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部下は上司に守られ、上司は部下に生かされる【書評】上村敏彦(著)『マネージャーのジレンマ』(すばる舎)

久々の上村敏彦さんの新刊でございます。
今回も上村さんらしいビシッと骨のあるマネジャー論が展開されております。

日本中の悩めるマネジャー同士諸君、必読の書の登場ですよ。

 

【目次】

プロローグ
1章 判断・行動を鈍らせる背景 マネージャーが抱える「ジレンマ」とは
2章 行く手を阻むモノから抜け出す 成果を生み出す判断の<モノサシ>
3章 権力構造の中で「影響力」を発揮する 上位層を調略する
4章 高みに登らせ、成果へ導く方策
エピローグ マネジャーの手柄は余りもの

【ポイント&レバレッジメモ】
★マネジャーの宿命

 マネジャーの置かれる特殊な環境とは何か。それは「上と下に挟まれている」ということです。つまり、上と下、どちらからも「あっち側」なのです。

★マネジャーが抱える「ジレンマ」(抜粋)
◇判断軸のジレンマ ⇒ せめぎ合いをして、着地点を見つける
 

「せめぎ合い」をして着地点を見つける。この考え方が自分がマネジャーとなってからのベースとなりました。
 マネジャーに必要な行動は、組織として必要なことを伝え、それがなぜ必要なのかを説明し、現場の事情をすべて吐き出させることです。そして、ぎりぎりのラインで着地点を見つけること。

◇根回しのジレンマ ⇒ 結果を確認されないなら、やりすごす

 マネジャーとしてできることは、現場が振り回されるのを最小限に防ぐことです。口出しされても、現場の事情にそぐわなければ、やりすごすこともできるはずです。上位層は、その結果まではたいてい確認しないからです。

◇権限と責任のジレンマ ⇒ 影響力を高める

 実は物事を進めるために「権限」は必要ですが、それは必要な物のごく一部でしかないのです。ものごとを進めるために必要なのは「影響力」です。つまり「人を動かして、自分の進めたい方向に持っていく力」がものごとを進めるのです。権限は影響力の一部にすぎません。

★常に判断を「顧客」に収斂する

 問題を解決するという次元で考えていては、的確な判断はできないのです。判断基準の次元をひとつ上げる必要があります。
 成果を生み出すマネジャーは、「最終的にはこの基準で判断する」というひとつのモノサシを持っています。<中略>その最終的な判断基準とは「顧客ならどう思うか」です。<中略>
 「顧客が納得する」「顧客が『ありがとう』と言ってくれる」ことにゴールを置くのです。そして、顧客の感情的なケアを最優先するのです。

★経営資源を充実させる選択肢をとる

 マネジャーが判断に迫られたとき、考えなければならないのは「どうすればうまくいくか」だけではありません。「どうすれば人が育つか」「どうすればプロセスを良くすることができるか」も同時に考えて、手を打たなければなりません。
 そうすることで、中長期的に見れば、「モノ」「カネ」といった有形な経営資源だけでなく、「ヒト」「プロセス」といった無形の経営資源を高め、組織に貢献することができます。こうした経営資源への貢献は、結果として自分自身にも返ってくるのです。

★「協力」を引き出す3つの方策

1. 根回しの重要性
 なぜ根回しが必要かというと、それは関係者に<不意打ちをしない>事が大切だからです。
 事前に話すということは「相手を大事に思っている」という意思表示になります。

2. 貸しをつくり、信用を貯金する
 協力を引き出す最も単純な方法は、「日ごろから貸しをつくっておく」ことです。<中略>これは言い換えれば、「信用を貯金する」ということにほかなりません。<中略>
 また、自分に「借り」があるときは、積極的に返すことです。この繰り返しをすることで、信用が蓄積され、「相互依存」の関係を築くことができるのです。

3. 共犯者にする
 協力を引き出すには「共犯者にしてしまう」ことも有効な手だてのひとつです。つまり、「こっち側」にしてしまうのです。それには早くから相談を持ちかけて、巻き込んでしまうのです。

★マネージャーが部下に発揮する3つの影響力

1. 心を鼓舞する

2. ゴールを示して導く

3. 軌道修正して高みに登らせる

【感想など】
本書は上村敏彦さんの3冊目の著書。

ちょうど上村さんはワタクシと似た世代で、ワタクシもチームリーダーからややマネジャー的な立ち位置にシフトしていっている(上村さんとは規模も成果も雲泥の差ではありますが)ため、いつもすごく勉強させていただいてます。

さて、本書でいうところのマネジャーの定義ですが、

 ここでいうマネジャーとは、現場リーダーを卒業し、経営というそれまでとは違う分野に片足を突っ込みながらも、現場と直接的に接点を持ち、現場がうまく回るように働きかける役割を持つ人のことを指しています。

とあります。
そして、経験者はわかると思いますけど、この立ち位置が一番大変。

上記したように「上と下に挟まれ」て、上と下、どちらからも「あっち側」扱いされる精神的な重圧と、一気に仕事内容が複雑になり、その割には給料に反映されないという辛い立場。

ワタクシも最初にこの立場になったとき、「罰ゲームですか!」と言いたくなるほどでした。
実際、ワタクシの周りには自ら降格を願い出た人や、精神的な理由から長期の病気休養した人も少なからずいます。

また、最近の若者全般がそんなマネジャー層を間近で見ているので”出世したくない”症候群にかかっていますよね。

ただ、大変は大変ですが、山登りと同じでその立場に立ってみると、”そこでしか見えないもの、そこでしか味わえない達成感”があることも事実。

ぜひ若手の皆さんにはどん欲に一歩階段を上っていただきたい。
そういう人がたくさん出てくることが日本が活性化することにもつながると思いますので。

そういう若者、そして現在マネジャーになって四苦八苦している人にぜひ読んでほしいのが本書。
本書は、”マネジャーとはかくあるべき”という方向を指し示すいわば羅針盤としても読み応えがあります。

上村さんの本は毎回たくさん学ばせていただいていますが、今回もたくさんの気づきいただきました。
そのうち3つについて触れたいと思います。

まずはワタクシも経験的に納得の部分、政治力について。

組織全体から見れば、マネジャーはごく一部分の権限しか持っていません。
しかし、組織全体を巻き込まないとうまくいかないプロジェクトも多々あるもの。

そんなときに行使したいのが「権限を伴わない影響力」です。
特に他部署で影響力を持っている人へ影響力を持つこと。

これがしっかりできていると上層部の調略は簡単です。
なぜなら、各部署で影響力がある人は上層部も一目置いているわけです。

その一目置いている人たちが団結して提案してくるものに、上層部もむげにノーとは言えないものです。
そしてこの方法は、ワンマンな気質の上層部や組織ほど有効ですし、これ以外に方法はないと思います。

かつて王の権限が非常に強かったイギリスで世界で最初に議会制民主主義が誕生したように、影響力を持った人たちが互いに連携することが新しいものを生み出します。

で、そのためには著者がいうように、各部署で影響力を持っている人に”貸しをつくる”ことが一番効果的。

これ、至って簡単なことで、要は他部署からのお願いや要請にできる限りイエスと答え続けると、自然とあなたは他部署から「あなたの言うことならしょうがないなぁ」といって要望を聞いてくれる”影響力のある人”にいつの間にかなっています。

ワタクシの実感としては、直属の上司一人より、他部署の影響力のある人が数名味方になってくれた方が何倍も仕事がはかどります。

ぜひ明日から試してみてください。

キーワードは”断らない力”です。
まちがっても「これ俺の仕事じゃないよ」と言ってはいけません。

次に、ワタクシには欠落していたなぁという部分。

それは、若手を育てるという視点。
正直ワタクシは目の前の仕事で手一杯で、若手の育成まではできておりません。

が、これを同時進行でやっていかないと組織の未来はないし、ということはいつか我が身に跳ね返ってくるということです。

これからは「どうすればヒトが育つか」ということも判断基準のひとつとして持つことにします。

しかし人を育てるというのはかなりエネルギーを使うこと。
最初からチーム全体を引っ張り上げようとはしない方がいいかもしれません。

冷たいようですが、あの有名な80対20の法則は厳然として存在すると思います。

自分の関わる部署から数名のチームリーダーが育てば御の字だ、というぐらいの気持ちで取り組むのがいいのではないでしょうか。

まぁこの辺は、ワタクシはまだこれからの課題ということで今後勉強していきたいと思います。

さて、最後にマネジャーとしてだけではなく、社会人としても身につけるべき大切な部分。

上村さんの本を読むといつも「ピシッと背骨が通っているなぁ」と感じる部分でもあるのですが、それは”ぶれない軸を持つ”ということ。

上村さんの場合は「お客様のため」という絶対的な判断基準が存在します。

この「お客様のため」とは何をすることか?
それをお客様から実際に聞ける立場がマネジャーであり、それを上層部に届けることができるのもマネジャーであり、現場でそれを製品やサービスとして完成させる指揮をとれるのもマネジャーなのです。

そう考えるとマネジャーほどやり甲斐のあるポジションはありません。

そして「お客様のため」を真剣に考え抜くマネジャーが増え、そのマネジャーがやがて上層部に昇進していくことは、日本の活性化につながるのではないでしょうか。

ということは、マネジャーは日本を変える原動力となる層なのかもしれません。

ジレンマに悩む同士よ、必読!

本書は著者、上村様よりすばる舎編集者、佐藤由夏様を通して献本していただきました。
ありがとうございました。

【関連書籍】
著者の本です。2冊とも超オススメ。

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