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「ミッション」とマネジャーの「情熱」が現場をボトムアップする【書評】矢部 輝夫(著)『奇跡の職場』 あさ出版

おはようございます、新幹線は「さくら」が好きな一龍(@ichiryuu)です(←JR東日本ちがうやん!)。

さて今日は、新幹線のお掃除で有名になったテッセイの”おもてなし創造部長”矢部輝夫さんの本をご紹介。

「お掃除の天使」たちの誕生秘話、著者自身の仕事に対する哲学など、生き生きとした職場づくりを目指すマネージャーさんにとって学ぶべき点の多い一冊です。

 

【目次】
プロローグ
第1章 なぜ「3K」の仕事が奇跡の職場になったのか?
第2章 成功の種は現場に隠れていた!
第3章 現場を会社がバックアップする!
第4章 すべてはリーダーで決まる
第5章 会社は二流でも、実行だけは一流を
第6章 誇り、生きがいが働く人を輝かせる
エピローグ

【ポイント&レバレッジメモ】

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★礼に始まり、礼に終わる

 テッセイの車両清掃チームは、担当車両が入線する3分前までにホームに到着し、列車が来る方向に向かって一列に整列するのです。そして列車が入ってくると、深々とお辞儀をして迎えます。あるときスタッフから「お辞儀をしてみようよ」と提案があったことから実現したものですが、今では「お辞儀をするお掃除スタッフ」は、お客様からも広く認知されています。
 また、それとは別に、お辞儀をすると気持ちが引き締まることから、お掃除中のけがなどが減ったという効果も認められています。

★新幹線の座席はホテルの客室

「矢部さん。この座席をお客様はいくらでお求めになるか知ってる?」
「そうだな。伽離にもよるけど数万円だよね」
「そうでしよ。ホテルの料金とほとんど同じでしよ。それだけのお金をいただいてい
るんだから、私たちはこの座席1つひとつをホテルの客室と思って丹念にお掃除しているのよ」
 テッセイのスタッフー人ひとりのこういう思い。どれも世間での評価とはまったくかけ離れていました。この人たちの思いをきちん伝え、みんなで実現していこう。
 私はそれから彼ら彼女らの一言一言をメモに書き留めていきました。

★「さわやか、あんしん、あったか」新たな標語

・さわやか
駅や車内空間はお客様をお迎えし、おもてなしするステージ。そのステージが不清潔では台なし。清潔でさわやかな空間を創り上げよう。

・あんしん
テッセィは新幹線輸送を担っており、安全確保は最も重要な任務。安全に徹するとともに、さわやかな身だしなみ、きびきびとした行動で安心と信頼を深めよう。

・あったか
テッセイは、ご利用になるお客様との出会いを大切にしたい。私どもとの出会いを「思い出」という「お土産」としてお持ち帰りいただこう。

★世の中の考えとは逆行

 もしも「コスト削減を取るか、それともお客様の信用を取るか」と問われたら、後者を選ぶのは当然。だから、テッセイではなるべく社員を増やすことにしたのです。そのほうが、いろんな意味でいいと判断したからです。将来は、パート率を30%まで落とすことを目標としています。
 それは世の中の考えと逆行するかもしれませんが、よくよく考えればまったく当たり前のこと。今の時代は「正社員は減らすもの」という傾向が見られますが、本来はパートや契約社員ではなく、正社員に会社の思いをきちんと理解してもらい、技術、マナーを磨き続けてもらう、そして会社の発展に大きく寄与してもらうことが大切ではないか、そう私は思っています。

★テッセイにとっての「成果」「使命」とは何か?

 ただ、私たちがご提供しているものは少し違って、それは掃除を通じた「旅の素晴らしさ」です。お客様に旅行の満足をお持ち帰りいただくことなのです。これは単なる「仕事(タスク)」の「成果」ではなく、お客様に対する「使命(ミッション)」と言えるものなのです。
 ですからテッセィは「仕事」だけではなく、スタッフの「使命」を具体化するために「テッセイはなんのために存在するのか?」という「企業の再定義」を進めてきたわけです。

★トップダウンの指揮系統は不可欠

テッセイの本業である掃除は、オペレーションそのものです。チームリーダーの命令は絶対で、掃除に全力を傾けているときは下の人が命令に反対することや、独自の考えに基づいた行動をすることは許されません。その点に関しては、例外を一切認めていないのです。また、終始一貫ブレのない指揮系統でなければ、7分という短い時間で新幹線をきれいにすることはできません。
家庭的なわけでもなく、ほんわかしたムードでもないというのはそういう意味です。

●「規律」のなかの「自由」
●あたたかさ、厳しさ、公平さ
●明確なトップダウンとボトムアップ
●リスペクトとプライド

 これらは私たちにとって重要な4つの基準です。このなかの「あたたかさ、厳しさ、公平さ」は言い換えれば、人員配置、表彰、昇給、昇進、降格、解雇などをも意味しています。
つまりリスペクトの気持ちを忘れることなく人事での評価を的確に行い、トップダウンとボトムアップを徹底させる。そうすれば、おのずとスタッフのモチベーションが上がり、仕事に対するプライドを身につけてもらうことができるということです。

★「風通しのいい会社」を目的にするな

 よく、「風通しのいい会社をつくろう」という話を聞きます。そしてその言葉が使われている多くの場合、そのことが目的のように語られています。しかし私の考える「本当の意味での風通しのよさ」は目的ではなく手段です。
「風通しのよさ」を目的にすると、従業員は「風通しをよくするために、どんどん意見を言え」と追い立てられることになります。「会社の方針だから仕方がない」と、気が進まないのに出る意見は、本当の意見と言えるでしょうか。しかも会社は、そうした意見を無視するか、もしくは否定する。
 これではなんの意味もありません。
 意見は自然に出なければ意味がありません。そして人が意見を言うのは、聞いてほしいからです。ですから出てきた意見に対して会社が的確な対応策を講じることが必要になります。「あの人は意見を聞いて実現してくれる」と思ってもらわなければ、意見が上がってくることはないのですから。いろんな提案に対する「NOと言わない」という姿勢は、まさにここに通じています。
 本来、「風通しのよい会社」をつくるということは、「さまざまな現場の課題を抽出し、会社と従業員がともに解決策を考え、実践しその達成感を共有すること」だからです。

★人生は打数が勝負

だからこそ言いたいのは「仕事の時間をどやって楽しいものにするか」ということ。それを考えて実行することは、とても大切だと思うのです。
「そんなの駄目だ。無理だ。できない」と否定するのは一番簡単。でも、それでは前に進めないどころか後退することにもなりかねません。
 つまり、そうではなく、「やってみようじゃないか」という気持ちでいるべきであり、私もそんな気持ちを大切にしたいのです。
 とにかく、どんどんチャレンジしてみればいい。その結果、もし失敗したとしても別にいいじゃないかという考え方。
 人生、打率よりも打数が勝負です。5回に1回成功すればいいつもりで、どんどんチャレンジすればよいのです。

【感想など】

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◆「新幹線劇場」は東京に行くときの楽しみのひとつ
著者の矢部さんは、株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの”おもてなし創造部長”という肩書きの方。

昨年発売されたこちらの本

で、有名になり、ミュージカルにもなった新幹線のお掃除をする会社の方です。

ワタクシも実際に東京駅で見たことがありますが、あの掃除の手際よさは本当に見事。
「新幹線劇場」とはよく言ったもので、座席をクルッ、クルッと回しながら作業が進んでいくのを見てると、なぜか気分が良くなります。

そして、一列に並んでのお辞儀。

職人の技とかプロアスリートの無駄のない熟練の動き、そして気持ちのよい礼儀というのは、見るものにある種の感動を与えるのでしょうね。

東京に行くときはいつも楽しみにしています。
その「新幹線の天使」たちの生みの親が矢部さんなのです。

◆感動は「ミッション」が生み出す
本書を読んでいて感じたのはディズニーやAppleとの共通性でした。

ディズニーが”夢の国”であり続けているのは、そこで働くスタッフすべてがエンターテナーであり、お客様を楽しませることを意識しているからですよね。

ディズニーのお掃除の方は、パントマイムをやったり、路面に絵を描いたりと、掃除以外のパフォーマンスで楽しませてくれます。

あの人たちがもし、汚い格好で不機嫌な顔をして掃除をしていたら、一気に現実に引き戻されてしまいます。

ワタクシもそうですが、Apple製品に惹かれる人たちは、性能がいいからだけでApple製品を選んでいるわけではないですよね。

性能だけならMacやiPhoneよりも高いPC、スマホはいくらでもあります。

なぜApple製品を選ぶかというと、性能、操作性、デザイン、iTunesなどの利便性などなどユーザー体験のすべてに徹底して高いクオリティを提供しているからです。

これらは一テーマパーク、一PCメーカーの域を超えた、いわば「ミッション」を持っている会社です。

テッセイの仕事はもちろん新幹線の掃除なのですが、そのレベルにとどまらず、「おもてなし」「旅の思い出づくり」という「ミッション」に昇華したことが、注目される要因でしょう。

多くの会社や組織がセクト主義になりがちですが、組織全体とし現状を突破したいとき、これは大きなヒントになるのではないでしょうか。

◆「トータルサービスを目指す」には現場のボトムアップ
ディズニーやAppleの考え方は、本書にも登場する「トータルサービスを目指す」ということですが、これは本当に難しい。

トップダウンだけでは実現できず、絶対に現場の力が必要だからです。

鉄道の安全畑の叩き上げである著者は

「安全は.トップダウンで始まり、ボトムアップで完成する」という考え方です。言い換えれば、「組織のチャレンジは、トップダウンで始まり、ボトムアップで達成される」ということであり、「組織のチャレンジは、1人のリーダーだけではなく、そこで働く1人ひとりの努力と成果によって成し遂げられる」と思うからなのです。
 言い出すのは1人でも、達成はみんなで。これが成し遂げられてこそ、働きやすい会社です。これを目指しました。

で、問われるのがマネージャーの力量。

上司と部下の板挟みにあって辛い立場になる方も多いと思います。

ただワタクシ思うのですが、多くのビジネス上の問題と違って、マネジメントとか人を動かすということについては、「こうしたらうまくいくよ」という答えがすでに出ていると思います。

その答えというのは山本五十六さんの

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。

どんな業種、職種でもこの一言に尽きると思うのですがいかがでしょ。

著者も

まずは「やってみようじゃないか」と声をかけ、責任を持たせてやらせてみることが一番だと思っています。そしてほんの少しでも成果が出たら、そのときは「すごいね、素晴らしいじゃないか!」と心から賞賛する。これが大切。

と言っていますが、本質は全く同じですよね。

先述した「ミッション」があるなら、それを伝え続け、少しでも実行できたら認めてあげる。
この”泥臭い”ような過程しかボトムアップの方法はないでしょう。

著者も随分苦労されたようですが、全国のマネージャーさん、ここだけは頑張りどころです。
簡単に現場が変わるような魔法はありません。

でも、現場を帰る魔法をかけ続けることができるのは、あなただけです。
「情熱」の「熱」は、いつか必ず伝わります。

◆若いビジネスパーソンに知ってほしい言葉
さて最後に、ちょっと本題とはずれるのですが、若いビジネスパーソンにぜひ知ってほしい”仕事に対する哲学”的なことを書いておきます。

本書にこういう一節があります。

「組織っていうのはおかしいと思うことがあるだろ。それは俺も同じだ。でも、最初から文句を言うな。まず文句から入ったら、叩かれるだけだ。だから、間違いだと思うところを指摘して、正しいことができるようになるためにも偉くなれ。偉くなってから、それをちゃんと実行すればいいんだ。ただし、偉くなったころにはその思いを忘れていることがあるから、絶対に忘れてはいけない」

これと全く同じことをワタクシも言われてきました。

ある年齢以上の方なら絶対聞いたことがある仕事に対する考え方ですよね。

「文句があるなら人の3倍働いてから言え、そしたらひとつ聞いてやる」というのもよく言われたなぁ。

こう言った仕事観、若いビジネスパーソンに伝わっているんでしょうか?

うちの職場ではもう、聞いたことがありません。

昨日のエントリーで、若い人が無闇に仕事を辞めて「冒険に出る」ことをワタクシはすすめませんと言いましたが、もし辞めたい理由が「自分の主張を聞いてくれない」というのなら、よーくこの言葉を読んでください。

ブラック企業ならともかく、まともな会社で「組織が変だ」という点があるなら、あなたが偉くなってかえればいいのですよ。

どこの組織に行っても「おかしい」点は必ずあるんだから。

以上、オッサンの冷や水でした。(なんか説教くさくなっちゃったな)

本書はあさ出版様より献本していただきました。
ありがとうございました。

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