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最初の一歩を踏み出せばすべてがまわり始める【書評】大胡田誠(著)『全盲の僕が弁護士になった理由』日経BP

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おはようございます、一龍です。

今日ご紹介するのは、全盲の弁護士大胡田誠さんの著書。

12歳で失明、8年に及ぶ苦学の末、5回目でようやく司法試験に合格。
ハンデキャップを持ちつつも、挑戦し続ける 「あきらめない心」はどのように形成されたのか。

夢を実現しようと奮闘している全ての人必見の本です。

はじめに

全盲という大きなハンデを背負いながら、日本で最難関の資格試験である司法試験を突破した著者。

とてつもない努力とそれを支えるメンタルの強さがなければ到底突破できません。

そんな不可能を可能にしてしまった要因は一体なんだったのか。

まずはそのポイントから見ていこう。

あきらめない心の鍛え方のポイント

★痛みに寄り添う

 こう言うと恐らく「怠慢だ」と怒られてしまうのだが、刑事事件の9割は被告が犯行についての事実関係を認めていて、弁護士が判決を大きく変えることが難しいケースが少なくない。
それでも弁護士の存在意義があるとすれば何だろうか。それは依頼者の痛みに寄り添うことで、少しでも重石を軽くしてあげて、もう一度前を向けるようにすることではないかと思う。依頼者にとっては1人の理解者の存在が、法律を駆使することよりも大きな支えになることがある。そして、そんな存在になることこそが、僕が弁護士として平均以上の働きができる部分だと自負している。

★特別扱いしないという配慮

 思えばいつも、「もう無理かもしれない」と思った、その少し先にゴールがあったような気がする。途中でどんなに疲れても、結局は自分の足で進まなければ、山を越えることも下りることもできない。しんといけれど、でもそこを乗り切ったときに、次はもう少しだけやれそうな気がした。そんな小さな自信をいくつも積み重ねた。
障害があるとなおさらそうかも知れないが、人は無意識のうちに、「自分にできるのここまで」と限界を線引きしている。でも対外は本当の限界はその先にある。山ではそれを教わった。
両親は息子たちに、障がい者として特別扱いしないという「特別の配慮」をしてくれた。それが、僕と裕が障がいを受け入れ、乗り越えていくための素地になった。もしそうでなかったら、障がいを理由に自分の可能性を閉ざしてしまっていたかもしれない。

★心が『温かい』と思う方

 そして4回目の受験に失敗したとき、僕は両親を前にして「もう辞めるべきかもしれない」と悲壮な覚悟を口にした。心が折れかけていた。
そのとき母がいった言葉は、今でも僕の生きる指針になっている。
母は良いとも悪いとも言わなかった。ただ一言、「人生で迷ったときには、自分の心が『温かい』と思う方を選びなさい」と言った。損か得かとか、人からどう見られるかではなく、自分の心が何を本当に欲しているのか。答えはそこにしかないんだと教えられた。

★限界の先にある自分

 きちんと準備をしてきた人間にとっては、「もうだめだ」と思ったときが、限界の先にある自分に最も近づいた瞬間なのだと思う。それはとても怖い瞬間かもしれないが、見方を変えれば、古い殻を脱いでもう一回り大きくなるチャンスがすぐ手の届くところまで来ているということでもある。弁護士の仕事をしていて、これまでに何度もプレッシャーで押しつぶされそうになったけれど、そういう時は、自分にこのことを言い聞かせて、なんとか乗り越えてきた。
逃げずに、弱さを一度は受け止めて、そして自分を信じることだ。自分を信じる力は、それまで積み上げてきた努力の量に比例する。だから、最後の最後で自分に負けないための努力を日々しなければ、と思う。

★会話の多い夫婦

 見えない分だけ、お互いの状態を気にかけるし、余計な駆け引きもない。喧嘩をして口をききたくなくても、僕らの場合、「熱い鍋が後ろを通るよ!」とか「お茶をテーブルの真ん中に置いたよ」といった調子で、自然とそして強制的に言葉を交わす機会も生まれる。
付き合って何年もすると会話がめっきり減ったというような話を聞くが、結果的に僕らは、だいぶ口数の多い夫婦になっている。もっとも最近では、ドアの閉め方や湯呑みをテーブルに置く音で大体の気分は推し量れるようになった。顔色は分からないけれど、声のトーンで体調も分かる。我ながら進歩だと思う。

★「助けられ上手」になること

 例を挙げればきりがないが、大事なのは、初めから「できない」と決めつけずに、まずは何でもやってみることだ。知恵と工夫を惜しまなければ、自分が「限界だ」と思ったことの何割かは多くのことができる。
そしてもう1つ、ハンディを乗り越えて生きていくためにそれ以上に重要なのは、「助けられ上手」になることだ。1人で何でもできる力を身につけるよりも、周りの人に「力を貸してやろう」と思ってもらえるような自分になろう。僕はどこかでそんな風に思ってきた。同じ努力なら、そちらの方が大きなことができる。
これは、甘え上手とは違う。困難を言い訳にして他人に甘えるのではなく、逆境でも、諦めずに、前を向き、笑顔で、頑張る。そうやって明るく生きていれば、必ず誰かが見ていてくれる。そして実際に僕は、そんな風に人生を歩む何人もの人と、弁護士という仕事を通じて、あるいは障害者同士として触れ合ってきた。

★人と人は鏡映し

 僕はこれまでの人生や仕事を通じて、ある1つの心理を見つけた。それは、人と人とはいつも鏡映しの関係にあるということだ。相手がなかなか心を開いてくれないと感じるときは、たいてい自分が力んでいたり、変に構えていたりするものだ。それが相手にも伝わる。だから人から理解してもらいたければ、まず自分だ相手を理解することだ。信頼してほしければ、まず信頼する。好かれたいのならば、好きになることだ。

感想

◆突破する人の本質を知る書

本書はとてつもなく大きな示唆に富んでいます。

ですが、読み手の意識次第では大切なものを見落としてしまう、そういうたぐいの本です。

もちろんどう読むかは読者の自由です。

著者と同じ障がいを持つ人にとっては、「頑張ればココまでできるんだ!」と、勇気を与えてくれるでしょう。

健常者で司法試験合格を目指している人にとっては、「負けられない」という発奮材料になるかもしれません。

それはそれでいいのです。

ただ、本書は読んで、「勇気をもらった、明日から頑張ろう」と気持ちを高揚させるだけの「興奮剤」にしてしまうにはあまりにもったいないのです。

この本は、人生における壁突破のエッセンスを知るための本として読んでほしいし、もしあなたが子育て中で、子供に「自ら人生を切り開く人間に成長してほしい」と願っているなら教育本としても読んでほしい。

そして、そのように読むのなら、大切なポイントを一つ示しておきましょう。

それは、どうか著者の障がいを忘れて読んでほしいということです。
なぜなら、その方が突破する人間の本質を知ることができるからです。

人生において目標を突破する人となれるかどうかは、障がいを持っているか健常者かとはまったく関係なく、その人が持っている本質によるからです。

できる人はできる、できない人はできない、そしてその差は非常にシンプルです。

本書からはできる人のエッセンスを読みはとってほしいと思います。

◆ベースは両親の教育

本書を読んでまず思ったのは、ご両親の教育の素晴らしさです。

特に厳しいわけではないが、障がい者として「特別扱いしない」、「自分のことは自分でする」といったごく当たり前のしつけをしていること。

適度に突き放す。
けれど最後の最後は絶対に味方であり続けること。

実はこの両方とも親としては難しいことです。

出来るようになるまで根気よく待てずに、ついつい手を貸してしまう。
これは子供の可能性を摘んでしまい、本当に良くないと分かっているのですが、待っていられないんですよね。

それでいて、大失敗をやらかすと「もう知らん!」と言って完全に突き放してしまいます。
これも良くないですよね。

特に本書を読んで「ご両親偉いなぁ」と関心したのが、地元の盲学校でなく、東京の筑波大付属盲学校に子供を一人で行かせたこと。

全盲の中学生を思い切って一人で東京に出す決断はなかなか出来るものではありません。

子供の可能性を信じ、親として覚悟を決める姿は私も含めて子育て中の皆さんに知ってもらいたいところです。

◆理想の環境に一人飛び込む進取の気性

さて、著者当人にとってもこの筑波大付属盲学校への進学が、人生のターニングポイントだったことは間違いないでしょう。

理由はどうあれ、小学校を出たばかりで、一人であたらしい環境に飛び込んでいこうとする著者。
はっきり言って、こういう進取の気性を持っている子は生きていけます。

成功するには、あるいは人生を変えたければ、「環境を変える」、「付き合う人を変える」ことが重要だというのはよく言われることです。

そしてこれを実現するためには「動く」しかありません。

しかし世の中には「成功したい」「人生を変えたい」と願う人は多いものの、そのほとんどの人が「動かない」のです。

◆健常者も障がい者も人生のポイントは同じ

人生を突破するのに障がい者か健常者かは関係ありません。

そこには非常にシンプルな真理があるだけです。

自ら行動するかどうか。

ただそれだけです。

本書の著者も筑波大学付属盲学校へ行くという「行動」を起こすことで、弁護士という職業を知り、将来の伴侶とも出会い、人生が動き出します。

そして「動く」ことで、サポーターも登場します。
そうすると、「動く」スピードがどんどん加速します。

踏み出さなければ何も変わらないのです。

しかしその一歩を踏み出す人が、現実の世の中で非常に少ないことを感じています。
また、自分の子供たちを観ていて、「面倒くさい」「ムリ」という基準の低さに驚いてしまいます。

もしあなたがいま、なりたい理想の自分を持っているなら、突破したい目標があるなら、それがどんなに遠く高いものであっても「動き出す」べきです。

そして、もしあなたのお子さんが「動き出す」時期に来ているなら、背中を押す親になってほしいと思います。

私は今、自分の夢を追いかけながら子育ても真っ最中です。

本書を読んで、

「あきらめずに挑戦し続けることで目標は突破できるんだ、ということを背中で語れる親になろう」

と強く思いました。

人生に不可能はないし、もしあるとしたらそれは自分があきらめているだけなのだから。
そしてそのスピリッツを子供に伝えるのが親が子に残してやれる一番大切な財産だと思います。

本書は日経BP社、東城様から献本していただきました。
ありがとうございました。

目次

はじめに
序章 ある受刑者からの手紙
第1章 全盲弁護士の仕事術
第2章 光を失って
第3章 司法試験
第4章 家族
終章 見えない壁を打ち破る

関連書籍

本書中で紹介されている、大胡田さんが弁護士を目指すきっかけとなった本がこちら

竹下 義樹
かもがわ出版
1988-06



残念ながら絶版のようです。

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