おはようございます!
今日ご紹介する本は
百田 尚樹、 有本 香(著)『「日本国紀」の天皇論』産経新聞出版
です。
昨年話題になった『日本国紀』の記述の天皇に関する部分を補完する内容で、お御代替わりのこのタイミングでぜひ読んでいただきたい一冊。
では早速、気になるポイントの読書メモをシェア!
百田 尚樹、 有本 香(著)『「日本国紀」の天皇論』:読書メモ
平安時代には権威になった天皇
百田:古代の天皇は圧倒的な武力を持った権力者です。日本の歴史が非常にユニークで面白いのは、天皇はその権力者の座を、すでに平安時代には降りているということです。
百田:世界の歴史では、権力の座を奪われた者は、新しい権力者によって例外なく殺されます。ところが日本の天皇はそうではなかった。平安の終わり以降、日本には権力と権威が分かれて存在することになったわけです。
百田:鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府の「幕府」とは天皇の出張所という意味です。つまり天皇に代わって、政をやっているにすぎないということなのです。西洋や中国は、権力者が入れ替わると、国そのものが変わってしまいますよね。権力者が変わると存在する場所は同じでももはや別の国なのです。
でも、日本は天皇が存在するかぎり、権力者が変わっても、常に同じ国なのですよ。
女性天皇と女系天皇
百田:『日本国紀』にも書きましたが、この話はアニメの『サザエさん』一家を皇室と考えてみるとよく分かります。磯野波平を天皇とすると、もし波平が亡くなってサザエが天皇になれば彼女は男系の「女性天皇」になります。
次にサザエの後に弟のカツオが天皇になれば、そのまま「磯野朝」(図のA王朝)の男系天皇は保たれます。しかしサザエの後に息子のタラオが天皇になると、そこで「万世一系」は途絶え、「磯野朝」から「フグ田朝」(図のB王朝)に王朝が変わります。
歴代天皇の「お言葉」とその力
百田:はい。その詳細な文字起こしを読むと、御前会議の異様な緊迫感が臨場感を持って伝わってきます。
もちろん歴代天皇も人間ですから、いろんな方がいらっしゃいます。けれども、日本の皇位を継いだかぎりは、この国の安寧と永続を願う。それこそがご自分の使命であるというのをもっておられるわけです。それがこの時に言葉になり、我々は知ることができました。
有本:天皇の力、あるいはそれが扇の要のようになって民が一つになる力というのは、危急存亡のときに突如として現れてきます。これも百田さんが『日本国紀』に書かれたことですが、我々の先人は歴史上、何度も平和ボケします。でも、いよいよ本当に日本が危ないとなった時、天皇の持つ力が国民に以心伝心で広がる。そして国民が一致団結して、ものすごい力で国を支えるんですよね。百田さんが先ほど指摘された幕末、そしてポツダム宣言受諾はその象徴的な出来事だったのだと思います。
グローバル時代の自覚
有本:天皇という存在があるから、易姓革命もない、大規模な虐殺もない国で暮らしている。国が根底からなくなる事態を経験していない民族なのですよね。
百田:敗戦でその危機はあったけれどもね。
有本:はい。自分たちはそういう国に生まれたのだと認識させるのが教育です。
それは単純に「私、日本という平和な国に生まれたからラッキー」という話ではありません。自分が日本人に生まれたことを自覚してはじめて、自分とは圧倒的に異なる存在が世界にあると知ることができるのです。これこそがむしろ「多様性」を尊ぶ人となるための第一歩ではないでしょうか。
「地球市民」であればあるほど、つまりグローバルな視点を持ちたいのであればそれだけ、「自分は日本人である」ことを知っていなければならないということです。
「天皇陛下万歳」の意味
百田:その時の「天皇陛下」(戦闘で死んでいくときの「天皇陛下万歳」)とは、形而上的な存在なんですよ。
「天皇陛下万歳」は、いわゆる「昭和天皇のために死ぬ」と言う事では無いのです。「日本国のために」と言う意味なんですよ。ですから「天皇陛下」と言うのは形而上的な存在で、広義の意味では日本そのものなのです。戦後、アメリカから輸入したものの1つに「個人主義」があります。それで「天皇陛下」を昭和天皇という個人に置き換えているところがあるんです。
天皇の祈り
有本:天皇陛下にとって祭祀は非常に重要です。
「天皇の祈り」は、非常に重要で、しかも非常に体力的な負担を伴うものだと拝察しますが、秘せられている部分もあって私たちは全てを知ることができませんね。
有本:宮内庁によれば、年間約20件近くの祭儀が行われているとのことです。このようなことを国民はほとんど知りません。
『「日本国紀」の天皇論』:感想
世界的にあまりにも特異な「天皇」という存在
今年はお御代替わり年。
新天皇の即位に伴う即位礼正殿の儀、即位に伴うパレード(祝賀御列の儀)、そして大嘗祭といった主だった儀式・祭事もすべて無事に終わり、実質的に令和の御代がスタートしたばかりの今、この本を読んでみました。
特に今年は、「天皇とは何か?」「日本人にとって天皇とはどういう存在なのか?」ということを考えることが多い1年でしたが、考えれば考えるほど分からなくなるんですよね、「天皇」という存在が。
いやぁ、本当に不思議な存在なのですよ。
この本の帯に
子供に「天皇」を説明できますか?
とありますが、僕は高校教師として長い間歴史教育に携わってきましたが、生徒に「天皇」という存在を説明するのは本当に難しいと感じていました。
天皇というのは単なる制度に基づく地位でも役職でも権威でもない。
現代に置いては権力もない。
あまりにも特異すぎる不思議な存在なのです。
僕は 世界史が専門でしたが、この特異さというのは世界史の立場から見るとさらに際立ちます。
世界中どこを探しても、このような王族は存在しないからです。
この日本の皇室の特異な点に関してよくフォーカスされるのは、「万世一系」という点。
確かに、権力者や王朝が変わっても、旧王朝が存続するなどということは世界史上他に例を見ません。
通常、権力が新しい王朝に移ると、旧王朝というのは親類縁者に至るまで、その血族は徹底的に根絶やしにされ、その歴史は抹消されたり改ざんされたりします。
それが世界的な”常識”のなかで、古代日本が国としての体裁を整えていった時代の王朝が現在も存続している。
もうこの現実だけでも驚異です。
ですが、「万世一系」だけにフォーカスしてしまうと、「長く続いているからすごい」という表面的な理解で終わってしまい、天皇という存在の本質が霞んでしまうのでなはいでしょうか。
天皇とは、ひたすらに国と国民の弥栄を祈る存在
高校教師時代、授業の中で生徒に天皇という存在を説明するときに困ったのは、我々がテレビなどを通じて知ることができるのは、天皇陛下が務められているお仕事のごく一部でしかないということでした。
だから生徒は、国事行為でお言葉を述べたり、国賓を迎えた時に晩餐会に出席することが主なお仕事だと思っている。
ついでにいうと、”楽で暇な仕事”だと思っている者も多い。
そして、これは生徒だけでなく多くの国民が同じなんじゃないかと。
もちろん国事行為だけでも大変なお勤めであることはいうまでもありませんが、天皇の際立った特異性とその本質は、一般にはあまり知られていない部分、つまり
天皇とは、ひたすらに国と国民の弥栄を祈る存在
という点にあります。
現代でも主だったものだけで年間20以上の祭事があり、陛下はこれを務められています。
たとえば、つい先日も大嘗祭が終わったところですが、これを務めることができるのは世界中で陛下だけです。
しかし、こういった祭事に関することはほとんど報道されず、多くの国民が祭主としての天皇の存在について知らない原因がそこにあります。
それはともかく、「特異性」の話しに戻りますが、まさにこの国民のために祈る存在というのが他国の王族との大きな違いです。
多くの場合、「絶対君主と虐げられ搾取される民衆」という図式が人類の歴史です。
ですが、日本の民と天皇の関係は、”世界標準”とは違うのです。
天皇は民をお想い、民は天皇を敬う関係。
そして、ここからが不思議なところですが、権力が天皇から武士政権に移っても、権力を握った武士は天皇を敬い続けます。
僕は思うのですが、現在の我々が「天皇とは何か?」という問いに答えるのに苦労するように、当時の武士たちもよくわからなかったんじゃないかと。
とにかく”畏れ多く犯し難いもの”、そして”守らなくてはならないもの”という漠然とした感覚。
この感覚の発生源は、やはり天皇が私利私欲ではなく、国民のために祈る存在であり続けていることに起因していると僕は感じてきましたが、本書を読んでその思いを一層強くしました。
「天皇」の存在とは日本国と日本人そのものである
とはいえ、やはり「天皇とは何か?」という問いに、もう少し明確な答えを出してみたいとも思うわけです。
ここで、日本国憲法 第一章 第一条を思い出してみましょう。
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
日本国憲法の制定過程に関しては僕も色々思うところがあり、憲法改正を早急にしたほうがいいと思っていますが(特に第九条)、それはともかくこの第一条に関してはうまく表現したなと感じています。
象徴(シンボル)としか言いようがないですよね。
ほかに適当な言葉が全く思い当たらない。
しかし「象徴」という言葉も非常に漠然としたもので、「象徴」象徴とは何かと問われても、これはこれでうまく答えられない。
ですが、「日本国民統合の象徴」という言葉に関して、本書で有本さんの以下の言説がものすごくピッタリと日本人にとっての天皇の存在とは何か、日本国民統合の象徴という言葉の意味を表しています。
「例えば、日本が仮に中国から侵略されたとしましょう。東京も含めて多くの都市が制圧されて、小さな島1つしか残らなかったとします。そして、生き残った日本人が逃げることを余儀なくされたとします。
でもその小さな島1つ、そこに天皇陛下さえ残っていらしたなら、日本人はそこから立ち上がって反撃し、中国を撃退して、何十年かかっても再び世界一の国を作ることができると思います。
天皇とはそういう存在です」
この一文を読んだとき、まさに我が意を得たりという心境になりました。
「天皇」とは日本人にとって「核」であり、寄って立つ精神的支柱であり、もっといえば我々日本人のアイデンティティ、つまり日本人そのものであると。
御代替わりのこのタイミングで、左右両方の立場から、「天皇制」の再考の機会という言葉が出ています。
それ自体は活発に議論すればいいと思いますが、まずはこの国の歴史と天皇の関わりをしっかり学んだ上でしてほしいと思います。
そして、せめて女性天皇と女系天皇の違いぐらいは、全国民が理解してから議論に加わってもらいたい。
そのためにも本書をぜひお読みいただきたいと思っています。
『「日本国紀」の天皇論』:目次
まえがき 百田尚樹
序章 日本にとって「天皇」とは何か
第1章 天皇の権威と万世一系
第2章 万世一系のすごさ
第3章 歴代天皇の大御心
第4章 消された絆
第5章 天皇を教えない教科書
第6章 令和の国体論
第7章 聖域と祈り
あとがき 有本香
資料 歴代天皇一覧