本を耳で読む Amazon Audible 30日間無料体験キャンペーン実施中

そうか、中国人はそんなふうに考えていたのか【書評】加藤 嘉一(著)『中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか』(ディスカヴァー携書)

 

中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか (ディスカヴァー携書)

中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか (ディスカヴァー携書)

  • 作者:加藤 嘉一
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/03/20
  • メディア: 新書
 

 

<楽天ブックスはコチラ> 『中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか』

おもしろい!
中国人に対する謎がスーッと霧が晴れるように解けていきましたよ。
そして、日本に対する再発見。

これは一冊で二度おいしいお得な、そして現代中国を理解するための良書であります。

 

【目次】

はじめに
第1部 ぼくが見た中国人
 第1章 中国人は、なぜ感情をあらわにするのか
 第2章 中国人女性は、なぜそんなに気が強いのか
 第3章 中国の「八〇後」は、30歳にして自立できるか
 第4章 中国人は、なぜ値切ることが好きなのか
 第5章 中国人は、なぜ信号を無視するのか
 第6章 中国の大学生、特にエリートは真の愛国者なのか
第2部 ぼくが見た中国社会
 第7章 中国は、なぜ日本に歴史を反省させようとするのか
 第8章 中国は、実はとっても自由な国だった!?
 第9章 中国は、すでに安定した経済大国なのか
 第10章 中国社会は、計画が変更に追いつかない!?
 第11章 中国では、「政治家」と「官僚」は同義語!?
 第12章 中国の「ネット社会」は成熟しているのか
 第13章 日中関係は、なぜマネジメントが難しいのか
おわりに 中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか
〔付録〕加藤嘉一年表

【ポイント&レバレッジメモ】
★中国人は、なぜルールを守らないのか

 繰り返しになるが、中国人は公共の場で、なぜあんなに遠慮をしないのだろうか。これは、ぼくが2003年に中国に来てから、今までずっと考え続けてきた問題でもある。
 中国人の思考パターンは、おそらく次のようなものだ。
 「公共の場は、社会のメンバー全員が共有するもの。みな平等に空間を享受する。だから、公共の場でどんな行動をしても、問題にはならない」。

★一人っ子政策が生んだ「八〇後」世代

 それにしても、中国の若者は不幸だ。この新しい歴史的な時代、中国社会の変化と西洋文化の衝突という転換期にあって、迷い、浮足立ち、不透明さを感じて、知らず知らずのうちに核となる価値観やアイデンティティを失っているのだから。

 彼らは賢く、物覚えが速く、行動力がある。試験への強さは圧倒的で、英語力にも長けている。彼らを見ていると、中国がグローバル社会で生きていくことを楽観視してしまう。「優秀さ」という次元でいえば、世界中で中国の若者に勝てる国はないだろう。ぼくはそう確信する。彼らが今のコンディションさえ維持すれば、中国においても、世界という大舞台においても、活躍するステージは一層高く、その歩みは果てしなく伸びていくことだろう。<中略>
 しかし、こと「人間」という角度から見ると、中国八〇後の暮らしぶりには、やや問題を感じている。長期間、激動の競争環境と、緊張した状況に身を置いているうえ、親や学校、社会からつねに巨大なプレッシャーを受けているからだ。
 彼らのライフスタイルは、「勉強さえできればいい」、「目指せ『三好学生』(学習・体育・道徳の三分野ともに優れた学生という意味で、表彰の対象となる)」ときている。
 親に城先生に城、メディアにしろ、子供たちにはしっかり勉強し、よい成績を取ることを求めるだけで、礼儀作法や家事、人との触れ合いなど、人間的な修養について教えることはない。<中略>
 このように、高校を卒業しても、詰め込み勉強をしてテストでいい点を取ることしか知らず、情緒的にも幼く、わがまま・幼稚で、他人と協力することを知らない人間がほとんど、というのが中国若者事情の現実なのだ。

★中国には価値体系がない

 北京、中国のその他の都市では、少なくともぼくは西洋で信仰されるような神も、日本人のいうところの「世間さま」も見たことがない。
 この事実が意味していることは、中国人に行動規範を持たせるような価値体系は、何一つ存在しないということだ。人々ははっきりした規範概念を持っていないし、物事を判断する価値基準が明確ではない。
 このように、中国の社会には価値体系がないため、市民の行動には判断基準がなく、野蛮なまでの自由な振舞いが許されてしまうのだ。

ただ一つ言えることは、中国は今、社会の転換期にあり、政府当局もインテリも含め、ぼくがずっと議論してきたような「信仰」、あるいは「価値体系」の構築が差し迫っていることを、自ら認識しているということだ。それだけは確かだ。

