本を耳で読む Amazon Audible 30日間無料体験キャンペーン実施中

君も精神科医から学ばないか【書評】熊木徹夫(著)『君も精神科医にならないか』(ちくまプリマー)

 

君も精神科医にならないか (ちくまプリマー新書)

君も精神科医にならないか (ちくまプリマー新書)

  • 作者:熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/12
  • メディア: 新書
 

 

興味ないなぁと思いつつ、読んでみたらすごく面白かったり、得るものが多かった本ってありますよね。
ワタクシにとっての本書がまさしくそういった本でした。
医療の現場ってすごい!そしてそれだけに学ぶ点も多い!

 

【目次】

まえがき精神科「臨床道」のススメ
第一章 精神科臨床の「場」に来ないか
第二章 精神科医はどんなことを考えているんだろう
第三章 治療はどのように展開するんだろう
第四章 「専門家」になるとはどういうことだろう
第五章 症例検討会をのぞいてみよう
第六章 言葉は精神科医のメスだ
第七章 「薬」を恐れ、「身体」を畏れよ…
あとがき

【ポイント&レバレッジメモ】
★「臨床道」

臨床では、常に患者さんと対峙しながら、そして走りながら考えるのです。
そしてその行方は果てしなく、臨床そのものに完成型はない。

★現場でなくては学べない

精神科医になると決めて、ある時から、中井先生以外にも精神科医が書いた本を封印していた時期があります。臨床に関する本は、あえて読まない、と。
臨床に関することは、臨床から学ばなければならないと思ったからです。本を読んでわかった気になり、頭でっかちになることを避けるために、自分に禁欲を強いていたのです。

精神療法は、畳の上の水練のごとく手の届かない形でいくら本を読んで勉強しても、治療の形を会得することは無理だと思います。本を読んで、現場を見て、自分の考えを話して、その上で知識と実践の場を結び付けるためには、臨床研修の場が必要なのです。上級医師なりが実際にやっているところで手ほどきを受けるという形で。

★絶望というものを、身をもって知った

絶望することは簡単ですが、その前に徹底的にできることはやろうと思って、まだまだ技術が足りないのも省みずに何かできることはないかと必死にもがいていました。それでも万策尽き果てて、ついに絶望を知ったというわけです。

★底を知らないと見えないことがある

人が死ぬ場面に遭遇すると、たとえ医師であれ、何年たっても慣れることはなく、もの凄い衝撃を受けます。その晩は眠れないということもなくはない。亡くなられた方が帰ってくることはないのに、日常生活の中でもずっと引きずってしまいます。

★治療空間という「場」について学ぶ機会

空いている隔離室に入れてもらい、看護師にしばらくの時間閉じ込めてもらって、横たわったりしながら、内側からどのような景色が見えるのか、中にいるのはどんな感じなのかを体験しようとするのです。
閉じ込められている人の不安などが全部わかるわけではないですが、外から見る景色とは全く違いますから、圧倒的に見方が変わります

★修羅場でしか学べないこと

勤務していた精神科病院では夜間当直も行っていて、錯乱した患者さんや粗暴な患者さんがどんどん運ばれてきました。統合失調症の急性期の患者さんや何かの薬物の禁断症状が出ている方、刃物などで手を上げる方もいたりして、大変な現場です。<中略>
これらは決して良い記憶ではないですが、苦労して頭をフル回転させた経験は後で必ず役に立つものです。不利な状況にあればあるほど鍛えられ、逆境に強くなることができます。<中略>
それによって鍛えられたと言いましたが、なぜかといえば、その中で知恵を振り絞るということもありますが、ずつと尾を引くからではないか。後で何度も想起しては、自分の中で何らかの結論を与えよう,とし呻吟するような。そのプロセスがとても大事なのだと思います。また、極限環境というのは様々な問題点が、純粋に高い濃度で絞り出されてくる場所なのではないかと思います

