前回に続いて、横田尚哉さんの本日発売の新刊を。
かなり内容の深い専門書だった前作にくらべ、今回は身近なテーマを題材にしたファンクショナル・アプローチの入門・解説書となっています。
【目次】
はじめに
1 タウン編
点字ブロックに見る顧客満足
街のカフェをファンクショナルに分析する 他
2 オフィス編
「部長、ハンコください」の“意味”を考える
社内規程は「誰のため?」 他
3 プライベート編
活用しきれていない家電のファンクション
ファンクショナルではない「リビング」は要らない 他
4 パブリック編
不案内な案内図
学校教育と企業内人再開発 他
おわりに
【ポイント&レバレッジメモ】
今回は内容をまとめるのではなく、気になったポイントをBBM風に抜き出してみました。
どんな企業にも必ず商材があります。製品かもしれないし、サービスかもしれません。忘れてはいけないのは、必ずそこに顧客がいるということです。使用者あるいは、購買者ととらえても良いでしょう。
企業活動が流れはじめると、カタチでの管理が始まり、カタチで指示して、カタチで判断して終わってしまいます。効率化が進むにつれ、ファンクションが意識されずに、ますますカタチの世界にどっぷりと入り込んでいくのです。「顧客はファンクションの達成を望んでいる」ことを忘れてはいけません。もっとあからさまに言えば、「顧客はファンクションの達成のために消費する」のです。
優れたビジネスマンは、ファンクションで捉えます。ファンクションで捉えるから、いろいろなカタチを創造することができるのです。
ほとんどのビジネスは、カタチを提供するものです。それぞれの企業が、ファンクションを達成するための手段を開発し、使用者に提供していくものです。
しかし、ヒットしたからという理由で、そのカタチに固執し続けると、時代の変化に追随できず、カタチの衰退と共に企業も衰退していくのです。(社内規程は)≪管理を円滑にする≫ことを優先するがあまり、低質の社員はいなくなりましたが、高質の社員までいなくなってしまったのです。
社員の行動や権限を統一すればするほど、思考を停止させ、行動を抑制させてしまうからです。質を揃えてしまったことにより、既定の通りにしか行動できない社員になってしまうのです。
本来、企業には創造的思考を持った、発想力の豊かな社員が必要です。ある程度の自由度とある程度の権限を残すことで、自ら考え自ら行動できる余地を残しておくことです。それが企業としての改革の源泉となるのです。実は、この「マニュアル」のファンクショナル・アプローチをしていて、私には気がついたことがあります。
それは、「マニュアルが判断を下し、行動を決め、情報を与える」ということです。本来は社員が行うべきことを、マニュアルに肩代わりさせているのではないかということです。これでは、社員はマニュアル・オペレーターです。すべての要素には狙いがあり、その狙いがバランスよく連携していることが重要なのです。
「ホウレンソウ」という、とても覚えやすくメジャーな言葉が、全てのビジネスマンに「常識」という枠をはめていないでしょうか。「ホウレンソウ」ができるかできないかで、できる社員かできない社員かということまで判断してはいないでしょうか。
このようにカタチにとらわれてしまうと、いつまでも「ホウレンソウ」をし続けることになるのです。
ビジネスの環境が変化しているにもかかわらず、「常識」という先入観が、日々無駄な時間を浪費させているのかもしれません。あなたの職場では、いかがでしょうか。ビジネスリーダーが考えなければならないことは、キー・ファンクションなのです。
そもそも「何のため」なのかということです。そのキー・ファンクションを手放さずに、手段を手放していくことなのです。
これから、ますます環境が変化し、いろいろなツールが使えるようになります。その時々に過去を手放して、未来をつかむことができるかどうかです。
それができるリーダーこそが、これから生き残っていくリーダーです。だから、ファンクショナルな視点を持っていただきたいのです。ムダを取り除き、行動をどんどん改善していただきたいのです。私たちはカタチにとらわれているので、カタチがなくなると、とても不安になってしまいます。その結果、カタチを手放すことをやめてしまうのです。カタチが欲しかったのではない、ということに気がつかないのです。
人はカタチが欲しいのではありません・ファンクションが欲しいのです。
多くの人は、改善できるのではないかと感じながらも、その手段を見つけ出せないまま、今のカタチにとらわれてしまっているのです。自分にとって正当な理由を見つけ、感じないようにして、新しい手段が現れるまで待っている状態なのです。
ファンクショナルな視点を身につけるということは、カタチの本質に気づくことなのです。
まずはじめにファンクションがあり、その後に、その環境の中で最適とされる手段を組み合わせたシステムができます。長い時間の経過の中で、外部環境と内部環境は変化します。その変化に応じて、システムも変わっていかなければなりません。
カタチばかりにとらわれてしまい、カタチに慣れてしまうと、カタチを手放せなくなってしまいます。そして変わるタイミングを逃してしまったシステムは、ファンクションにつながらないカタチが取り残され、それが目的になってしまうのです。
【感想など】
前回の記事で、ファンクショナル・アプローチを知ると物事の本質を見るようになり、
「世の中が違って見える」とか、
「このメソッドを知ることは人生の武器になる」といったことを書きましたが、本書はまさしくその例題集といえます。
日頃、なんの疑いもなく受け入れていることがファンクショナル・アプローチを用いて、すこし考えただけで、全く違った側面が見えてくる。
これ本当に面白いです。
それと同時に、「人間は見たいものしか見ない」ということを痛感させられます。
まさしく、本書でいう「カタチあって役割なし」とか「役割あっても発揮せず」といったものに気がつかずに生活しているのですねぇ。
例えばオフィス編で取り上げられているハンコ。
古くはインダス文明の印章や中国から贈られた金印など、非常に歴史が古いもの。
しかし、本人でなくても押せるハンコはセキュリティーの点から言えば結構危険でもあるし、書類に上司のハンコをポンポン押してもらって回る(ワタクシはこれをスタンプラリーと呼んでます)のって時間がかかる。
技術が進んでいるのだから単なる認証システムなら他に方法はいくらでもあるのに、このシステムを変えようとしない。
それはハンコというカタチにとらわれていて、そのファンクションを考えようとしないから。
「ホウレンソウ」もそう。
これだけスマートフォンやSNSが普及しているのにどうして面と向かって報告しないといけないのか?
だいたい「ホウレンソウ」したいときって上司は出張だったりすること多いし。
ハンコもホウレンソウもたいていの場合は上司待ちで、作業効率は向上するどころかブレーキがかかることが多いですよね。
でも誰も変えようとしない・・・。
それから、
学校教育をファンクショナル・アプローチしてみた結果はかなり目からウロコでした。
詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、
義務教育は、子どもたちを取り巻く周囲に対して≪義務を与える≫はたらきがあり、それを達成させることで≪学習環境を整える≫狙いがあるということが抜き出せます。
子ども自身に義務が発生するものでも、教育という行為に対する義務でもなかったということです。
という一節に「えーっ、そうなんですか?!」とまず驚き。
そして最終的に
究極を言えば、≪資質を養う≫目的が達成されれば、日本で行われている今の「学校教育」システムにこだわる必要はない
となります。
もちろん「資質」とは一体何か?という点は問題点として残ります。
ワタクシ個人的には部活や人間関係など、「学校でしか養えない資質というものがある」と思っていますし、その反面、今の学校教育は産業界で使える人材、もっとぶっちゃけて言えば、「文句言わずに働くという資質」を養うためのカリキュラムで画一的だとも思います。
しかし、これだけ生徒や世の中の価値観が多様化している現在、ファンクションとして学校を見た場合、けして学校だけが教育の機関ではないことが理解されるし、これからの変化の激しい社会では、多様な教育の在り方が求められるのだと思います。
いずれにしてもファンクショナル・アプローチを使えば学校教育といった「常識」さえもファンクションという「本質」で見れてしまう。
その「本質」を見ることが問題解決へ、そして世の中をより良く変えることへと繋がっていく。
そんな例が豊富に載せられているのが本書。
もちろん楽しく読み進めていくうちにファンクショナル・アプローチのメソッドがだんだん身に着いて、もう明日から何を見ても
「それは何のため?」「それは誰のため?」
と考えるようになること間違いなし。
するとあなたはもう「モノ」「コト」の「本質」に眼を向けるようになるし、そしてその思考法は生きる力に直結します。
是非一読を。激プッシュ!
本書はディスカヴァー21社様から献本していただきました。
ありがとうございました。
【関連書籍】
ファンクショナル・アプローチをさらに詳しく知りたい方はこちらをどうぞ

ワンランク上の問題解決の技術《実践編》 視点を変える「ファンクショナル・アプローチ」のすすめ
- 作者:横田 尚哉
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2008/07/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
どこよりも早く、的確な書評を有難うございます。
長いブログですが、読みやすくて、長さを感じませんね。
「スタンプラリー」には笑いました。うまい表現です。
楽しい本ですが、考えるところも、ちりばめておきました。
きっちりと気づいていただき感謝です。
ご指摘の通り「帯」の文字は、大きいですね。
私も「うわぁ」と思いました。
でもこの本が「誰のため?何のため?」を広げるきっかけになり
日本が楽しくなることを願っています。
有難うございました。
横田 様
早速のコメントありがとうございます。
楽しめて読めて、ファンクショナル・アプローチの手法が学べる素晴らしい本だと思います。
おっしゃる通り、この手法が広がって日本を変えて行くきっかけとなればいいですね。
微力ながら応援します。