
こんにちは、なおさん(@ichiryuu)です。
今日ご紹介するのは、
吉満明子(著)『しずけさとユーモアを』枻出版社

吉満明子さんってだれ?

東京の北千住で木造アパート6畳二間を拠点に、一人で出版社とカフェをスタートした編集者さんだよ。
以前うちのブログでも紹介した『ゆめのはいたつにん』を手掛けた方だよ。

じゃぁ、スモールビジネスのスタートアップ本なのかな?
と、最初は思ったのですがそうではないんです。
もちろん、スモールビジネスのスタートアップのヒントも読み取ることができますし、話の中心は著者が代表を務めるセンジュ出版の設立や活動内容が軸となります。
ですが、どちらかというと著者の伝記的な内容でもあり、編集者としてどんなふうに本作りに向き合っているかというような内容もありのエッセイ的な本と言えます。
なお、今回この記事を書くにあたって、最初にお断りしておくことがあります。
通常、本の紹介記事は、できるだけ客観的な視点で読み、僕という主観的なフィルターに引っかかったエッセンスを記事にするようにしています。
ですが、本書に関しては僕自身がセンジュ出版のファンクラブの会員であり、吉満明子さんという人間と、その創り出す本に惚れ込んでいるため、主観ベースの上に主観で書いている記事です。
その点、あらかじめご了承ください。
- 編集者になりたい人、編集のお仕事について知りたい人
- 仕事と自分の関係を見つめ直したい人
- スモールビジネスを始めたい人

「Keep calm & have a sense ob humor」(静けさとユーモアを)と書かれている
『しずけさとユーモアを』:読書メモ
編集とはこえを聴くこと
今、著者の原稿を読んで、文章講座の講師をして、その時間何をしているかというと、編集といってしまえばそうだろうか、私はこのレターカウンセリングを体験したあの日の自分と同じ顔してるように思う(シミは増えている。タルミも進んでいる。お腹も出ている)。この文章の中にあるもの。この人の中に眠る言葉。それを信じて待つ。代わりに答えを出さない。誰もがちゃんと答えを知っているということを忘れない。それまでは何度も何度も問いを重ね、本人の本当が言葉になるまで、聞こえてくるまで、じっと耳をすます。
著者の吉満明子さんは、学生時代に「レターカウンセリング養成講座」を受けたそうです。
レターカウンセリングとは、主に10代の子供たちからの手紙を用いた相談に、同じく手紙で返事を送るという活動です。
著者がこの講座で教わったのは「答えを本人の代わりに出さない」ということでした。
共感したり、質問したりを重ね、本人が本当に望んでいる未来を言葉にしてくれるのを待つのだ。何かアドバイスをするのかと思っていた自分にとって、ここで習った事は新鮮だった。
現在著者はプロの編集者であり、またその傍ら文章講座も開催されていますが、本というツールが”伝える”道具である以上、”本人の本当が言葉になる”ことをどれだけ待てるか、どれだけ引き出せるかが腕の見せ所だと思います。
”本人の本当”の純度が高いほど、伝わり、時間が経っても古くならない本になる。
そういう本が作れるのがセンジュ出版の強みなのでしょう。

信じてじっと待つってなかなかできないよね。

そうだね、特に出版業会って次々と出版しないと経営が成り立たない構造になっているからね。
あ、でも僕はニケがちゃんとトイレを覚えるのは、君が家族になってからずっと我慢強く待ってるよ。

たぶん、ずっと待っててもらうことになる・・・

それがニケの「本当の言葉」か・・・
当事者としての編集や発信
著者は愛媛県伊予市の地域資源発掘参画委員として伊予市の情報発信に関わったことがあります。
その経験から得たものが、
まちづくりもまた、編集だ。
まちの中に点在するさまざまな資源を、誰に何の目的で伝えるのか、それによって、何を選び、何を選ばないかが決まる。言葉が変わる。コミニケーションデザインが変わる。これは、それまでの自分の仕事の中にたくさんのヒントがあった。
いつか住民としてまちの編集をするのも面白いかもしれない。
というものだったそうです。
「よそ者」として
外からの発信ではなく、中からの発信。
そこにくらし、住まう立場からの編集。
まちの未来に、自分ごととしてかかわる責任。
この体験が現在のセンジュ出版へと身を結ぶ”種”だったんですね。

地域に根差した活動をする出版社の源泉はこれだったんだね

それに千住という街自体が魅力的だしね

父ちゃんにとっては飲み屋さんがいっぱいあるのが魅力なんだよね?

アンジュはなんでそんなこと知ってんの?(汗)
人をバカにしない本づくり
プロの編集者として一線で活躍する著者に大きな転機が訪れたのは、2011年の東日本大震災と、翌年に長男を出産したことだったようです。
小さな息子と一緒に見ていた子ども番組を見ていて、その子ども相手に手抜きのない本質を見せてくれる番組作りにこんなことを思ったそうでろ。
人をバカにしない本作りとはなんだろう。
人を信じる本づくりとはなんだろう。
私は何を作っているんだろうと手を止めた3·11の後の私は、これから、この子を抱えて何を作るんだろう。この子に見せる背中は、彼に何を伝えるんだろう。
この子をバカにせず、自分をバカにせず、人をバカにせず、人が持つ本を読み解く力を信じて作る本とは、一体どんな本なんだろう。
本を、本の未来を、そして自分自身をないがしろにしない。この子のこれからの笑顔守るために、まず自分から始めるとしたら、何ができるんだろう。
3.11は日本人にとって忘れることのできない日となりました。
この日を境に、日本という国の雰囲気も大きく変わったように感じます。
著者にとってこの大震災と、その翌年の長男の出産と育児休暇がその後の人生を生み出す、つまりセンジュ出版を生み出すための揺籃期となったようです。

父ちゃんも大震災で何か変わった?

あの震災は人生の儚さを痛感させられたよ。
何気ない当たり前の日常が一瞬で崩れ去るのを見たんだからね。
本気で自分の人生を生きよう、そして同時に世の中のために自分がどう生きるべきかを考えたよ。

その答えがブロガーというのが・・・

アンジュ、おだまり!
文章てらこや
本は作るのにお金がかかる上に、売り上げの回収に時間がかかる商品。
経営を支えるキャッシュポイントを増やすことを税理士さんからアドバイスされて、センジュ出版では「文書てらこや」という文章講座を開催しています。
しかし、この文章講座がまたユニーク。
文章てらこやの目的は、文章がうまくなってほしいわけではないと著者は言います。
ではこの講座で伝えたいことは何なのか、著者はこう言います。
これは、あなたがあなたの物語を肯定してほしい、ということだ。肯定した瞬間から、人は自分の言葉を語りだす。そんな言葉を聞くたびに、誰もが人生の最高にしてたった1人の著者なんだと痛感させられる。その肯定をもう一度取り戻して欲しくて、思い出して欲しくて、この寺子屋を設けた。そのことが今私はよくわかる。
単なる文章講座ではなく、先述したように「本人の本当の言葉」を引き出すのがポイント。
だからこそ、
書くうちに、自分の心が整い、自己も他者も肯定できる。それが本来の文章です。
といえるんですね。
本書にもご本人がカウンセラーのようだと書いていますが、今こういう場がすごく求められていて貴重なのだと感じます。
文章のテクニックだけなら誰でも教えられるし、独学だってできます。
ですが、吉満さんのキャラクターと6畳畳間のカフェの雰囲気と千住という街の持つ雰囲気が相乗効果となって得難い場所を創造しているのだと感じます。

文章を書くことは一種のデトックスだと僕も感じることが多いよ。

父ちゃんは好きなように生きているのに何かストレス溜まることがあるの?

最大のストレスは、お前がトイレを覚えないことだよ

あああ・・・・
著者の「声」
編集者として原稿を依頼するときに、著者が原稿を依頼するかどうか、本にするかどうかを判断する条件にとてもユニークなものがあります。
その方の言葉や行動が、必要とされる方々に伝わるものかどうか、さらには10年、20年たっても古くならない内容かどうかが、センジュ出版の書籍化における考え方だが、実はもう一つ、大切な条件がある。それは、著者の「声」だ。
なんと、「声」も判断材料なのだそうです。
でも、次の引用を読むとなんとなくわかるような気がしてきます。
その声を音楽のようにずっと聴いていられるか、聞き手を緊張させないか、力が入りすぎていないか、大きすぎたり小さすぎたりしないか、早すぎたり遅すぎたりしないか、声に嘘がないか。これは全く言語化できず、本当に直感で決めているもので、もちろん独断と偏見でしかない。だが、著者に会って話を聞いた際に、本の中に流れているものと同じものを感じることができるか、そこに違和感がないかは、センジュ出版にとって肝心要のポイントだ。どんなに胸を打つ文章であっても、書籍の相談は必ず本人にお目にかかって直接声を聞いてからにしているし、一方でその方の文章を読んでいなくても、声を聞いてその場で執筆の依頼をさせていただくこともある。
編集者というのは、文章を校正する技術だけではできない仕事です。
いわば、原稿を依頼する人が本物かどうかを見分ける”鼻が効く”ことが絶対条件。
その鼻の効かせ方は編集者さんそれぞれなのでしょうが、「声」というのは興味深い。
言葉を生業にしている方だけに、言葉が乗る「声」に何か特別なもの感じてらっしゃるのかもしれません。

とうちゃん、ボイストレーニングしないといけないね。

いや、だからそういうことでじゃないって。
『しずけさとユーモアを』:まとめ

この編集者さんの本なら間違いない
僕が初めて著者の吉満明子さんとお会いしたのは2016年の夏。
夜、北千住で飲み会があり、ブロガー仲間との待ち合わせ場所として指定されて訪れたのが6畳畳間のブックカフェ「Book Cafe SENJU PLACE」さんでした。
その時のことを紹介記事にしているのでこちらをどうぞ。
世はカフェブームではありましたが、まさかこんな駅から離れたところで、しかも目立たない古い木造アパートで(実際見つけられずに一回通り過ぎてしまった)、しかも6畳だけでカフェをしているなんて。
それだけでも興味深いのに、一人で出版社をしているという。
本好きの僕はすっかり興味を持ってしまい、一冊本を購入してみました。
それが、『ゆめのはいたつにん』。
紹介記事はこちら

で、この本にガツンとやられたわけですよ。
めちゃくちゃいい本やん! と。
以後、何冊かセンジュ出版さんの本を読ませていただいていますが、ハズレはなし。
僕も長く書評ブロガーなどをやっている関係上、編集者さんとの親交もそれなりにあって、その中には何人か「この人の手掛ける本なら間違いない」という編集者さんがいますが、その筆頭が吉満明子さんです。
で、どうしてこんないい本が作れるのか、人の心に染みるストーリーを持つ人物を見つけてこれるのか、不思議に思っていたましたが、本書を読んで全て納得できました。
こんなに深く粘り強く相手の「本当」が言葉となって出てくるのを待つことができ、それを持っていることを見抜ける人だったんですね。
とにかくいつお会いしても明るくチャキチャキしていて、ママチャリを颯爽と漕いでいるのが似合っている人という”陽”の印象が強い方ですが、言われてみればなんというか、人を油断させるキャラというか、この人だったら全部話してしまうなぁという方。
そんな吉満さんだからこそ、心に染み入る作品ができるんでしょうね。
もちろん、本づくりへの真剣さと厳しさも本書からひしひしと伝わってきます。
もし、編集者という仕事に憧れている方なら、一度この本を読むといいでしょう。
ここまでやれるからこそ、良い作品が誕生するのだというのがわかるお思います。
運命と追い風
さて、本書の感想を少し。
本書を読んでいる間ずっと、僕の大好きな映画「フォレスト•ガンプ」の最後に、ガンプがジェーンのお墓の前でいうセリフが頭に浮かんでいました。
「僕らには運命があるのか、それとも風に乗ってたださまよってるのか。たぶん両方だろう」
「フォレスト・ガンプ」
僕は人間というのはみんな生きるテーマとか、この世でなすべきお役目を持って生まれてくると思っているんですね。
でも、何をすべきなのか、自分のテーマがなんなのか記憶がない。
だから、自然とテーマに向かって生きることになる人もいるし、全く逆方向に自ら進む人もいる。あるいはなんの意思もなく、ただ風に乗ってさまよっている人もいる。
で、本書を読んでいくと感じるのは、まるで張り巡らせた伏線を回収していく小説のように、吉満さんの人生がみごとにセンジュ出版という一つの仕事一つの場所に収束されていくんです。
子供時代の『モモ』との出会いから始まって、学生時代のレターカウンセリングや福祉のボランティアで得た教訓。
愛媛県伊予市でよそ者として関わった情報発信。
出版社でのスタートアップ体験。
家庭を顧みずワークホリックのように猛烈に働いた時期。
東日本大震災とその翌年の長男出産と育児。
極め付けは現在のセンジュ出版とカフェのある木造アパートを内見で即決したこと。
パートナーと最初に住んだアパートに似ているからという理由からだなんて、もう人生全てが”伏線”ですよ。
だから、本書を読んで、「この人は間違いなく運命に向かって追い風に吹かれている人だ」と確信しました。
そしてそういう人は当然ながら強い。
ますます追い風は強くなり、人生のスピードも加速していくでしょう。
この本は、著者が「センジュ出版の第1巻」というように、まだまだ未完です。
今後、どんな風にセンジュ出版が展開していくのか、どんな作品が世に送り出されるのか、ファンとしては楽しみですが、どんなに加速しても、タイトルのように「しずけさ」と「ユーモア」を湛えたセンジュ出版であり吉満さんであり続けて欲しいとも欲張りなファンとしては思っています。
スモールビジネスのスタートアップ本として読んだ場合
さて最後に、多分著者は嫌がると思いますが、本書をスモールビジネスのスタートアップ本として読んだ場合のポイントを書いておきます。
ちなみに、なぜ著者が嫌がるかというと、本書でも赤裸々に書かれていますが、経営的にまだまだ大成功というレベルではないんですね。
ただ、この時代に出版社を起ちあげるというだけでも勇気があることですし、ましてや存続していけているのは凄いことだと思います。
で、存続できた理由としては、吉満さんの人間的魅力と編集者としてのスキルが十分にあったことが大前提としてあります。
しかし、問題なのは本というのは収益が上がるまでに時間がかかるという点。
そこで、カフェを併設し、さらにはその場所を使っての講座を開きキャッシュポイントを増やしたことが大きなポイント。
日銭が稼げる、すぐに現金収入になる売り物があるのは、スモールビジネスのスタートアップにとってはすごく心強い支えとなります。
また、木造アパートを改装した6畳の小さなカフェというのも話題性があって結果的にはブランディングにもよかったのではないかと。
そしてもうひとつ、北千住という地域に根差した、地に足がついた活動をしていることもポイントでしょうね。
以上まとめると、
- 自分のメインスキルで戦う
- 小さく始める
- キャッシュポイントを複数持つ
- 地域に根差した活動をする
意図してなのかは知りませんが、すごくまともだ!
エピソード1 センジュ出版誕生記
著者プロフィール
1975年、福岡県生まれ。株式会社センジュ出版の代表取締役。編集プロダクションや出版社勤務を経て2015年、センジュ出版を足立区千住に設立。
出典轆:『しづけさとユーモアを』
『しずけさとユーモアを』:もくじ
はじめに 多くを語らない友人
1章 編集とはこえを聴くこと
2章 揺さぶられた人生
3章 6畳2間の出版社
4章 2冊の本の誕生
5章 いくつかの涙
6章 映画と弱さと愛しさと
7章 しずけさとユーモアを
おわりに 家族へ
関連書籍
センジュ出版の刊行本と吉満明子さんが編集に関わった本
センジュ出版の税理士、田村麻美さんの著書
センジュ出版誕生のヒントとなった本
編集後記
先日上京した時に直接ご著書をいただき、サインもしてもらいました。

