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ソーシャルの波はもう止められない【書評】立入勝義(著)『検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか?』(ディスカヴァー携書)

 

検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? (ディスカヴァー携書)

検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? (ディスカヴァー携書)

  • 作者:立入 勝義
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/06/16
  • メディア: 新書
 

 

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3.11、東日本大震災。
あの日、津波が襲い、多くの人命が失われました。
しかし、日本に押し寄せたのは津波だけではありませんでした。地震の直後からソーシャルメディアの波が日本はおろか世界を覆ったのでした。

 

【目次】

はじめに  そのとき、僕は・・・
第1章 地震の余波と4つのソーシャルの波
第2章 ソーシャル論争の波 ~光と影~
特別章 証言集 ~ソーシャルメディアを通じて見た震災~
第3章 海外世論の波
第4章 わたしが目撃した国内外の震災復興支援の波
第5章 これからの日本に到来するもう一つの波
あとがき  復興に向けて

【ポイント&レバレッジメモ】
★地震の余波と4つのソーシャルの波
◇ツイートの波、センチメントの波

 「一喜一憂」という表現はツイッターが得意とする伝達情報のひとつ、「センチメント」(sentiment)をうまく描写するものである。簡単に言うと、「感情」のことだ。ソーシャルメディア・ツールの中でも、140文字という決められた字数で「つぶやく」ツイッターでは、ユーザーが互いに伝えるコンテンツの最たるものは、「情報」とこの「センチメント」となる。

震災直後から、「今揺れた!」というようなコメントがツイッターのTLを駆けめぐるようになり、震災から40日以上たった今でも続いているが、これは単なる情報の発信だけではない。
 そこには、地震の発生についての情報共有の意味合いと、いわば「運命共同体」としての精神的な拠りどころという2つの側面があったのではないだろうか。

◇ストリーミング放送の波
 

公共放送であるNHKがなんと、今回の震災では、世界に向けてインターネット上でのストリーミング放送という前代未聞の柔軟な対応をとったのだ。これは国内はもとより、各国のマスメディアも大いに注目すべき快挙だった。

 最初の驚きは、このきっかけをつくったのが、広島県に住む中学2年生の男子生徒だったことだ。<中略>始まりは、11日の地震の直後にこの男子生徒が無断でNHKのテレビ放送をウェブカメラを通じてUst上で配信し始めたことだった。
 このことを伝えたいくつかのブログによると、彼は「〇〇〇にお住まいに方は避難してください」といった地震速報の重要な部分を読みあげたりもしていたという。Ustだから、視聴者同士、コメントのやり取りもできる。知ろうとなだけに画像の質はよくなかったようだが、視聴者数は順調に増え続け、一時は4万人にも達したようだ。

 

 やがて、あるユーザーがこの事をNHKの公式ツイッターアカウント(@NHK_PR)に伝え、拡散ツイートするように提案した!無断配信行為をNHK自ら広く周知させてくれ、とNHKに提案すること自体驚きなのだが、さらに驚くべきは、それを受けてNHK公式アカウントはこれを本当にリツイートしたことだった。しかも感謝の言葉とともに。
 その後、NHKアカウントに対して配信が許可されているものなのかを問いかけるツイートがある。それに対して、NHKアカウントはひと言。
 「私の独断なので、後で責任は取ります」

◇YouTubeにアップされた国境を越えた動画の波

 毎日マスコミで報道される津波の映像や地震の被害の映像は、動画アーカイブサイトのYouTubeにアップされる。これが次の波だ。
 ストリーミング放送は生放送だから、そのタイミングを逃すと閲覧することができない。しかし、YouTubeを使えば、貴重なタイミングを逃したユーザーにも後から見てもらえる。<中略>
 かくして、個人発信からマスメディアはつのものまで、東日本大震災をめぐるおびただしい量の動画がYouTubeに投稿された。そのひとつ、宮城県のユーザーが投降した自宅の揺れを伝える動画は1800万回以上閲覧されている。

