦だった。
 例えば50万円のお金を借りているお客様に怒鳴られて、謝らなければいけない時は、この一謝りが50万!と金額に換算する。<中略>
 「ごめんなさい」と謝ることをお金に換算するのは、まさに心を売る感情労働。でもただ理由もなく謝罪を強要されるよりは納得できる。
 プロのスポーツ選手が、アマチュアの選手と違ってものすごくストイックな食事制限やトレーニングに耐えるのは、もちろん結果を出すためでもあるけど、自分が「プロ」だと思っているからじゃないだろうか。「プロ」とは、それでお金をもらう。たとえお客様に理不尽な言葉で罵られたって、「私は督促のプロだ、これで食べてるんだ!」と思えば仕事のうちだと割り切れる。
 プロ意識を持つこと。これは他人のためではなく自分の心を守るためにも役立つ一つの手段なのだ。

★話し方に自信をつける方法

 「とにかく、ゆっくりしゃべって。そうしたら自信がありそうに聞こえるから」<中略>
 督促をする私たちがゆっくりしゃべると、お客様もつられてゆっくりしゃべってくれる。人間、怒ってる時は自然と早口になってしまうが逆にゆっくりした口調で怒ることは恥ずかしい。だからゆっくりしゃべると、穏やかな雰囲気で交渉をすることができる。
 こうして先輩方はついつい険悪になりがちな督促の電話でも印象良く会話することに成功していたのだ。

 この「ゆっくり=自信」という法則は、電話だけじゃなくて行動にも当てはまる。
 せかせかと早口でしゃべる人、きょろきょろと挙動不審にあたりを見回す人、こういった人々はあまり自信があるようには見えない。逆に落ち着いた声でゆっくりとしゃべる人や慌てず余裕のある動作で動いている人はとっても優雅で自信がありそうに見える。
 なるほど、自信って「ゆっくり」した動作の中から生まれてくるんだなぁと、督促のテクニックからまた一つ発見をした出来事だった。

★弱者には弱者の戦い方がある

 仕事をしていると、どうしても正攻法では歯が立たない場面がある。だけど、そういうときにも意外と裏道が用意されていたりする。もし、どうしても「ココができない!」という壁を感じているとしたら、その壁を乗りこえようとするのもいい。でも、もしかしたらどこかに穴があるかもしれない。正攻法でいかないのはずるいかもしれないけれど、弱者には弱者の戦い方があるのだから。

★仕事からもらった武器と盾

 古戦場のようなコールセンターで働くうちに、いつの間にか自分の体にはたくさんの言葉の刃が突き刺さっていた。でも、その一本を引き抜くと、それは自分を傷付ける凶器ではなく剣になった。その剣を振り回すと、また私を突き刺そうと飛んでくるお客様の言葉の矢を今度は撥ね返すことができた。それから、仲間を狙って振り下ろされる刃からも仲間を守ることができるようになった。そうか、武器は私の身の中に刺さっていたのだ。
 仕事する中で誰かから傷つけられることはたくさんあったけど、そのおかげでできるようになったこともたくさんある。今まで私が先輩やお客様からもらってきたのは、これからより強く生きていくための武器と盾だったのだ。

【感想など】
いやぁ、面白い。
ある意味、今年読んだ本の中でいちばんインパクトがあり、面白い本でした。

読書の楽しみには色々あると思いますが、その一つに疑似体験がります。
つまり、読書することで、他人の人生を生きる、他人の経験を共有するというものです。

しかも、望んでも無理なもの、絶対に望まないもの、いろいろな経験をすることができます。

例えば、スティーブ・ジョブズの伝記を読めば、自分では絶対にその地位に成れない(?)であろうAppleのCEOを経験できるし、齊藤正明さんの本を読めば絶対に望まないマグロ船の体験できる。

で、本書の場合、こういう言い方をすると失礼なのかもしれませんが、まずワタクシは望まないであろう督促というお仕事。

督促という仕事があることは知っていました。

ワタクシは今まで一度も消費者金融のお世話になったこともないしカードの支払いを延滞したこともないのですが、昔、大手消費者金融のT富士から督促のメールがきたことがあったのです。

身に覚えのない”支払え!”メールに頭にきて電話したら、非常に礼儀正しく、しかもやんわりと応対され、結局お金を借りた人が間違ったのか故意なのかはわかりませんが書類に書いたメールアドレスがワタクシのアドレスだっただけだということがわかり、きちんと対応していただいた経験がありました。

