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国民がグランドビジョンを示そう【書評】三橋貴明(著)『歴代総理の経済政策力』(知的発見!BOOKS)

 

歴代総理の経済政策力 グランドビジョンを知れば経済がわかる (知的発見!BOOKS)

歴代総理の経済政策力 グランドビジョンを知れば経済がわかる (知的発見!BOOKS)

  • 作者:三橋 貴明
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

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著者は、1日5万ユーザーを集めるブログ 新世紀のビッグブラザーへ の三橋貴明さん。

田中角栄総理以後の歴代総理の経済政策を読み解きながら、今の政府がするべきことは何なのか、明快に示してくれます!

 

【目次】

はじめに 日本経済の「復興」に必要なグランドビジョンとは
第1章 田中角栄が創った日本のグランドビジョン
第2章 「二人の魔物」の登場とバブル経済
第3章 政治の混乱とグランドビジョンの喪失
第4章 小泉改革の功罪とグランドビジョンの変転
おわりに 「第二の戦後」の経済政策に必要なこと

【ポイント&レバレッジメモ】
★日本史上、最も多く法律を成立させた男

 確かに、日本のデフレを放置している財務省官僚や「日銀官僚」には、筆者も怒りを禁じえない。とはいえ、彼ら中央政府の官僚に仕事をさせるのは、あくまで国民から選挙で選ばれた政治家の責任である。ひいては、国民の責任ということだ。国民には官僚批判で溜飲を下げるのではなく、政治家を通じて官僚を使いこなすことが求められる。と言うよりも、これこそが民主国家で主権を持つ国民の義務なのだ。
 そういう意味で、国家のグランドビジョンのみならず、官僚を使いこなした実行力と言う点でも、田中角栄は評価されるべきだろう。官僚からの指示なしで、120もの法律を成立させることなど、まったくもって不可能である。

★「日銀の国債買収でハイパーインフレになる」のウソ

 日本が幸運だったのは、諸外国に比べて国内の供給能力の蓄積が重厚で、極端な供給不足を原因としたハイパーインフレーション(インフレ率年間3000%超)に陥るような混乱を避けられたという点である。なにしろ、戦争で国家が焼け野原になった1946年でさえ、日本のインフレ率は「わずかに」350パーセント超でしかなかったのである。
 むろん、1年間で物価が4倍以上になったわけであるから、庶民としてはたまったものではない。とはいえ、終戦直後の混乱期でさえ、日本は第一次世界大戦後のドイツのような、定義的な意味でのハイパーインフレーションに陥ることはなかった事実には注目すべきだろう。<中略>
 ハイパーインフレーションは<中略>「供給能力が崩壊した」国においてしか発生しない。
 国内の供給能力の余剰が最大限に達し、経常収支の黒字を延々と続けている現在の日本が、日銀の国債買い取り程度でハイパーインフレーションになるはずがない。そもそも現時点に置いてさえ、日銀は金利抑制のために国債を買い取っている。しかし、日本の国内経済は断続的なデフレ、すなわち供給能力の余剰が続いている。
 マスコミなどで、
 「日銀が国債を買い取ると、ハイパーインフレーションになる!」
 などと叫んでいる人々は、不見識、非常識のうえに「不真面目」だ。そもそも彼らは「ハイパーインフレーション」の定義すらまじめに考えたことはないだろう。

★デフレ期に「総需要抑制策」は異様

 バブル崩壊でデフレが深刻化すると、企業は「需要の縮小に対応するために、設備投資を絞り込む」という行動を取る。そして、企業の設備投資の絞り込みとは、GDP上の民間企業設備の縮小そのものである。企業が「需要の縮小に対応した結果、需要が縮小する」循環が発生するわけで、これこそが現在の日本経済における最大の問題である。
 すなわち、バブル崩壊とデフレの深刻化で、企業が「お金を借りたがらない」状況が続いているわけだ。デフレ下では民間需要が高まらず、実質金利も高くなるため(実質金利=名目金利―インフレ率)、企業は「ゼロ金利」にもかかわらず、お金を借りたがらない。
 この場合、政府は金融政策(利下げ、量的緩和)と財政政策(減税、財政出動の拡大)の両輪で対応せざるをえない。何しろ、金利がゼロにもかかわらず、企業への融資が増えない以上、銀行にいくらお金を供給しても民間には流れないのである。デフレ期の政府は、「民間がお金を借りたがる状況」をつくるために、すべてのリソースをつぎ込む必要があるわけである。こんな時期に「増税」や「公共投資削減」など、需要を抑制し、デフレを悪化させる「総需要抑制策」ばかりが叫ばれている現在の日本は、どう考えても異様である。

★福祉は天から降ってこない

 

一部の人々は「高度成長は不要だ」「産業の発展はもうごめんだ」とか「これからは福祉の充実を図るべきだ」と主張している。しかし「成長か福祉課」「産業か国民生活課」という二者択一式の考え方は誤りである。福祉は天から降ってくるものではなく、外国から与えられるものでもない。日本人自身がみずからバイタリティーを持って経済を発展させ、その経済力によって築き上げるほかに必要な資金の出所はないのである。      『日本列島改造論』

 まさに身につまされる思いがする。
 成長を忘れるどころか「成長を否定」し、経済規模(GDP)というパイの拡大を否定し、限られたパイから分配することばかり考える昨今の日本国民は、今こそ国民経済の原点に立ち返るべきである。

★財政破綻の定義はできない

 財務省は大っぴらには、決して「財政破綻」の定義を公表したりしない。なぜならば、現実的に「財政破綻」の定義などできないためだ。何しろ、財政破綻を城内議員の言う「政府が借金を返せないこと」と定義してしまうと、日本では財政破綻が「100%ありえない」という話になってしまう。
 現在の日本は経常収支黒字国であり、政府の資金調達は100%日本円建てで行われている。日本円の発行権限を持つ日本政府が、日本円建ての負債に関する債務不履行に陥ることは「論理的に」不可能だ。あるいは、財務省が財政破綻の定義を「日銀が金利抑制のために国債購入額を増やし、インフレ率が何%に達すること」などと定義すれば、「じゃあ、そのインフレ率に達するまでは、日銀の国債買い取りが可能ということになるじゃないか!」と国民から呆れた眼差しで見られることになる。

★「日本は財政危機」はウソ

 鈴木善幸は、『等しからざるを憂える。』で、<このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる>と述べているが、これまた明らかな間違いであり、ただ国民の危機感を高めるために編み出されたレトリックにすぎない。
 なぜならば、そもそも借金を背負っているのは、日本政府であり、日本国民ではないためだ。経常収支黒字国の日本は、常時、国内が「過剰貯蓄」状態である。すなわち、投資や消費として使われなかったお金が、銀行などにおいて「過剰貯蓄」として蓄積され、運用先が見当たらないわけだ。結果、手元の預金などの運用難に悩む銀行は、国債を買わざるをえない。わかりやすく書くと、過剰貯蓄を政府に貸し付けて利回りを稼ぐわけだ。
 すなわち、日本国民は政府にお金を「貸している」立場であって、借りているわけではないのだ。
 さらに言えば、将来的に政府が国債を償還し、借金を返済した場合、そのお金を受け取るのは将来の日本国民だ。先の鈴木善幸の言葉を正しく書くと、
 「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な資産、債権が残ることになる」

★新たなグランドビジョンの方向性

 日本の新たなグランドビジョンは、現在の環境を踏まえたうえで、日本国民自身が編み出す必要がある。
 とはいえ、その方向性は「都市化による高齢化問題の解決で現在の需要不足(デフレ)を解消する」以外にあるとは著者には思えない。<中略>
 デフレなうえに、過剰貯蓄があふれているため長期金利が世界最低。さらに、田中角栄以来の日本の伝統産業である建設会社の仕事が少ないと、政府が投資を拡大するための要素がそろっているのが2011年現在の日本の姿なのである。
「政府が、“世界最低の資金調達コスト(=低金利)”で資金を調達し、デフレギャップを埋める公共事業を行い、建設会社に仕事を与えると同時に、短納期で仕上げてもらう」
 政治家が確固たるグランドビジョンを描き、これを実行に移せば、それだけで日本は成長路線に回帰できる。
 当然、日銀は国債買い取り枠を増やし、金利を調整していく必要があるが、現在はアメリカもまったく同じことをしている。いまや、中央銀行による国債買い取りは「普通の政策」のひとつにすぎなくなってきている。

【感想など】
先日、当ブログでもご紹介した

 

震災恐慌!~経済無策で恐慌がくる!

震災恐慌!~経済無策で恐慌がくる!

 

 

を読んで以来、「反デフレ派の主張は正しいのか?」というのが、最近の関心事のひとつになっております。

参考記事

 

www.s-ichiryuu.com

 

経済学の素養がないため、いまだにどっちが正しいのか判断に苦しんでるワタクシですが(といいつつ、反デフレ派に傾いているのですが・・・)、こういう時はまずは“歴史から学ぶ”というのがオーソドックスなスタイルかと思うのです。

それで、高橋是清までさかのぼる必要はないけれど、戦後、それも高度経済成長期以後の経済動向とそれに対する政府の経済政策の“通史”のような、しかもわかりやすい本はないかと考えておりました。

そしたら“天は求める師を与える”とはよく言ったもの、献本していただいたこの本、ワタクシのような経済音痴で、そして政治音痴でも、田中角栄以後の歴代総理の経済政策やその時代背景をわかりやすく解説してくれているじゃありませんか。

とりあえず今回の 【ポイント&レバレッジメモ】 では、デフレ政策や国債、ハイパーインフレなどに関連した部分だけを抜き出しました。自分の一番関心ある部分ですので。

ですが、本書は新書版で300ページ超えの大作。
田中角栄以後、管直人まで、時代順に当時の経済動向と、それに対する政策を紹介するにとどまらず、当時の総理がどういうビジョンを持っていたのか?そしてその政策が正しかったのか?といったところが豊富な資料とともに詳しく解説されています。

まず特筆すべきは、前半の約100ページを田中角栄氏にあてていること。

現在の日本が彼の「国土の均衡ある発展」というグランドビジョンのもと、築き上げられてきたものであると、あらためて認識できます。
ワタクシのような地方に住む人間にとっては、田中角栄氏のグランドビジョンによる恩恵をすごく受けているんですね。

思い返せば、ちょうどワタクシが小さい頃が田中総理の任期中でした。
「まぁ~その~」って田中総理のモノマネをみんなやってましたよ。

それはどうでもいいことですが、確かに田中総理以後、道路がどんどん整備されていったし、工場もどんどんできました。
しかし今となっては、田中氏の呪縛からまだ解放されきっていないために、「都市化の遅れ」など弊害も多数ある。

まぁ、日本の状況が変わったので仕方ないのですが、ただ、彼が描いたグランドビジョンにはデフレにあえぐ今日でも、通用するものが多数含まれているのでまずは一読の価値があります。

不世出の政治家ですね。

それから、
本書では随所に、その時々の経済動向に対して行われた総理の経済政策について是か非かの解説がわかりやすくされているのですが、読んでいるうちに気づきました。
ワタクシもかなり政治家や官僚、もっというとマスコミの発表にかなり影響されているなぁということ。

例えば、
「財政健全化」の名の下の緊縮財政とか、「構造改革」といった“美名”には、これを推進する政治家が“良心ある政治家”だと無条件で信じ込まされている。

しかし、本書を読めば、「財政健全化」のための緊縮財政も、「構造改革」もデフレ期にやるべき政策ではないことがわかります。

そしてなにより面白かったのが、「この総理、意外にまともな政策をやろうとしてたんだ!」という気付きを得られたこと。

例えば麻生太郎氏。
この人、デフレ期に何をしなければいけないかちゃんとわかっていた総理だったんですね。

しかも、リーマンショック後のアメリカに対して「不良債権処理のために、銀行への資金注入に躊躇してはならない」という助言をしているし、麻生政権の財務大臣であった故・中川昭一氏はIMFへの最大1000億ドルの資金融資を行うことに合意し、「人類の歴史上、最大の貢献だ」と称賛されています。

が、マスコミの報道はといえば、麻生氏に対しては「漢字を読み間違えた」「ホテルのバーで酒を飲んだ」、中川氏にいたっては「酩酊会見」ばっかり。
ワタクシもあの「酩酊会見」には、日本人として恥ずかしい思いをしましたが、マスコミに対しては「何を報道すべきなのか」ということをもう一度考えてほしいですね。

こういった政治家や官僚、マスコミに流されないために一番大切なことは、“国民が賢くなること”
民主主義国家である以上、最終的にはそこへ行きつくのは当然なのですが、今ほどその重要かつ緊急度合いが高い時期はないんじゃないでしょうか。
政治家が誰もグランドビジョンを描けないなら、国民の我々で新しい日本のグランドビジョンを描けるようになりましょうよ。

今、我々がどんな政策を求めなければならないかを知るためにも必読の一冊かと。
政治家にだけ任しておいてはいかんぜよ。

 

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  • 発売日: 2011/05/10
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本書はイースト・プレス社、畑様より献本していただきました。
ありがとうございました。

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