
映画から歴史的教養や雑学を学ぶ教養的映画鑑賞、26回目の今日は『フューリー』です。
第2次世界大戦、終戦が近い1945年4月、ドイツへ侵攻する米軍戦車部隊の戦いを描いた作品です。
タップできる目次
はじめに:『フューリー』、本物のティーガー戦車の迫力は必見!
ストーリー(Amazonより)
1945年4月、戦車“フューリー”を駆るウォーダディーのチームに、戦闘経験の一切ない新兵ノーマンが配置された。
新人のノーマンは、想像をはるかに超えた戦場の凄惨な現実を目の当たりにしていく。
やがて行く先々に隠れ潜むドイツ軍の奇襲を切り抜け進軍する“フューリー”の乗員たちは、世界最強の独・ティーガー戦車との死闘、さらには敵の精鋭部隊300人をたった5人で迎え撃つという、絶望的なミッションに身を投じていく。
たった一輌の戦車でドイツの大軍と戦った5人の男たちは、なぜ自ら死を意味する任務に挑んだのか―。
歴史教養的見どころ
◆本物のタイガー戦車を浸かった戦車戦
この映画での見どころはなんといっても戦車戦のシーンです。

いくつか戦闘シーンがありますが、なかでもティーガー(タイガー)戦車との戦闘シーンは必見。
このティーガー戦車、現存する走行可能な世界で唯一の本物なのです。

第2次世界対戦を題材にした戦争映画は数多くありますが、その制作で難しいのはいまはもう存在しない兵器をどうするかという点です。
「男たちの大和」では戦艦大和の巨大なセットとCGの組み合わせ。
「永遠の0」など戦闘機の空中戦のシーンはほぼCG。
かつての模型を使っての特殊撮影に比べればCGはかなり迫力のある映像が作れるようになりましたが、やはり本物の迫力には及ばないということを本映画では見せつけられます。

また、この映画でわかる史実としては、当時のドイツ軍の戦車のレベルの高さと米軍を含む連合軍の戦車の脆弱性です。
ティーガー1両に対してウォーダディーたちが乗るM4シャーマン戦車は4両必要だったと言われています。
M4シャーマンの75mm砲ではティーガーの正面装甲を貫くことができませんでした。
劇中でもシャーマンの徹甲弾を跳ね返していますね。
「化けものか!」とか「ティーガーだ!逃げるぞ!」なんてセリフが登場しますが、大戦中の連合国軍兵士にとってティーガー戦車は巨大な脅威だったのです。
◆ヒトラーユーゲントの攻撃、見せしめの死体がぶら下がるドイツ領内
映画序盤の戦闘で、ドイツ少年兵がウォーダディーたちの米戦車部隊を襲うシーンがあります。
ドイツ兵が子どもということで新兵のノーマンが撃つことをためらっている内に、味方に損害がでてしまいます。
彼らはヒトラーユーゲント。
もともとは10歳〜21歳までの青少年(少女も)を、肉体鍛錬、軍事訓練、祖国愛などを教育して集団活動させ、その中から選抜した優秀な少年たちで部隊を構成して突撃隊(SA)のもとで管理したのでした。
この映画の1945年4月はもうドイツ降伏が目前で(実際4月にはベルリン包囲が始まっており、4月30日にヒトラー自殺、5月9日にドイツは無条件降伏する)、予備兵力はほとんどなく、10代前半の少年というよりは”子ども”という方が妥当な少年少女達が国防に当たらされています。
彼らは装備も訓練も不足したまま戦場に送られ、大きな犠牲を出しています。
また、戦車部隊が進んでいくと「戦いを拒んだ卑怯者」といったプラカードを付けたドイツ人の死体が見せしめとなっているのも映画に登場します。
最後に個人的な感想を
大迫力の戦車戦は見応えがありましたが、映画全体で見るとちょっとストーリーに無理があるかなと感じてしまいました。
この映画最大の見せ場である最後の戦闘シーンですが、300人のドイツ精鋭部隊と動けなくなった戦車1両と乗員5名で無理に戦う理由がないように思います。
「プライベート・ライアン」でも最後に不利な戦闘を行うシーンが登場しますが、あの場合はノルマンディー上陸作戦直後でまだまだドイツ軍が健在な時。
それに対して、「フューリー」では、もうドイツの敗北が間違いない時期です。
無理な戦闘をせず、一旦退却しても大勢に影響はないのです。
しかも「乗員の命をもまるのが俺の任務だ」的なセリフを吐いていたウォーダディーなのに、どうしてこのシーンでは戦うことにこだわるのかわからない。

また、5人が強い絆で結ばれていた的なことを表現したかったようですが、途中の民家で休息するシーンでの滅茶苦茶ぶりをみていると、とてもチームワークのとれた集団には見えない。

戦闘シーンが見応えあるだけにストーリーに説得力がなかったのが残念な映画でした。
基本データ
監督:デビッド・エアー
主演:ブラッド・ピット
公開:2014年
135分
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