本を耳で読む Amazon Audible 30日間無料体験キャンペーン実施中

「新しい指標」で戦うために【書評】鈴木 博毅(著)『「超」入門 失敗の本質』 ダイヤモンド社

おはようございます、第二次大戦中のレシプロ戦闘機が大好きな一龍です。

今日はあの名著の入門書にして、ワタクシが今年上半期に読んだ本の中でトップ5に確実に入るであろう本のご紹介。
そして本書には、難題を抱える日本が転換すべき方向性が見えてくると思います。

 

【目次】
序章 日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか?
第1章 なぜ「戦略」が曖昧なのか?
第2章 なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
第3章 なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
第4章 なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか?
第5章 なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
第6章 なぜ「新のリーダーシップ」が存在しないのか?
第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?
おわりに 新しい時代の転換点を乗り越えるために

【ポイント&レバレッジメモ】
★戦略とは「目標達成につながる勝利」を選ぶこと

 日本軍はミッドウェー作戦では戦力総数で米軍に勝ることに「成功」し、島の爆撃にも「成功」しています。ところが、戦史が教えるように目標達成につながらない勝利であり、劣勢の米軍は目標達成につながる勝利だけをつかみ取り、戦局を逆転させているのです。
 米軍を抑止する効果のない17もの島に上陸占拠した日本軍は、目標達成につながらない勝利を集めており、大局的な戦略を持っていなかったと判断できるのです。米軍に対して抑止効果のある8島だけに基地を集中したなら、兵員は3倍に増強できたはずでした。

★戦略のミスは戦術でカバーできない

 いかに優れた戦術で勝利を生み出しても、最終目標を達成することに結びつかなければ意味はありません。戦略のミスは戦術でカバーすることができない、とはよく指摘されることですが、目標達成につながらない勝利のために、戦術をどれほど洗練させても、最終的な目標を達成することはできないのです。

★「戦略とは追いかける指標のことである」

 戦略の違いで、石原は「国力、生産補給力」を追いかける構想を練っており、日本軍は「戦場での一大勝利」を追いかける構想を持ったのです。
 戦略とは「追いかける指標」のことであり、戦略決定とは「追いかける指標を決める」ことであると考えれば、石原莞爾と日本軍の戦略は全く別であることがわかります。
 石原と日本軍の違いは、追いかける指標の違いなのです。戦略の失敗は戦術でカバーできないので、有効な指標を見抜く指標指標の設定力こそが最大にポイントとなります。指標を正しく決めることが、先に説明した「目標達成につながる勝利」を決めるということなのです。

★米軍が勝利の再現力に優れていた理由

 日本人は、体験的学習から「成功する新しい戦略(指標)」を発見し、最大限生かす形で全面展開することが得意だと先に説明しましたが、体験的な学習から成功事例を生み出すことは、残念ながら米軍方式に確実に劣る点があります。
 それは「再現力」の差です。
 戦略の発見が「有効な指標」を探すことにより成し遂げられることを知らなければ、戦略自体を探しようがありません。探し方を知らないのに、日本人が特定分野で大成功を納めているのは、体験学習から意図せずに新戦略を偶然発見し、その発見が特別なものであると経験則から見抜くことができたからでしょう。
 逆に言えば、最新のビジネスにおけるビッグ・ゲームでは、アメリカをはじめとする海外企業は同じ指標で戦うのではなく、新しい指標を見つけて乗り込んできます。対する日本は戦略の定義を理解せず、あくまで経験則で立ち向かっているのですから、このままでは勝てないのも当然と言えるでしょう。

★「ゲームのルールを変えた者だけが勝つ」

 「ゲームのルールを変えた者だけが勝つ」
 これはIBMのサミュエル・パルミサーノ会長が使うプレゼンテーション資料に書かれている言葉です。

 日本軍は戦場において、様々な戦い方のルール自体を変えられてしまい、自らの強みを封じられながら米軍に圧倒されて行く場面に何度も遭遇しています。
 従来から積み重ねた方法の制度ではなく、完全に異なる構造でゲームの勝敗がついてしまう新たな戦闘方法への移行です。
 改善を継続することで「小さな変化」を洗練させて行く日本軍は、「劇的な変化」を生み出す米軍に、ゲームのルールを変えられて敗退したと考えることができるのです。

