「あなたが自分の昇りたい高さを決めれば、そこがあなたのいくべきところである」
という言葉から始まる本書。
ただの交渉術のハウツー本ではありませんでした。
【目次】
はじめに
第1章 交渉について学ぶその前に
自分が昇りたい高さは自分で決める
間違いやすい「交渉」の定義 他第2章 ビジネス交渉に欠かせない基本準備
交渉の成功率を高める「下準備」第3章 実戦の基礎技術〜対上司編〜
上司を「変える」ことは不可能と考えよう
上司からの信頼を勝ち取る3つの条件 他第4章 実践の基礎技術〜対部下編〜
部下との交渉がピンと来ないあなたへ
「はだかの王様」になるべからず 他第5章 実践の基礎技術〜対社外編〜
会社の代表として臨む対外交渉の重責
対外交渉で気をつけたい3つの基本 他第6章 組織全体に「YES」と言わせる考え方
組織に求められている「迅速な対応」
組織の中核を担う中間管理職の心得
【ポイント&レバレッジメモ】
★交渉について学ぶ前に
◇ 「WINl―WINの関係」がすべての交渉の礎
◇ 「交渉しないことが究極の交渉」・・・お互いにハッピーになる交渉をおこない、良好な関係を継続するための努力を怠らなければ、必ず到達できるはずです。
◇ 「交渉の大前提3カ条」
①基礎的な人間関係がなければ交渉のテーブルにはつけない
②普段の人間関係が相手からYESを引き出す可能性に影響する
③YESを引き出すためには実績が必要
◇ 「交渉で絶対にやってはいけない3カ条」
①相手を打ち負かしたり、屈服させる
②具体性のない安直な言葉を使う(「大丈夫です」「なんとかします」「頑張ります」)
③ウソをついたり、大風呂敷を広げたりする
◇ 「客観的に交渉を見る」・・・「客観性」「第三の視点」をもつ
自分を取り巻く情況を客観的に見ることができれば、思考の幹が揺らぐことなく、しっかりしてきます。思考の幹さえしっかりしていれば、枝葉の繁らせ方はいくらだって変えられるのです。
◇ 「摩擦を乗り越えて歩み寄る」
決して相手を否定してはいけません。否定することは簡単ですが、意図せず感情を逆なでしてしまう可能性があります。あくまで建設的にメリット、デメリットを比較し、検討する空気にしていく必要があるのです。
◇ 「数字がすべて、説得力は数字に宿る」・・・ビジネスの世界で数字とは、冷却水のように摩擦熱の高まりを抑える役割をしてくれるものなのです。
★「下準備」・・・「およそ事は準備すれば成り、準備せざるは成らず」
◇ 交渉への3つの流れ
①交渉を希望する相手の情報を収集する
・パワーバランス・・・交渉相手の規模、悩みの深刻さ、強みと弱み、自社への依存度など
・ヒューマンバランス・・・交渉相手の特性、意思決定者の履歴、行動様式など
・コンディションバランス・・・前提条件、交換条件、時間的感覚、競合相手など
②交渉要件のMUSTとWANTを明確にする・・・「交渉の成功条件をどう設定するか」
・MUSTというのは、その交渉で絶対に譲れない条件
・WANTというのは、「獲得したい条件だが、MUSTが獲得できるなら相手に譲ってもよい」という条件
③相手の欲求をあらかじめ予測しておく
◇ アポイント・・・相手の時間を無駄にしないための努力をする。 → 「今回お会いするにあたって以下の3つをお願いしたいと考えております」と簡潔に3つほどのポイントに分けて伝えておく
◇ 「オシャレのセンス」
大事なのはカラー、つまり色合いです。カラーコーディネートは相手に対して、非常に強力な印象を残すため、徹底的に意識をしておく必要があります。
◇ 「地位がおしゃれを作るのではなくて、おしゃれが地位を作る」 ⇒ 「おしゃれは交渉上手である」
◇ 礼節の徹底・・・細心の注意というのは、ときに人を圧倒的に感動させます。それは相手への礼儀、マナーが「尊敬の念」に通じるところがあるからです。 ⇒ 「大局大胆、小局細心」
★対上司
◇あなたにできることは「自分を変える」こと。上司の変化は期待できない。 → 上司の思考を理解し、あなたから上司へ歩み寄っていく経験は、あなたが部下に対して接するとき、非常に役に立つ。
◇ 上司からの信頼を勝ち取る3つの条件
①上司のレベルで物ごとを考えている部下(上司の立場に立てる部下、気もちがわかる部下)
②上司に戦いを挑まない部下(上司に歩み寄ろうとする姿勢がある部下)
③アイデンティティの確立した部下(上司から見て「何がしたいのか?」がわかる部下)
★対部下
◇ 扱いづらい部下がいることは、あなたにとって人材育成のスキルを身につけるチャンスであると捉えましょう。
◇ 部下から尊敬を集める3つの条件
①部下とともに考える姿勢
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かず」
「話し合い、耳を傾け承認し、任せてやらねば人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず」 山本五十六
②頭のよさを争わない
上にある者は下にある者と才知を争うべからず
人の長所を始めより知らんと求めるべからず
人を用いて初めて長所の現れるものなり
人はその長所のみをとらずばすなわち可なり
短所を知るを要せず
己が好みに合う者ばかりを用いるなかれ 荻生徂徠
③個人のアイデンティティを尊重する
アイデンティティというのは、存在意義、存在価値のこと。 ⇒ 部下の個性を否定せず、それを仕事にどう活かすか道筋をつけてやるのが上司の仕事
◇ 「人事」という言葉が出てきたら「ヒューマンリソース(人材資源)」と、頭のなかで変換をすることにしています。
◇部下に仕事を指示する場合、最も気をつけなくてはいけないのが「面倒くさいなあ」と思わせないこと。
◇ 「叱る」・・・「叱る」は、次の3つの内容を満たした「交渉」
①感情的な怒りをぶつけるのではなく、冷静に指導の理由を話す
②疑問を投げかけ、相手に問題点を気づかせる
③一歩下がって、相手の反省を促し、同じミスをくり返させない
★対社外
◇ 対外交渉において厳守したい3つの鉄則
①議事録と書面確認
②MUSTとWANTの明確化
・MUST・・・交渉に臨んだ際に「必ず獲得しなければならない」条件のこと
・WANT・・・「MUSTのほかに、ついでに獲得できたら理想的」という条件
③グレーゾーンをなくす
シビアな対外交渉では、この「グレーな表現」いわゆるグレーゾーンを限りなくゼロにすることが、後々のトラブル発生を未然に防ぐ最大の防御策となります。あいまいな表現は使用せず、シロかクロか、すべての条件を明確にしておきましょう。
◇ 機会損失を意識させる・・・機会損失を意識させるということは、「今がチャンスなんだ」「この交渉を逃したら、大きなチャンスを見逃すことになる」「チャンスは貯金できない」ということを、具体的な数字をあげながらプッシュしていくことに尽きます。
◇ セールスパーソンから学ぶ
継続的に成績を残すため絶対に必要なのが、「マメ」であること、ウソをつかない親密な人間関係を多く築き上げること、の2点。
★組織全体に「イエス」と言わせる方法
◇ 組織に全体に「YES」と言わせる(自分の理念を浸透させる)ためには、組織を構成しているすべての人間に提案を訴え、納得してもらう必要があります。
◇ 「一段階を経るごとに、伝えた内容の理解度が半減する」というコミュニケーションの法則
社長から役員へ、役員から各部長たちへ、部長たちから課長たちへ……というように伝言ゲームのごとく物ごとを伝えていくと、そのつど50%程度の理解不足が積み重なる
◇ 大事なことを伝えるときには、組織に所属するメンバー全員を集めて、一度に伝える。これを何回でも同じ内容で繰り返すことです。
◇ ニュースレターであなたの気もちを伝えるための3つのルール
①簡潔に、誰にでもわかる言葉で短く書ききる
②視覚に訴える
③ラブレターを書くように
◇ 原因自分論
上司としてのあなたに対する信用力を高めておくには、「上司が言ったとおりに実行すれば、結果がどうあれ、上司が責任を取ってくれる」、この安心感を、部下たち全員に与えることが必要。
◇ 「ツキが運んでくるチャンスを無駄にする人間に、組織はまとめられない」
会社のトップやリーダーにはツキが必要です。ツキのある人物が率いる組織というのは、すべからく部下も育ち、成功を収めていくものなのです。そして、成果を上げているトップが下す命令には、組織全体が「YES」と言わざるを得ないのです。
【感想など】
正直に白状すると、「巷によくある心理学的な駆け引きのハウツー本」の類と思って読み始めたのですが、
明らかにそのレベルとは一線を画す内容。
思いがけずその内容に引き込まれてしまいました。
その理由の一つは本書のメインテーマの交渉術について、そのハウツー本としてのレベルが非常に高いという点。
今回ネタバレ自重のため具体的な交渉テクニックの内容の抜き書きは控えさせていただきましたが
(これだけ抜き書きしておいて、ネタバレ自重もないやろ!というツッコミがきそうですね。)
交渉や相手との人間関係に対する基本的な考え方などから始まって、実際の交渉テクニックまで、とにかくきめ細やかに書かれています。
たとえば、対上司編では難解な上司を
「お調子もの派」「理論ピシパシ派」「穏便おじいちゃん派」「マニュアル派」「お任せポイ投げ派」「カリスマ派」
の6パターンに分け、説得する場合それぞれにどこを突けば“ツボ”なのか解説してくれています。
同じように、対部下編では
「イエスマン」「新人気質」「独立したがり」「トラブルメーカー」「無責任」
の5タイプに分けて、指示の仕方、叱り方をこれまた親切丁寧に解説してくれています。
また対社外編や対組織(会社)編もあります。
で、実際に読んでほしいのですが、紹介されている例がどれも説得力があり、しかも非常にうまい!
思わず、「そう持っていくか!」と独り言を言ってしまうこと度々でした。
この手のハウツー本は、本のレベルと著者の経験知のレベルが比例するもの。
ワタクシは著者を本書で初めて知り、御経歴も本書に書かれていることしか知りませんが、本書を読む限り相当な修羅場をくぐってきた方だということは容易に察せられます。
さて、本書に引き込まれた理由の二つ目。
実を言うと、ワタクシ的にはこちらを強調したいぐらいなのですが、
それは本書の随所に、著者の仕事に対する考え方、厳しい姿勢がちりばめられており、そのどれもが際立って秀逸だった点。
ビジネス書として、読みどころ満載なのです。
たとえば、
本記事の冒頭に紹介した
「あなたが自分の昇りたい高さを決めれば、そこがあなたのいくべきところである」 という言葉。
思わず“自己啓発書”かと思わせるような名言ですが、本書はこの言葉からスタートするのですよ。
ちょっとこういったハウツー本は見たことないですね。
そしてこれに関しても著者の経験から書かれているので説得力があります。
本書は部下を持つ中間管理職のビジネスパーソンがメインターゲットだと思うのですが、是非読んでほしいのは若いビジネスパーソン。
本書を読むことで「仕事とは」「会社と自分の関係」「自分がどんな社員なのか」といったことがだんだん見えてくると思います。
若いビジネスパーソンの皆さん、
「組織に利益をもたらす、上司の役に立つことが仕事である」という観点。
そして、「それができていないうちに偉そうなことを言っても何の説得力もないし、誰も聞いてくれない」という現実。
これには早く気がついたほうがいいですよ。
ワタクシの場合、もう年齢的には中堅どころとなってしまいましたが、この本を読んでいてちょっと恥ずかしくなってしまいました。
というのも、ワタクシは若いころ、上司に意見するかなり生意気な奴だったのですが、
自分では「改善策」を言っている「デキルやつ」きどりだったんですね。
でも本書を読んでいて、
「あの時上司はこんな気持で聞いてくれてたんだろうな。働き始めたばかりの若造の言うことを、怒らずにちゃんと聞いてくれてなぁ。あの時は無能な上司だと思ってたけどやさしい上司だったんだ」と。
今頃になって気がつくことがいっぱいありすぎて・・・ 「あの時はごめんなさい」って感じです。
歳を取らないと気がつかないってこと、たくさんありますね。
あの頃のワタクシのように、
「上司が馬鹿だから」とか「この組織では俺の才能が生かせない」とか考えているあなた。
対人、対組織の関係作りもまずは相手を知ることから始まります。
そしてベースはwin-winの関係。
本書を読めば、上司がどんなことを考えて部下と付き合っているのかというところも理解できると思いますよ。
考えてみれば、対上司、対部下に特化した“職場で役立つ”ことに的を絞った実際的な交渉術の本は今までなかったような。
新入社員、管理職を問わずビジネスの現場で読めば必ず役立つ一冊。
ぜひお読みください。
激オススメ! (ちなみに本日発売です!)
株式会社インフォトップ出版の串田真洋様より献本していただきました。
ありがとうございました。
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【管理人の独り言】
ハック好き、文房具好きのワタクシにとってはmust buyな本が出たようです。
もう、無条件でAmazonアタックします!(笑)