◇フェイスブックやソーシャルゲームで盛り上がった復興支援の波

 世界中から日本への応援メッセージを集めたPray for Japanと名づけられたサイトなど、ネット上には続々と、日本の復興を支援するコミュニティが立ち上がった。
 このとき最大の効力を発揮したのが、フェイスブックに代表されるSNSだった。とくに、簡単にグループやファンページを作成し共有できるフェイスブックの機能は、こうした支援活動に最も適していた。

★デマと風評の被害
◇【拡散希望】ツイートの罠

 震災直後のTL上には「拡散希望」という文言から始まるツイートが散見された。どんどん拡げてくれという意味だ。センチメントがリアルタイムで瞬時に伝播されることが、ソーシャルメディアの強みであり、同時に最大の弱点ともなりうる。
 ジャスミン革命などで見られた集団行動を後押しするのが最高の増幅効果だとすれば、最悪の増幅効果は間違った情報、あるいは恣意的・扇動的なデマが一瞬にして伝播してしまうことといっていいだろう。
 このように、ソーシャルメディアの世界では、一度炎上したらその火を鎮火するのは容易ではない。センチメントの琴線に触れるような発言をする際には、細心の注意が必要だ。

★東電とマスメディアの報道があたえた変化

 今回、東電をめぐる一連の記者会見では、まずメディア、フリーランサー、オンラインメディア、海外メディアという立場の違いが区別され、一部の記者が参加を拒まれて問題になったことは、ご存じの方も多いと思う。
 東電は、資産13兆円という世界最大規模の民間電力会社であり、広告業界にとっては大事なお得意さんだ。つまり、マスメディアもスポンサーの意向には逆らえない、というわけで、ネットで会見の様子を見ていたわたしも、大手のメディアが東電に対してどちらかというと控えめな態度をとっているのが明らかな場面に多数出くわすことになった。
 ネットユーザーの多くは、このようなマスコミの態度に業を煮やし、何のしがらみもなく忌憚のない意見を述べるフリーランスのジャーナリストやソーシャルメディア上のインフルエンサー達の意見に耳を傾けることになった。

★地震で証明されたツイッターの機能

「ツイッターは今回の東日本大震災で、ライフラインとして次の3つの機能を果たすということが証明された。
1 愛する者につながるということ(ダイレクト)
2 生死を決めるような情報を収集するということ(リアルタイム)
3 状況とソリューションをマッピング(紐づけ)するということ(ハッシュタグ)
<ライフラインとしてのツイッター>という新しい役割が誕生したのです」

(ツイッター広報担当、近藤正晃ジェームス氏)

【感想など】
3.11、東日本大震災は本当に多くのことを浮き彫りにしたと思います。

世界の称賛に値する、日本国民の我慢強さ、秩序の良さ。
そして、助け合いの精神。

その一方で、無能な政治家たちの体たらく。
東電の隠蔽体質と、それに強く出れないマスコミ。

日本社会の良い面も負の面もハッキリと世界に向けて示してしまったと思います。

そういった、地震で浮き彫りにされたモノのひとつがソーシャルネットワークの実力ではなかったでしょうか。
「マスコミ消滅」とか「ソーシャルネットワーク革命」といった言葉を、2009年頃からよく耳にするようになっていましたが、本当のところはどうなのか?

ワタクシ自身はツイッターを楽しんでいる者ですが、これだけツイッターがもてはやされても、自分の周りにはツイッターをやっている人は一人もいません。

それに、斜陽産業だと言われているはずのテレビですが、相変わらずの影響力をもっています。

時代の変革期にあることは感じているけれど、ではその変革はどれくらい進んでいるのか?、今ひとつ実感がありませんでした。

しかし、あの地震の日、ソーシャルネットワークの存在感と威力を強く感じたのはワタクシだけではないと思います。

あの日のツイッターは本当に頼もしかった。
しょっちゅう不具合が生じて、クジラが吊るされている画面(←ツイッターをやっている人にはおなじみ)が出てしまっていたツイッターが、あの日は一度も落ちず、ここぞとばかりに活躍しました。

停電でテレビが見られない地域の主な情報源はツイッターでした。
電車がストップし、帰宅難民となった東京の人たちを、臨時の避難場所に導いたのもツイッターでした。

その情報の細かさと迅速さは完全にテレビを圧倒していました。
あの時ワタクシは思ったものでした、「テレビよりツイッターの方がよっぽど役に立つやん」と。

あの日のツイッターのTLを見ているだけで、旧来のメディアと新しいメディアの勢力の入れ替わりや、その性質からくる役割分担などといった、メディア全体における変化を感じることができるのですが、本書はさらにそれを細かく検証していったものです。

しかもその立ち位置が少し特殊で、著者の立入氏はアメリカ在住のソーシャルメディアの専門家。

本書巻頭で彼自身が自分の視座について、またこの本の意義についてこのように伝えています。

「海外在住法人(WHO)の視点で、国内外で起こった(WHERE)今回の震災とソーシャルメディアをめぐる動き(WHAT)を、多言語版の書籍を通じて(HOW)、できるだけ早く(WHEN)、伝えること。そして、その理由は社会的な意義がある(WHY)から」

さらに本書で伝えたかった力点を2つ

・日本で起こったソーシャルメディアの革命現象
・国内外のマスメディアで今回の東日本大震災がどう取り上げられ、それはソーシャルメディアとどう関連を持ったか?

というところにおいて書かれています。

ですので、
日本国内のことだけでなく、海外では日本の震災をどのように伝えたのか、そしてどう反応したのか?といった点も豊富に語られていて、日本人の我々が知ることのなかった情報も知ることができます。

さて、

ワタクシ自身、この地震において、新旧のメディア関連で一番驚いたのは、【ポイント&レバレッジメモ】の ★地震の余波と4つのソーシャルの波 でも取り上げた、NHKのストリーミング放送でした。

視聴者の受信料で成り立っている放送局が、インターネットで無料で配信されるなどあってはならないこと。
もちろん非常事態に際していたという特殊な状況であったのですが、それにしても対応が速い。

また、高校生がウェブカメラを通じて配信をしたのですが、この“普通の高校生が世界に向けて配信することができる環境が整っている”という事実、すなわち誰でも可能という事実も見逃せません。

一人の高校生が、賛同者も巻き込み、国営放送局も動かしてしまったこの事実。
ソーシャルメディアの今現在の実力を証明するのに十分な実例だと思います。

しかし、ソーシャルメディアには負の面も存在します。
その点についても著者は丁寧にふれています。

ソーシャルメディアは非常時に大変頼りになるメディアとなることは証明されたものの、使い方を誤ればなんらかの被害を簡単に生み出すもろ刃の剣であることも証明してしまいました。

新しい技術、イノベーションを手に入れたとき、私たちはそれまで経験したことのない“新しい失敗”をも手に入れてしまうのは仕方のないこと。

今後、どう対処していくのかが我々の新たな課題となるのでしょうが、時代はいつも進んでいます。

第5章の これからの日本に到来するもうひつの波 をぜひお読みいただきたい。
負の面は確かに存在します。
しかしそれにビクビクしていても仕方がない。

失敗しつつも、これからどんな世界がやってくるのかワクワクしようではありませんか。
ソーシャルメディア革命はようやく始まったばかり。
その方向性が5章に書かれています。

震災という非常事態に浮き彫りにされた日本を確認し、今後のすすむべき道を模索するためには、まずは本書を一読あれ。

相変わらず政治家は国民に方向を指し示すことができませんが、それならソーシャルメディアを使って我々が方向を指し示し発信すればいい。

あの高校生がNHKを動かしたように。

 

検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? (ディスカヴァー携書)

検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか? (ディスカヴァー携書)

  • 作者:立入 勝義
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/06/16
  • メディア: 新書
 

 

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