★「創造的破壊」を生み出す三つの要素

1. 「ヒトと組織」の極めて柔軟な活用による自己革新
2. 「新技術」の開発による自己革新
3. 技術だけではなく「技術の運用」による自己革新
 現在でもアメリカでは、資金や優秀な人材が流動的に集まり、ベンチャー企業が新しい発想のサービスを次々と生み出しています。仕組み自体を変えてしまうような創造的破壊も多数生まれています。<中略>
 「創造的破壊による自己革新」から生まれた様々な戦略と新技術は、太平洋を挟んだ日米戦争においてゲームのルールを根底から変えてしまい、日本軍のここの達人的技能を封じ込めました。
 「旧来優れた達人が頼っていた要素」を凌駕するために、ルールを変えてしまう戦略行動は、現代ビジネスシーンでも繰り返し行われ、現在の世界市場で日本企業の栄枯盛衰を左右する重大な要因となっているのです。

★イノベーションを創造する3ステップ

ステップ1 戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する
ステップ2 敵が使いこなしている指標を「無効化」する
ステップ3 支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う

★組織がチャンスを潰す

 技術的イノベーション自体は、個人の研究者・科学者が行うことができても、成果に育てられるかどうかは、組織内に浸透する意識構造に非常なまでに左右されてしまいます。
 組織全体に対して、「勝利の本質」ではなく、「単なる型」を伝承している場合、型を伝承している側(大多数)は、同じ組織内で新戦略やイノベーションを発見した人物(少数派)を排除しようとする意識を持つことになります。なぜなら、まさに自分たちが信じてきたことを覆すネガティブな存在の出現に映るからです。
 単なる方の伝承を組織内教育として何十年も行ってきた集団にとって、勝利の本質への議論の転換は、まさに自分の敵が登場したことに等しい脅威です。このように「本質ではない方の伝承」によって、組織はイノベーションを敵対視する集団に劣化してしまうのです。

【感想など】

失敗学というジャンルがあります。

その名著中の名著、

は、太平洋戦争の敗戦の原因を「単純な物量や技術力の差」に求めるのではなく、日本的な思考法や日本人特有の組織論、リーダーシップに真の要因があると解き明かした希有な一冊。

ワタクシも数年前に読んで、鳥肌が立ったのを覚えています。

それはなぜかと言うと、あまりに的確に日本の弱点を見抜いていたから。
そして、その弱点が未だに変わらず現代の日本が引き継いでいることに気がつかされたから。

しかも今日本は有史以来の国難を迎えています。

日本を救うヒントが満載なだけに、ぜひ広く皆様に読んでほしい本なのですが、ただ、『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』 は、難解ではないのですが、非常に堅い本で少々取っ付きにくいのです。

そんなタイミングでの本書の登場!これは日本にとって明るい兆しかも知れません。
(というか、この本の入門書を作ろうと思った編集者さんの着眼点を尊敬する次第)

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(だったっけ?)という言葉があります。

本書を読み終えてまず浮かんだのは上記の言葉でした。
しかし残念ながらこれはネガティブな意味でです。

日本はあの敗戦から、すなわち経験からも、歴史からも学んでいないと。

例えば次の一文

『失敗の本質』で描かれる日本軍には、ある種独特の精強さを放つ要素があります。
それは「超人的な猛訓練・錬磨」で養成された技能です。<中略>日本人は「錬磨」の文化と精神を持ち、独自の行動様式から、特定の分野で素晴らしい強みを発揮できる民族であると感じます。

この「錬磨」の価値観、現代も変わっていませんよね。

「カリスマ」とか「ゴッド〇〇」とか、そういう人に憧れて、皆が目指す空気。
ワタクシが読むビジネス書でも、結局、個人のスキルアップに的を絞ったものが多く、組織や市場自体を変革して、凡人でも成果を出せるようにしようという考え方の本は本当にまれにしか出会えません。

もちろん、この「錬磨」の空気があるからこそ、日本のビジネスパーソンの平均レベルが上がるのでしょうが、そもそも個人のレベルアップには限界があるし、市場のルール自体を変えてくる欧米には勝てるはずもありません。

デフレ・円高不況の上に昨年の震災と原発事故。
TPPの圧力や欧州の金融不安。

すでに「錬磨」で対応できるステージではなくなっているのに、古い”指標”を追いかけている現代の日本は、滅亡にすすんでいる日本軍と見事にオーバーラップします。

では、この現状を打破するためにはどうしたらいいのか?

非常に不親切きわまりない解答を申し上げますが、それはもう

「歴史から学べ」

の一言に集約されるでしょう。

地震からの復興なら関東大震災も阪神淡路大震災も経験したじゃないですか?

消費税増税が是か否かも、かつて消費税が5%になった翌年以後、税収が上がった年はないという”歴史”が答えを出しているいじゃないですか?

金融不安?人類はチューリップバブルも、世界大恐慌も経験したじゃないですか?

「錬磨」は日本人の美徳です。
これを無下に否定する気はありません。

しかし同時にちょっとだけ歴史に目を向ければ答えはたくさんあるのに、目を向けようとしない。

政治家も、一般のビジネスパーソンもまずそこから始めましょうよ。

最後に、カリスマに関して。

よく、「なぜ日本にはスティーブ・ジョブズが、あるいはAppleが誕生しないのか?」なんて議論がされますが、このテーマが話題になり続けているうちは、日本は衰退し続けることでしょう。

ジョブズのような超一級のカリスマや、世界を席巻するAppleのような会社を生み出すことを考えるのではなく、第2のジョブズが出現しなくても、Appleを無力化するこ戦略を考えるべきだということを、ここまで読まれた方はもうお気づきですね。

日本が第3の敗北を避け、生き残るために。

本書はダイヤモンド社編集者、市川様より献本していただきました。
ありがとうございました。

【関連書籍】
<本文中で引用・紹介されている本>

 

真の敗因、真の戦犯は敗戦によって深い闇の中に葬り去られてしまった!どうすれば日本軍は連合軍に勝てたのか。新しい指導者となる現代人のための新しい戦争史観入門。

 

エルピーダメモリ1社を残してDRAMから撤退した日本半導体産業。1980年代半ばに世界を制した技術と品質は、いまや不況のたびに膨大な赤字を生み出す元凶と化した。一体、なぜ、こんなことになってしまったのか?半導体産業の技術者として出発した社会科学者が、今、そのすべてを解明する。

 

太平洋戦争域で守勢に回った日本は、絶対国防圏を設定し新たな戦争指導方針を決定した。一方、アメリカもB29による日本本土爆撃を決定し、サイパンは前線基地として不可欠となった。天王山となったマリアナ沖海戦。乾坤一擲、必勝の信念で米機動部隊に殺到する日本軍機は、目前でつぎつぎに撃墜される。勝敗を分けたのは、新兵器のレーダーとVT信管。電子兵器の差であり、兵器思想の差であり、文化の違いであった。

 

瀕死の日産を、時代にふさわしい形に改造することで再建したカルロス・ゴーン。日本の強みを知ることが世界をリードすることになる、ということを学んだゴーンは2005年4月、日産自動車CEOのまま、親会社であるルノーのCEOに就任し、ルノー・日産グループを統括する立場となった。浮沈の激しい自動車業界において、日本にとどまらず、世界の成長モデルを描くゴーンの「5つの革命」とは何か。その驚異の経営手腕を明らかにする。

 

憎み合う労使。乗客からは罵声の嵐。三度めの倒産の危機。リストラに怯える日々…。こんなボロボロの会社を救おうと一人の男が立ちあがった。最低のエアラインから甦ったコンチネンタル航空の奇跡の復活劇。

 

日本人を呪縛する「その場の空気」という怪物!「空気」とは何か?この超論理的存在の発生から支配にいたるメカニズムを根底から解明した「山本日本学」の決定版。

 

JR西日本脱線事故、過去の教訓を忘れた雪印や日本航空…。大きな事故や大事件の陰には、ほんのささいなミスが潜んでいる。小さなミスの見逃し、先送り、ベテランならではの慣れからくる慢心、コスト削減一本槍で安全の手抜き、成果主義のみに陥った組織の崩壊。いま、あらゆる分野で綻びが生じている。近年、「失敗学」という言葉が普及しつつある。これまでの失敗学は、技術工学の分野で研究が進められてきたが、いまは文科系の世界にもその必要性が問われている。本書は、マネジメントの分野に着目して、組織の中で人はなぜミスを犯すのかを分析し、リスク管理の教訓を探ろうとするものである。「これは、ちょっとまずい!」豊富な実例集である。

 

「リスクのないプロジェクトには手を付けるな」。著者は冒頭でこう断言する。リスクが大きければ,そのぶんチャンスも大きい。リスクという熊とのダンスを楽しみながらソフトウェア開発を進めるべし,というのがタイトルに込められたメッセージである。本書ではまず,リスク管理が難しい理由を分析する。どれも痛快なほど的を射ており,ソフトウェア開発者でなくても身につまされる。その後,解決策が紹介される。説明に豊富な図や具体的な事例が使われているため,すんなりと理解できる。

【管理人の独り言】
今日ご紹介した本と一緒に読まれることをオススメします。

この本に書かれている敗因21か条も合わせて読むことで、より理解が深まると思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA