今年劇場で観る2本目、「アメリカン・スナイパー」を観てきました。
これは戦争の何たるか、戦争か奪うのは命だけではないことを訴える良作です。
「アメリカン・スナイパー」、命を奪うだけではない、戦争は心も破壊する
「アメリカン・スナイパー」を観てきました。
本映画は2003年から09年まで、イラク戦争に4度派遣されたネイビーシールズ(海軍特殊部隊)の伝説の狙撃手クリス・カイルの自叙伝
が原作の実話です。
彼は狙撃手として米軍史上最強のスナイパーといわれ、160人以上射殺した兵士。
しかし家庭ではごく普通の心優しい夫であり父でもあります。
任務のため、味方を守るため、かれは子供や女性であろうと米軍に危害を及ぼすものを射殺していきます。
その任務の中で、彼の心は蝕まれていく姿がこの映画ではよく描かれています。
いわゆるPTSDに苦しむようになっていくのです。
戦争映画ですので、残虐な場面や命があっけなく次々と奪われていくシーンが登場します。
しかし、戦争の恐ろしさや悲惨さは、生命や財産を奪われるだけではないことを彼の生涯を通して本作は訴えかけてきます。
彼と同じようにPTSDに苦しむ人達が後半では登場します。
言えることない苦しみを抱えながら生きなければならない人たちを見ると、いっそ戦場で死んだ方がマシだったのではないかとさえ思ってしまいます。
また、その元兵士たちの家族へも戦争の影は確実に迫っていき、家庭を破壊してしまうとういことも表現されています。
戦争とは、戦場が破壊され、命が奪われるだけでは終わらない。
生き残った兵士やその家族も犠牲になる。
そんな現実がひしひしと伝わってくるのが本作です。
クリント・イーストウッド監督に敬意を表します
この作品の監督は名優にして名匠のクリント・イーストウッド。
彼は「父親たちの星条旗」「硫黄等からの手紙」で戦争映画を撮っています。
この2本で私はクリント・イーストウッド監督のことをとても公平で正直で真実を伝える監督だと感じ、なんというか一種の「信頼感」を持っています。
そして今回の作品でもその思いをさらに強くしました。
ことさらにクリスを英雄として描くことをせず、アメリカの戦争を正当化するような描き方もしない。
過酷で非情な戦場のシーンと、ごくありふれた日常生活のシーンがうまく絡んで、ただただクリスという凄腕のスナイパーであり心優しい父親を、一人の人間としてその心の動きを追っていきます。
そして見事に「戦争は心を破壊する」というテーマを伝えてきます。
なので、本編中ではクリスがどれほどアメリカで英雄として讃えられていたかは殆ど語られていません。
観客は、エンドロールの葬儀の実写シーンでようやくそれを知るのです。
(クリスは2013年2月2日に心病に悩む元兵士によって射殺されました)
あくまで、ごく普通の一人の男としてクリスを描いたクリント・イーストウッド監督に、私は敬意を評したいと思います。
(アカデミー賞は残念だったけど)
戦争美化映画ではない!
なのにですよ、この映画には賛否両論あるのです。
「戦争賛美だ!」などと批判する人がいるのです。
この映画を「戦争賛美」と批判する人は、映画を観ずに批判している人か、観たけれど自分の政治的立ち位置で批判するしかないポジショントークか、あるいは理解力がない人でしょう。
ぜひ実際に観て、これが戦争賛美映画か、あるいは戦争の本当の恐ろしさをうったえた映画なのか、ご自分で判断していただきたいと思います。
最後に、クリス・カイルとすべての戦争による犠牲者の冥福を心からお祈りいたします。
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