5代目天狼院秘本が先日ご開帳となりました。
と、いきなり言われても何のことかわからない 読者の方も多いことでしょう。
天狼院書店と秘本については後ほど説明しますが、僕は5代目天狼院秘本の”売り方”と”売れ方”を見ていて一種の感動を覚えたのでご紹介しよう思います。
というのも、この5代目天狼院秘本には、感動するだけでなく、本が売れず、苦戦しているリアル書店にとってはヒントがたくさん盛り込まれているからです。
ぜひリアル書店生き残りのための参考にしていただければと思います。
天狼院秘本とは
天狼院秘本とは、東京池袋にある天狼院書店さんが始めた面白い本の売り方。
本のジャンルも著者名もタイトルも明かさず、ブックカバーをかけて、ビニールに入れたビニ本状態(←完全に死語)で中を確認もできないようにして販売していて、返品も不可という本のこと。
もちろん購入してからも、”ご開帳”となるまでは購入者も秘密を守り続けなければならないという本です。
僕が天狼院秘本を買い続ける理由
この一体何かわからない本が売れるのか? と疑問に思われるかもしれません。
普通は購入する後躊躇しますよね。
特に多読家の方ならすでに持っている、あるいは読んだことのある本とかぶる可能性も高いわけです。
でも僕は初代から5代目までの計6冊(4代目は2冊セット)をすべて購入しています。
それはなぜか?
もちろん中身がわからない福袋的ワクワク感も魅力の一つではあります。
実際、注文してから届くまで、そして包装を解くまでの「何かな、何かな」といったドキドキ感は、普通に本を購入した時にはない楽しい体験です。
しかし、本ってどこで買っても同じ定価販売で福袋的なお得さはない、というより遠く離れた四国の地で住む僕にとって送料がかかる分割高になってしまいす。
なのになぜ買うのか。
それは天狼院書店店主三浦さんに、”本の目利き”としての絶対の信頼を置いているからです。
この人の言う「超絶おもしろい」「めちゃくちゃいい!」を信じているからです。
で、実際に購入してみると本当にいい本ばかり。
そうなると「次は何かな」「どんな本が来るかな」と楽しみになり、気が付くと初代からすべての秘本を購入してしまっていたという。
ちなみにこれまでの天狼院秘本の中から、すでにご開帳となっている本の当ブログでの紹介記事のリンクを2つ貼っておきます。
書店の店主や店員が強力な”本の目利き”であり、その選書眼にお客が絶対の信頼をおいている状況を作り出すこと。
そのためには書店の店主や店員自身が読書家であることが絶対必要条件です。
が、「ここの書店には目利きがいるな!」と感じさせる書店って本当に少ないんですよね。
5代目天狼院秘本は買わずにはいられないストーリーがあった
さて、最新の5代目天狼院秘本、冒頭でお伝えしましたが、その”売り方”と”売れ方”に僕は感動しました。
こちらの天狼院さんのブログのエントリーをお読みいただいきたいのですが(長い文章だけど絶対読んでください)、
今回の秘本は糸井重里さんが推した本でした。
いわく、いい本なのに売れていない、天狼院の力を借りて世に出したい、このままでは絶版になってしまうと。
で、実際読んでみると店主の眼鏡にかなう作品だった。
というか傑作なのでした。
しかしこの本、最初から刷り部数が少ないので在庫がない上に売れ行きが良くなくて重版はありえない。
そこで店主が出した要望は、天狼院が1000冊買い切るので重版してほしいというもの。
単行本1000冊といえば小さな書店にとっては相当の金額になる上に在庫を抱えるリスクもある。
また、重版するには1000冊という冊数は出版社にとっても利益を出すには少なすぎる刷り数です。
しかし版元もこれにオーケーを出します。
こうしたストーリーがバックにあって5代目天狼院秘本が販売されました。
糸井重里さん、天狼院さん、版元さんの「傑作なのにこのままでは絶版になってしまう。リスクを負ってでも、なんとかこの本を世に出したい」という熱意が込められているのです。
こんなストーリーを知らされたら買わずにはいられないないじゃないですか。
絶対売れるのが確実な超有名作家の新刊を買い占めて販売するどこぞの大型書店とはまったく心意気が違うのです。
「本当にいい本だから世に出したい」、その熱意が伝わってくるのです。
その結果、なんと1日半で1000冊の予約完売!
