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『夜と霧』【読書メモ】人間はどのような状況下でも精神の自由を失わずに生きることができる

 

あらゆる読書特集やおすすめ本のリストに必ず登場するのが『夜と霧』 です。

第2次大戦中、ナチスのユダヤ人収容所に送られた精神科医の著者による体験談とそこでの収容者の精神の観察は、極限状態に置かれた人間を冷静に観察し、また、ごく一部、このような状況にあっても魂を失わない人達がいたことを教えてくれます。

今回は本書を読んでの僕の読書メモをシェアしたいと思います。 

 

『夜と霧』の読書メモ

 

★内面への逃避

 

 強制収容所に入れられた人間は、その外見だけでなく、内面生活も未熟な段階に引きずり下ろされたが、ほんのひとにぎりではあるにせよ、内面的に深まる人々もいた。もともと精神的な生活を営んでいた感受性の強い人々が、その感じやすさとはうらはらに、収容所生活という困難な外的状況に苦しみながらも、精神的にそれほどダメージを受けないことがままあったのだ。そうした人々には、おぞましい世界から遠ざかり、精神の自由の国、豊かな内面へと立ちもどる道が開けていた。繊細な被収容者のほうが、粗野な人々よりも収容所生活によく耐えたという逆説は、ここからしか説明できない。

★愛により、愛のなかへと救われる

 

 そのとき、ある思いがわたしを貫いた。何人もの思想家がその生涯の果てにたどり着いた真実、何人もの詩人がうたいあげた真実が、生まれてはじめて骨身にしみたのだ。愛は人が人として到達できる究極にして最高のものだ、という真実。今わたしは、人間が詩や思想や信仰をつうじて表明すべきこととしてきた、究極にして最高のことの意味を会得した。愛により、愛のなかへと救われること!人は、この世にもはやなにも残されていなくても、心の奥底で愛する人の面影に思いをこらせば、ほんのいっときにせよ至福の境地になれるということを、わたしは理解したのだ。

★精神の自由

 

 収容所の日々、いや時々刻々は、内心の決断を迫る状況また状況の連続だった。人間の独自性、つまり精神の自由などいつでも奪えるのだと威嚇し、自由も尊厳も放棄して外的な条件に弄ばれるたんなるモノとなりはて、「典型的な」被収容者へと焼き直されたほうが観のためだと誘惑する環境の力の前にひざまずいて堕落に甘んじるか、あるいは拒否するか、という決断だ。
<中略>つまり人間はひとりひとり、このような状況にあってもなお、収容所に入れられた自分がどのような精神的存在になるかについて、なんらかの決断を下せるのだ。典型的な「被収容者」になるか、あるいは収容所にいてもなお人間として踏みとどまり、おのれの尊厳を守る人間になるかは、自分自身が決めることなのだ。

★運命 ーー 賜物

 

 それはなにも強制収容所にはかぎらない。人間はどこにいても運命と対峙させられ、ただもう苦しいという状況から精神的になにかをなしとげるかどうか、という決断を迫られるのだ。病人の運命を考えてみるだけでいい。そりわけ、不治の病の病人の運命を。わたしはかつて、若い患者の手紙を読んだことがある。彼は友人に宛てて、自分はもう長くはないこと、手術はもう手遅れであることを知った、と書いていた。こうなった今、思い出すのはある映画のことだ、と手紙は続いていた。それは、一人の男が勇敢に、プライドを持って死を覚悟する、というものだった。観たときは、この男がこれほど毅然と死に向き合えるのは、そういう機会を「天の賜物」として与えられたからだと思ったが、いま運命は自分にその好機を与えてくれた、と患者は書いていた。

★過酷きわまる外的条件が人間の内的成長をうながすことがある

 

 「強制収容所ではたいていの人が、今に見ていろ、わたしの真価を発揮できるときがくる、と信じていた」
けれども現実には、人間の真価は収容所生活でこそ発揮されたのだ。おびただしい被収容者のように無気力にその日その日をやり過ごしたか、あるいは、ごく少数の人々のように内面的な勝利をかちえたか、ということだ。

★生きる意味を問う

 

 ここで必要なのは、生きる意味についての問を180度方向転換することだ。わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ、ということを学び、絶望している人間に伝えねばならない。哲学用語を使えば、コペルニクス的転回が必要なのであり、もういいかげん、生きることの意味を問うことをやめ、わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。生きることは日々、そして時々刻々、問いかけてくる。私たちはその問いに答えを迫られている。考えこんだり言辞を弄することによってではなく、ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。生きることはつまり、生きることの問に正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない。

★経験を奪うことはできない

 

「あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない」
 私たちが過去の充実した生活のなか、豊かな経験のなかで実現し、心の宝物としていることは、なにもだれも奪えないのだ。そうて、わたしたちが経験したことでけでなく、わたしたちがなしたことも、わたしたちが苦しんだことも、すべてはいつでも現実のなかへと救いあげられている。それらもいつかは過去のものになるのだが、まさに過去のなかで、おそらくはもっとも確実なあることなのだ。

『夜と霧』感想

いつ死ぬかわからない、つねに自分の意志とは関係なく死が訪れる環境で、自分を見失うことなく、精神の自由を保った人達がいたこと、そしてその人達はどんな人達だったのかを、自らも収容者の立場でありながら、精神科医として冷静に分析してくれている非常に貴重な本です。

平時においてここまで究極の極限状態に置かれることは、内戦中の国や独裁国家でもなかなか無いでしょう。

しかし、本書内で著者も言っているように、レベルの違いはあっても、なされるがままの人生を選ぶのか、それとも精神の自由を失わずに生きることの問に答え続ける人生を選ぶのかは、我々の日常生活でも同じです。

ガス室に送られなくても、やがて我々の人生も終わりが来ます。
その時期を選ぶことができないのは同じです。

外的状況の圧迫に屈して生きるのか、それとも精神の自由を失わずに生きるのか。
どちらを選ぶかは自由です。

ただ本書は、どのような厳しい状況においても、精神の自由を失わずに生きることが人間には可能であることを教えてくれます。

目次

心理学者、強制収容所を体験する
第一段階 収容
第二段階 収容所生活
第三段階 収容所から解放されて

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