★上司の先生に見た理想像、「眠れる獅子」

前々から臨床家として尊敬していたのですが、あるときとてもびっくりしたことがあります。病棟で一大事が起こった時、普段じっと目を瞑って思考しているようなその先生が、突然脱兎の如く駆け出すのです。私も後を追いますが、とても速くてついて行くのがやっとです。誰よりも早く現場にたどり着いて、「大丈夫か」とテキパキ指揮をとって、それは鮮やかなてさばきでその場を収めることに尽力されます。
その先生の変わりようを見て、管理を司る立場に立つ者の理想像とはこういうものなのではないか、と考えました。みだりに動くことはないのだ、大事なところで動けばいいのだ、と。

★カルテを書くにあたって意識していること

そこにあえて将来予想を書き込むことです。この患者さんはどうなっていくだろう、どのように薬は効いていくだろう、となるべく克明に書いていきます。
まだ起こっていないことを書くわけですから、襟を正して書かざるを得ません。後で恥をかくこともありますが、書いたものを見返す流れができますし、そのときの自分の予想が妥当なものかどうか検証することで、勉強になることも多い。単なるメモ書きの予想ではなくて、公式のカルテに書くということに意味があるのです。厳しい予想を立ててそれが恥ずかしい記録にならないためにどうしたらいいのか、懸命に考えることがとても大事です。

★カルテを教材にする

まず、集積した症例の中から類似点を洗い出し、カテゴリー(類型分けをします。類似点と言っても着眼によって違いますからなかなか一元的には括れないのですが。すると、今までに経験した症例が多角的に見えてきます。そしてまたそのカテゴリー分けを崩して、別の類似点をあぶり出し、新たなカテゴリー分けを行う。分類の再構築を繰り返すのです。ふつう体験というのは一つ一つ独立しているものですが、こうすることで臨床体験の連環を作ることができる、これもまさに編集です。

★精神科医の読書会

テクストに書かれている静的な言説をそのまま取り込むのではなく、自分の体験とか思考実験を通して批判的に取り込むのが重要なのです。読書会におけるテクストの扱われ方とは、参加者各々の臨床を語るための叩き台なのであって、参加者の主観が交錯することにこそ主題があるのだと思います。

【感想など】
本書は著者 熊木徹夫 先生から献本いただいたのですが、
最初献本のお申し出があった時、正直言って「なんでうちに?」と思ってしまいました。

だって『君も精神科医にならないか』ですからね。
「うちのカラーじゃないなぁ」と思いつつも、「これも何かのご縁」と思い読ませていただきました。

そしたら、いただいたメールに

精神科臨床のスキルは、精神科内部に留まるものではなく、教育・生活・ビジネスなど多方面に影響をもたらしうるものと考えています。そのため、精神科を目指す方、興味を持たれている方のみならず、広く「精神科的知」を応用したいという方に興味を持っていただけると思います。

とあった通り、なかなか示唆に富む本で興味深く読ませていただきました。
【ポイント&レバレッジメモ】を見ていただければ「この辺はビジネスパーソンにも参考になるなぁ」という部分があると思います。
詳しくは本書にあたっていただくとして。

一応本書のメインターゲットは著者が書いているように
・精神科医になってみたい人
・精神科医や精神科臨床の世界に興味のある人
・今興味はないが、ひとつ熊木の〃挑発″に乗ってみようじゃないかという人

となっていて、その道の方が読むのが一番よいと思うのですが、“患者”“お客様”に置き換えてみれば一般のビジネスパーソンが読んでもなかなか得るところ多いし、そもそも職種が違うとはいえ社会人として学べるところは多々あります。

特にビジネスパーソンが読むとすれ、対象はこの春入社するフレッシュマンから入社3年以内の若手がいいんじゃないでしょうか。

というのも、ワタクシがこの本を読んで惹かれた2つのテーマが若いビジネスパーソンにオススメ。

1つ目は、熊木先生の学生~修行時代の“技を盗む”という学ぶ姿勢。
まず若いビジネスパーソンはそこを読んでほしい。

今日はちょっとだけ偉そうなことを言わせてもらいますが、最近あまりにも“教えて君”が若手に多い(もっともITに関しては50代のベテランさんもそうですが・・)
しかも彼らが手に負えないのは、教えてくれるのがあたりまえと思ってる。