すぐにさらなる増刷、追加予約する事態となりました。
よくマーケティングのビジネス書で「ストーリーで売れ」という言葉を聞きますが、瞬く間に「予約します!」の注文コメントが三浦さんのFBのタイムラインにずらずらと並んでいく、僕はリアルタイムでその瞬間を見たのでした。
もちろんこれを達成するには、これまで天狼院さんがやってきた”お客さまのファン化”があってのことだというのは言うまでもありません。
ここで僕がいいたいのは、出版不況だとか活字離れだとか本が売れない時代だとか言っているけれど、そんなのは嘘だということです。
本はまだまだ売れるのです。
厳しいことをいいますが、リアル書店が本気で本を売ろうとしていないだけなのだということです。
リアル書店にできることはいくらでもある
以前書いたこちらの記事
このエントリーの中で、リアル書店がネット書店に対抗する方法の例として天狼院書店のことを書きました。
この中で僕は、書店の店主や店員さんは本の目利きであって欲しいと書いています。
天狼院さんは”部活”と称して、お客さまが参加されるイベントを頻繁に開催しています。
中には「これって本屋さんがすること?」といった内容のものもあります。
しかし、こうしたリアルに人が集まるイベントと場を提供することでファンを確実に増やしています。
ただ、本屋である以上、お客さまをファン化するそのベースは店主や店員が”本の目利き”であることだと思います。
そもそも本好きが本屋に来るのですから、店主が本の目利きで好きな本や最近読んだよかった本の話題をお客さまとすると楽しいに決まっています。
そして話していると「ここの店主、そうとう本を読んでいるな」というのがわかります。
そうなると、「ここの店主がオススメするのだから読んでみようか」となるでしょう。
さらにいうと、本当に本が好きで、
本を売ることにある種の狂(クレイジー)を込めている
というのが伝わってきます。
僕は不思議でしょうがないのですが、なぜ、普通の書店はお客さまとコミュニケーションをとらないのでしょうか?
「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」しか言われたことがないですよ。
これすごく書店にとってもったいない状況だと思います。
みすみすファン化する可能性のあるお客さまが素通りしていっている。
こちらは天狼院書店さんの常連さんが寄稿されたエントリーですが
後半部分に
つまらないのだ。
楽しくない。
本があるだけでは、本がたくさんあるだけでは、もう満足できなくなってしまったのだ。大きな本屋さんにいって、ふと思ってしまう。
なぜ、この本屋さんの店員さんは声をかけてこないのだろう。
「どちらからいらしたのですか?」とか「どんな本をお読みになるのですか?」とか「こちらははじめてですか?」とか、とか。
これ、僕もすごくわかります。
天狼院を一度でも経験したら、もう普通の本屋では物足りないのです。
そしてこの言葉
本を買う以外に、その本屋に行く理由が欲しい!
この言葉にリアル書店が生き残るためのヒントとなると思います。
本を買うだけならネット書店が圧倒的に便利なんです。
その便利さに勝るだけの”本屋に行く理由”を作ることこそが、リアル書店が生き残るための方策だと思います。
5代目天狼院秘本ご開帳
さて最後にもうご開帳となったので、5代目天狼院秘本を紹介しましょう。
鉄のゲージツ家、クマさんとこ篠原勝之さんの『骨風』でした。
最近はテレビでお姿を拝見しませんが、昔はタモリさんの番組でよく見かけた、スキンヘッドに着物の着流しのあの方です。
小説ということですが、クマさんの自伝的な連作エッセイ集で、とにかく内容は素晴らしいの一言。
老齢に達したクマさんだからこそ書くことができる、家族、病、死、痛み、悲しみ、出会いと別れが、しんみりとユーモラスに染みこんでくる作品です。
僕は今年の個人的な課題としてエッセイを多めに読んできましたが、間違いなく断トツのナンバーワンです。
本当にいい本でしたので、これは僕も沢山の人に読んでもらいたい。
できれば天狼院さんで購入して欲しいのだけれど、天狼院さんに在庫あるのかな?
著者のクマさんを招いてのイベントも行われるようですし、ぜひ天狼院さんをのぞいてみてください。
しかし、遠方で天狼院にはいけないという方。
この記事でAmazonのリンクを貼るのはちょっとはばかられたのですが、僕と同じ地方の方のためにリンクを貼っておきます。
が、紙の本は現在在庫切れの模様。
しかし耳寄りな情報を。
ただいま文藝春秋社がポイント50パーセント還元のkindleセールをやってまして、『骨風』もセール対象本となっています。
この機会にぜひお読みください。本当にいい本です!