しかし本書を読んで改めて、こんなにキツイお仕事だったとは!ただただ驚きです。

それにもう一つ驚きだったのが、著者さんとのギャップ。

実は本書の著者さんに、ワタクシお会いしたことがあります。
今年の春に上京した際に参加した「ビジネス書祭り」で、隣の席だったのが榎本まみさんでした。

参考記事:「ビジネス書祭り」に参加しました!【セミナー&旅日記】第3次東京遠征(3月3日)

とってもキュートな方で、初対面で美人さんとうまく話せないワタクシは名刺交換はしたものの、その後全然お話しできなかったのですが、その名刺に”督促OL”と書かれていて、外見とそのお仕事とのギャップに驚いた記憶があります。

しまったなぁ、あのときもっとお仕事のこと聞いておけばよかった・・・

それにしても想像以上にキツイ仕事ですね。

そもそも「感情労働」という言葉自体を本書で初めて知ったのですが、正直言ってワタクシはどんなにお金を積まれてもやりたくないというかできないだろうな。

だって、どう考えても理不尽なことをグッと我慢し続けるなんてほとんどの人が無理でしょう。
(借りた金を文句言わずに返すのはあたりまえだろ!)

というのも、この本を読みながら思い出していたのが「マズローの欲求階段説」だったのですが、督促のお仕事はマズローが提示した人間の欲求の5つの段階どれに対しても赤信号をともしているように思えるのです。

長時間労働、不規則なシフト、睡眠不足、客からの罵倒と脅し、厳しいノルマ。
これらは生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求といった人間の基本的な欲求である5段階のうちの基礎3段が満たされていないことになります。

そしてなによりも、ワタクシが読んでいてキツイなぁと思ったのは、督促の仕事が誰からも感謝されることがない仕事であること。

これは4段目の承認の欲求にあたります。

世の中にはキツイ仕事というのはたくさんあるのだろうけど、そういった仕事で支えとなるのが「お客様の感謝の言葉」だったり、誰かの役に立っているという他人からの評価や自分自身の自己尊重感だと思います。

無給のボランティアに多くの人が参加するのも、他者からも自分自身でも承認されるからです。
しかし督促のお仕事はそれを求めることができない。

これら4つの段階が満たされないとなると、5段階目の自己実現の欲求も期待することはできず、その仕事はただひたすら苦行となります。

それはもうほとんどの人が耐えることはできないでしょう。
現に、著者の同僚のほとんどが辞めていきます。

しかし、そんななか著者は辞めなかった。

なぜ続けられたのか、どうすればキツイ仕事でも続けられるのか。

これこそこの本の読むべきポイント。

興味本位に読んで、「うわ、督促ってこんなきつい仕事なのか」で終わってしまっては、本書はあまりにもったいない。

不景気が続いて、特に若い世代のビジネスパーソンには厳しい労働環境を強いられ、しかも先が見えないという精神的圧迫もある。

そんな時代だからこそ多くの若いビジネスパーソンにこの本は読んで欲しい。

キツイ仕事の中でも、「悪口事典」なる楽しみを見出したり(これワタクシもやってみようかな。弩Mだな 笑)、先輩たちとそれぞれが苦手な分野を補完し合ったり。

今自分が置かれている状況や精神状態を改善できる方法はどんなキツイ職場にもあるものです。

そのあたりのことをぜひ本書を読んで感じて欲しいです。

どんな職場でも何とかなるものだ!
そんな勇気をもらえる1冊です。

ちなみに、督促OLのコミュ・テク! というコラムコーナーは、コールセンターで働いている人には直接役立つテクニック満載ですので、同業者は必見。 

本書はエリエス・ブック・コンサルティングの大角様より献本していただきました。
ありがとうございました。

2 COMMENTS

白取春彦

市役所から住民税の一部についての督促の葉書が来ました
しかし、私は二週間前に数百ユキチ支払っております
私は市役所に抗議をしに行くべきでしょうか
それとも、二重に支払いに行くべきでしょうか
あるいはまた、武士らしく自刃すべきでしょうか
それにしても、宝島社の仕事の締切、あと十日しか残っておりません
わたしは猫をつれて海外逃亡すべきでしょうか

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讃州屋 一龍

白取先生は武士じゃないからお腹を召される必要はないかと。
それに猫を連れて海外逃亡は税関が面倒くさいと思うので、日本で原稿を書いてください。
さすがミリオンセラー作家は支払う額も違いますね。
地域のためにじゃんじゃん払ってください(笑)。

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