なんだろう、学校教育が教えすぎなんだろうか?“技を盗む”という感覚がまるでない。

もし、自分で心当たりがある方は熊木先生の学生時代から修行時代にかけての部分をお読みいただきたい。

まぁ、かくいうワタクシもこういう姿勢、忘れかけていたなと反省(←ダメじゃん自分)

様々な有名な先生を直接訪ねて教えを受け、吸収しようとする熊木先生の姿に、昔、武道の世界にどっぷりつかり、よその高名な先生の道場にも出稽古して「一手だけでも」と食らいついて教えを請うた若いころの自分と重なって、眠っていた何かが目覚めた気がしたり・・・。

そして2つ目は、熊木先生の患者との向き合い方。
熊木先生は徹底した現場主義
もちろん、知識のバックボーンも「読書会」や「病例検討会」などでしっかり鍛えられているシーンが出てきますが、先生の現場主義そして患者との向き合い方には感動を通り越して驚愕。

一番びっくりしたのが「くんずほぐれつの玉砕療法」。なかなか服薬してくれない患者に

「僕も一緒に服むから君も服んでくれ」と言ってしまいました。
今思えば無茶な話です。
すると彼は、突然その薬を手に取ってジロジロ眺め出し、いきなり口に入れて服みこんだのです。「おおすごい、君よく服んでくれたな」と思わず握手をしました。相手は何も言わずに私に手を差し伸べて、お前も服めとゼスチャーをするのです。「そうだ、そうだ、約束だったね」ということで、私も薬を服みました。

ここまでできないですよ。

ワタクシ1度だけ精神病院の閉鎖病棟に入ったことがあるのですが、ん~ちょっと言葉で表すことができない世界です。若い子からお年寄りまで、なかには体格のいい力の強そうなおっちゃんもいるわけですよ。
いくらワタクシが武道経験者でも「この人たちが暴れだしたら怖いな」と。

たまたまワタクシがいた時間は何事もなく過ぎましたが(いっぱい集まってきて触られまくりましたけど)、そりゃ修羅場もあるでしょう。

そういうこと考えるとやっぱりね、医療の現場って我々一般人の職場とはレベルが違う。リッツカールトンのサービスも霞んでしまうほど。
でもこれぐらい命がけでお客様と向き合う覚悟ができていればこの不況も乗り越えられるかもしれない。

そんなことを読みながら想いうかべておりました。

医者とビジネスマン。患者とお客様。
命を預かるお医者様と単純には比較できないですが、プロとしての学ぶ姿勢、そしてクライアントと向き合う姿勢。

その究極の姿を見ることができる希有な本だと思います。
もちろん精神科医を目指す人は必読!

 

君も精神科医にならないか (ちくまプリマー新書)

君も精神科医にならないか (ちくまプリマー新書)

  • 作者:熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/12
  • メディア: 新書
 

熊木徹夫先生、献本ありがとうございました。

 

【関連書籍】
熊木先生の著書を紹介しておきます。

精神科薬物治療を語ろう  精神科医からみた官能的評価

精神科薬物治療を語ろう 精神科医からみた官能的評価

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2007/10/18
  • メディア: 単行本
 
精神科医になる―患者を“わかる”ということ (中公新書)

精神科医になる―患者を“わかる”ということ (中公新書)

  • 作者:熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2004/05/01
  • メディア: 新書
 
精神科のくすりを語ろう 患者からみた官能的評価ハンドブック

精神科のくすりを語ろう 患者からみた官能的評価ハンドブック

  • 作者:熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2007/09/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
もう悩まなくていい ~精神科医熊木徹夫の公開悩み相談~

もう悩まなくていい ~精神科医熊木徹夫の公開悩み相談~

  • 作者:熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎ルネッサンス
  • 発売日: 2005/07/22
  • メディア: 単行本
 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA