おはようございます、一龍です。
今日ご紹介するのは前作が大好評だった三谷宏治さんのあのシリーズ最新刊。
テーマは『ビジネスモデル』となっていて、「おおなるほど!」の連続でございます。
はじめに
タイトルに「全史」とあるだけに、400ページ越えの非常に分厚く、読み応えのある本ですが、歴史に名を残す有名な企業ばかりが登場。
なるほどこういう部分が革新だったのかと納得と驚きの連続です。
登場する企業がたくさんありすぎて悩みましたが、まずは私が気になった会社、好きな会社のビジネスモデルを中心にいくつかピックアップしましたので御覧下さい。
ポイント
★メディチ家による国際為替・決済システムとバチカン公金の取扱い
メディチ家のジョヴァンニ・ディ・ビッチは誰よりも迅速で綿密な情報網を全欧州に築くことで、この「為替手形」による為替・決済手段を、極めて好収益な手数料ビジネスに仕立て上げました。<中略>
しかし大問題がひとつ。大勢力であったカトリック教会が、「利息」を禁じていたのです。<中略>
結局、メディチ家はカトリックのローマ教皇庁(=バチカン)から「利息ではない」という判断を引き出し、銀行業(融資・為替・決済業)を認知させることに成功します。取引の勘定項目に「神への勘定」、つまり教会や慈善活動への寄付を加え、その一部を上納することでバチカンに手を打たせたのです。<中略>結局メディチ家は、
1.国際的な決済・為替ネットワークを築き
2.(ある意味敵であった)バチカンにまで顧客を拡げてビジネスパートナーとし
3.公金為替という新たな収益モデルを構築した
のです。
★革新的呉服店と公金両替商のセットで繁栄した三井越後屋
三井高利に始まるこの300年越えの繁栄は、ひとつの革新によってもたらされ維持されたのではありませんでした。
・顧客を富裕層から中間層にも拡げた
・売り方や価格体系を簡素なものにし、提供価値を高め低コスト化した
・外部化していた縫製行程を一部、内部化した
・商品タイプごとの担当制を敷き、スタッフの専門性を高めると同時に早期育成を可能にした
・両替商を営み公金為替を手がけることで、低コストでの資金・反物調達が可能になった
・多事業・組織を統括する持ち株組織をつくった「現金掛け値なし」はただの安売り戦略ではありません。三井家は高利・高平が、旧来の「呉服店」のビジネスモデルをすべて変えたからこそ、その安値を維持でき競合にはなかなか真似されなかったのです。
★特許がイノベーションを加速する
本格的な特許制度が生まれたのは17世紀のイギリスでした。イギリス議会は「専売条例」を制定し、発明や新規事業に対し最長14年の独占権を認めました。それまで国王が恣意的に与えていた不安定なものから安定的制度に変わったことで、イノベーションに向けた多くの投資がなされ、「産業革命」につながったと評価されています。
ワットの蒸気機関の発明も、アークライトの水車紡績機も、特許が取れたからこそ、技術の完成・実用化に向けた投資が継続されたのです。特許制度がイノベーションを加速するのです。
★アマゾン、5つのビジネスモデル
結果としてベゾスは、アマゾンを舞台に5つのビジネスモデル革新を実現してきました。
1.直販EC:書籍だけでなく玩具、音楽、ビデオ、家電などの総合型の直販ECサイトをIT
と物流で成功させた2.マーケットプレイス:アマゾンを、直販だけでなく一般事業者も出品できる場に変えた。取扱い金額はEC全体の4割以上を占める。
3.有料会員:当日配送無料などの「アマゾンプライム」の導入に成功。10億ドル近い収益を生み出している。
4.電子書籍:端末(キンドル)を低価格で普及させ、電子書籍などのコンテンツで大きな収入を得ている。
5.ITインフラサービス:クラウド型の「アマゾン・ウェブ・サービス」事業を展開し、数十億ドル規模のビジネスを確立。
★ジョブズの変革
1.水平分業から垂直統合へ
「消費者が思い入れを持ってくれるような、狂おしいほど魅力ある、個性的なコンピュータをデザインしようと思えば、すべてをコントロールする必要が当然ある」2.個別対応から世界ワン・プラットホームへ
国が違おうが、キャリアが違おうが、機種が違おうが、OSは(基本的に)ひとつで、フォントも同じ。画面サイズもさして変わりません。かつOSのアップデートも徐々にでなく世界一斉に行われます。
ソフト開発者にとっては(他に様々な制約はあろうとも)、この「世界ワン・プラットホーム」がなにより魅力的でした。3.替え刃から逆替え刃モデルへ
「ハードを高く売ってサービスやソフトを安くする」。高マージンなハードの魅力を維持・向上できるのなら、他のものはタダでもいいのです。
感想
◆あの会社はこうやって儲けているのか
とにかく400ページ越えのボリュームを感じさせない内容の面白さでした。
というのも本書に登場する企業は歴史に名を残す会社だけに、どれも知っているものばかり。
しかもそのいくつかは今現在自分が商品やサービスを使っている会社であったりするので、「ああそうだったのか、この会社はこうやって儲けているんだ」という気づきの連続なのです。
たとえばジレットの5枚刃で今日もひげを剃っていますし、こうやって書評を書くのにMacを使っているし、アマゾンのリンクも貼るわけです。
考えてみれば、我々の生活はどっぷりビジネスモデルに浸かって営まれているわけです。
なのにその企業のことをあまり知らない。
「この企業はこういう成り立ちで大きくなったのか」「こういうビジネスモデルで儲けているのか」「この商品はこれが狙いだったのか」なんてこと知るとかなり楽しいですよね。
(なかには知らないほうがいいものもあるかもしれませんが 汗)
◆ビジネスモデルの革新は人類の歴史そのもの
さて、
本書のメインテーマであるビジネスモデルとは、著者がこのように定義されています。
「ビジネスモデルとは、旧来の戦略的フレームワークを拡張するためのコンセプト・セットであり、その目的は多様化・複雑化・ネットワーク化への対応である」
そういう意味でビジネスモデルを見ていくと分かるのは、
「ビジネスモデルの革新は人類の歴史そのもの」
という事実です。
メディチ家が遠隔貿易に於ける決済を容易にしてくれたように、三月越後屋が既製服を安くしてくれたように、ビジネスモデルの革新は人類の歴史を変え、新しい時代の呼び水となってきたということが本書では読み取れます。
もっと言えば変わりつづけること、革新し続けることが人類の宿命であり、本質なのだということも感じることができます。
人類の真理が諸行無常である以上、これからもあっと驚くビジネスモデルが登場し続けることを本書は予言しているようにも感じられるのでした。
◆時系列で俯瞰するからこそ見えて来るものがある
色々なメッセージを感じさせる本書ですが、
時系列で通史的にビジネスモデルを網羅して書かれていることが、本書の最大の価値のひとつかもしれません。
こういうふうにまとめてくれている本だからこそ、見えて来るものが多々あると思います。
そのひとつは、時代とともにビジネスモデルの寿命自体が短くなっていること。
メディチ家や三井越後屋のビジネスモデルはかなり長く続きますが、現代のビジネスモデルはとにかく隆盛を極めるのもあっという間なら、新興勢力に取って代わられるのもあっという間。
会社の寿命が短くなっているとよく聞きますが、まさにそれを裏付けていると思います。
また、それと関連して、ビジネスモデルの革新と密接に関連している技術革新のサイクルもかなり短くなっていることも本書で分かります。
現代の経営者が”スピード”を最重視するのもその所以なわけです。
ただ、ビジネスモデルの奥深いところはそんなどんどんスピードアップと技術革新が進む世の中でも、コツコツ地道にというモデルもあり得るというところ。
「アイデアは組み合わせ」という観点からいうと、新旧あわせてそのときに最善のモノをつくりだすことができるかという点こそが重要なのかと。
その意味で本書は、単なる「ビジネスモデル」の辞書という範疇にとどまらず、これからどんなビジネスモデルが成功するのか、そのアイデアを練る上での資料としても活用できる一冊ではないでしょうか。
過去を振り返るようで、実は未来にベクトルを向けている本だと強く感じました。
超オススメ!
本書はDiscover21社様から献本していただきました。
ありがとうございました。
目次
はじめに
序章 お金にまつわる5つのビジネスモデル革新
第1章 ビジネスモデルとは何か?
第2章 近代ビジネスモデルの創世記(1673〜1969)
第3章 近代ビジネスモデルの変革期(1970〜1990)
第4章 世紀末、スピードとITによる創造期(1991〜2001)
第5章 リアルを巻き込んだ巨人たちの戦い、小チームの勃興(2002〜2014)
第6章 どうビジネスモデル革新を起こすのか?
補章 今、日本から世界に挑戦できること
おわりに
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