「ゴマはするのもすられるのも嫌いです。ましてや官僚がするゴマなど・・・」
まぁそう毛嫌いせずに、日本トップクラスの秀才たちが、剛腕政治家たちを丸め込むテクニック。
学ぶ点がたくさんあるんじゃないですかね?
【目次】
序章 サバイバル官僚は、なぜ、「威張る政治家」を説得できるのか?
究極のサバイバル能力を求めて
東大卒エリート官僚と吉本お笑い芸人の意外な共通点とは? 他第1章 単なる受験秀才官僚が、なぜ、豪腕政治家を丸め込めるのか?
戦後日本では「官僚は政治家の下僕であった」という真実
官僚パワーを支える五つの魔法の力 他第2章「ゴマすり力」は、最強のサバイバル術
新卒採用絶対主義が幅をきかせる、閉鎖的で曖昧模糊とした日本の労働市場
早期退職者の募集に見る、陰湿なリストラと日本の労働市場 他第3章 ゴマすりを成功させる五つの法則
ゴマをするには、相手のタイプ・褒める対象・褒め方・タイミング・場所が重要
ゴマすり力はとにもかくにも洞察力に依存する 他第4章 東大法学部卒のエリート若手官僚がなぜゴマをすれるようになるのか?
プライドの高い受験秀才をゴマすり若手官僚に変質させる、霞ヶ関の恐るべきコミュニケーション能力OJT
各省折衝とセクショナリズムの怒鳴り合いのなかで磨かれる官僚のコミュニケーション能力 他第5章 誇りあるゴマすり VS 卑屈なゴマすり――ゴマすりは自分の市場価値に依存する
ゴマすりが心底好きな人間が世の中にどれだけいるだろう?
極端なコンセンサス重視と拒否権プレイヤーの存在という日本政治の磁場 他
【ポイント&レバレッジメモ】
★官僚パワーを支える五つの魔法の力
①専門知識
②細かなルール
③タイムスケジュールの管理
④下請け仕事を引き受けること
⑤根回し力
★官僚パワーの中核中の中核に位置する「ゴマすり力」
五つの力を束ねる元締めの力が「相手を気持ちよくさせる力」=「ゴマすり力」なのです。
目標達成のための手段としての「戦略的ゴマすり力」です。
⇒官僚にとっての「ゴマすり」は、自分が仕事で主導権を握るという目的のための柔らかなサバイバルテクニック
★「なんとなくアングロサクソンモデル」に進む日本の労働市場
アングロサクソン諸国では、「クビになりやすいが次の職を見つけやすい」のに対して、フランスやドイツは、「次の職を見つけにくいが、いったん正社員になると簡単にクビにならない」というのが特徴です。
それに対して、日本は、「次の職を見つけにくいが、正社員でも陰湿な手段でクビにされる可能性がある」ということになります。
つまり、日本の労働市場は曖昧模糊として閉鎖的なのです。
★雇用不安時代の最大のサバイバル術⇒ゴマすり力
曖昧な労働市場では、定量的で目に見える能力はあまり重視されないということです。資格やお飾りの学歴、一部の人間しか知らないような仕事の実績などは、それほど有効であるとは思えません。それに対して、定性的な能力は有効です。目に見える能力でもなければ、履歴書から判断できるわけでもない人柄・コミュニケーション能力・愛嬌・人脈などです。
★ゴマすり5つの注意点
①褒める相手のタイプ
②どこを褒めるかという対象・・・褒める個所に注目するとバリエーションは一気に広がる
③褒め方=表現方法・・・豊かな表現力を持つとゴマすり力が広がる
④タイミング
⑤場所・・・ゴマすりはなんと言っても密室が一番
⇒ゴマすり力のポイントは洞察力
★洞察力を鍛える3つの訓練法
①1日に褒める人数を決めて(今日は10人褒めるぞ、とか)、実際に実践してみる。
②連続して(いろいろな人を)褒める訓練をする。
③はじめて会った人をできるだけ早いタイミングで褒める訓練をする。
★ゴマすり効果を倍増させる市場価値
①学歴
②職歴
③収入
+「謙虚さ」
【感想など】
「官僚」というと最近では「政治改革の抵抗勢力」や「天下り」といったマイナスなイメージが先行しがち。
そんな時代に本書は、「悪徳官僚」「ゴマすり」などといったキーワードがタイトルに入っているわけですから興味を引かないわけがありません。
それに実際面白い。
とにかく秀逸なのは、本書のメインディッシュある 戦略的ゴマすりの極意その①~⑤ 。
ネタばれ自重のため割愛しましたが、ぜひ実際にお読みいただきたい。
例えばゴマをする相手のタイプ別対処法。
権威主義的タイプや猜疑心タイプなど7つのタイプ別にその攻略法を説明。
さらに決めセリフも多々用意してくれています。
「頭がよいふりをしたがる人」には「さすが切れますね」が効果抜群とか。
威張り散らす人には「社長が褒めてました」という変化球。
また、
頭がよくて冷静で虚栄心のない人へのゴマすりはムダ。
この種の上司に遭遇したら、素直に諦めて、仕事に邁進しましょう。それが最大のゴマすりです。
といった具合に“ゴマすり”の限界も。
確かにここに書かれている“ゴマすり力”はサラリーマンもサバイバルスキルとして身につけた方がいいかもしれません。
それに、どこを褒めるか?のポイントなどは異性に対しても応用できそう。
再現性の高いテクニックが満載です。
それからもう一つ面白かったのが
ゴマを効果的にするためには、“ゴマすり”のテクニックを磨くだけでなく、自分の市場価値を高める努力をすべきです。
「仕事のできる人間になる」「少しでも学歴のバージョンアップを図る」「有効な資格を取得する」という努力をすべきです。
この努力はあとで何倍にもなって返ってきます。なぜなら、ゴマすりは自分の市場価値の何倍もの効果を持っているからです。
という考え方。
確かにそうですね。
“ゴマすり”は地位と名声が高ければ高いほど効果的だし、おかしな現象ですが、地位と名声が高ければ高いほど“ゴマすり”を感じさせないんですよね。
「あんな偉い人が俺に頼みごとを…」といった感じで、なんだか頼られて嬉しくなったりします。
“ゴマすり”のテクニック向上と、自分自身の市場価値を磨くことはワンセット。
両方向上する相乗効果で可能性が広がるわけです。
ということはやっぱり仕事を頑張らないといけないのか・・・。
仕事できないのに“ゴマすり”だけうまいのは、ただの太鼓持ちですからね。
なお、本書は“ゴマすり”のテクニック本としてだけではなく、官僚と政治家のいわば“政治の裏舞台”を垣間見ることができる本としても面白く読めます。
以前当ブログで紹介した
では、官僚はそれこそ政治改革を阻む悪の権化のごとき書かれ方をしてましたが、本書では著者が元官僚という立場から、ちがった視点で官僚という存在を見ることができます。
例えば、「自分たちはこういう政策を実現したい」といった崇高な目的を達成するための“ゴマすり”は戦略的な手段であるといったふうに。
なんかすごく良いことを、しかも国民のために耐え忍んで嫌な仕事をやっているという感じで書かれていますが、その点に関してはワタクシ個人としては「違うやろ」と言わせてもらいます。
民主主義国家において、法的になんの権限もない官僚が、法案を作成したり、また政治家が納得するよう根回しや説得をし、そしてそれが通ってしまうこと自体おかしな状況です。
というか“違憲”でしょ。
もちろんこれは、今まで利害調整などの嫌な仕事を官僚に丸投げしてきた政治家の責任ですし、その政治家を選んできた国民の責任なんですけどね。
日本で一番の頭脳集団である官僚の能力を、“ゴマすり”なんかじゃなく、もっと違う方向で真の国益のために使ってほしいものです。
本書はディスカヴァー21社様から献本していただきました。
ありがとうございました。
【関連書籍】
“褒める”といえばこの本は必読!
使える“褒め言葉”が満載です!
“褒める”のとはちょっと違いますが、こちらもオススメ
【参考記事】
ディスカヴァー社長室blog:直球と変化球、ディスカヴァーではちょっと異色かもしれないビジネス新刊2点 ●干場