★愛国か西洋崇拝か

 愛国主義と欧米崇拝は対立しているように見える。祖国でオリンピックが開かれる時、彼らはこのうえなく自分たちの政府や指導者を尊敬し、西側の政府やメディアをけなすことに何の疑問も持たなかった。
 しかしその一方では、厳しい大学入試をパスして大学に入り、人生の岐路に立った時、公権力にあこがれながらも、疑うことなく欧米を崇拝するという若者も少なくない。
 この矛盾した心理状態は、彼らの両親とも関係がある。上の世代には、子供と同様に視野の狭い人がいて、子供以上に偏執的に愛国意識を持ちながらも欧米を崇拝している人が少なくない。
 もちろん、それは理性的ではない。アメリカが中国に対して強硬な姿勢をとるやいなや、「このアメ公め!」と怒声を浴びせる。その一方で、子供をできるだけ早くアメリカに行かせようとする。この「愛国者」たちは、皮肉にもアメリカの教育体制こそが世界一だと考えているのだ。

★歴史認識問題

歴史認識をめぐる議論は、永遠に早退的なものだ。十人十色だからこそ、議論は面白いし、社会も発展する。
だが、国家を代表する政府はとなると、戦争に対して一貫性・連続性を持つのは必要不可欠なことだ。<中略>
そして政府には、民間レベルにおける活発な議論を注意深くウォッチし、プレッシャーに耐えながら、見方や立場を良い方向にアップデートしていくことが求められる。
個人が歴史的事件について、認識・理解・見方を異にするのは当たり前だし、むしろそうあるべきだ。だが、いかなる国家の公権力にも、国民の歴史観を強制的にコントロールする資格はない。他国の国民の歴史認識を左右する権限は、もっとない。

歴史認識をめぐる議論に関しては、日本は民間レベルにおける多様な見方・立場を制度的に担保している。(もちろん、政府の立場は一貫していなければならないが)。
一方の中国は、自国の歴史に関して、多様な価値観を一切認めていない。「南京大虐殺30万」も完全に政治化されており、民間人がこれに対して異なる立場をとろうものなら、すぐに軟禁・拘束という形で、二度と社会に復帰できなくなるであろう。

★中国は自由な国!?

 中国では、一般の国民は、すごく自由気ままに生活しているように感じる。日本のみなさんも、中国の各都市に行ってみればわかるだろう。中国人の特徴的な国民性とは、言葉では表しにくいが、「天性による自由散漫」といったところだろうか。

 一部の外国メディアは、中国のマスコミは当局によって完全にコントロールされていて、報道の自由はいっさいないと言っている。しかしこれは間違いだ。
 確かに、中国のすべてのメディアは、中央宣伝部というプロパガンダを担当する党機関の管轄下に置かれているが、今日に至っては、「天安門事件」など、党の正統性にかかわるマター以外は、比較的柔軟に、あらゆる視点から報道することが可能となっている。

 では、中国人の言う「自由」とはどのようなものだろうか。ぼくは、西側の人の「広くて全体的」な自由と比べ、中国人の自由に対する考え方は単純だと思っている。徐々に、時間をかけて獲得していけばいいという、ある意味、のほほんとした気分でいるようだ。
 多くの中国人は、西側の意味する政治・言論・宗教など、精神面での自由にはあまり関心を持っていない。政治的な自由を望むのは、昨今の情勢では、時期尚早だということをよく知っているのだ。<中略>
 彼らが、今、問題にしているのは、発展権なのだ。中国仁は目下、物質的な生活を豊かにするという権利に、異常なまでの強い関心を寄せている。もちろん、共産党による開発独裁という体制のもとで、ではあるが。

 少なくとも現段階では、多くの中国人にとって「お金を稼ぐ」のが最優先事項であり、まず物質的な満足、円満な家庭、日々の豊かさを目的としているのだ。
 それゆえ、西側の人が強調する自由・人権・民主などは、むしろ捨ててもいい、と思っている。犠牲にする価値があると考えているのだ。

【感想など】
いやー面白い。
この本はもしかすると、現代中国を紹介する本の中でも希有な一冊かもしれません。

というのも、中国を題材に扱う本は、良くも悪くも、多かれ少なかれ、右とか左とか、政治的・経済的利権とか、あるいは民族のアイデンティティとか、何らかのバイアスがかかっているものがほとんど。

しかし本書は、「これは公平な立ち位置で、しがらみに左右されずに書いているなぁ」と、しかもかなり生々しく現代中国の若者像を伝えているという点で、本書ほどの良書を見たことがありません。

その著者、加藤嘉一さんは、以前当ブログでも紹介した

 

国境なき大学選び 日本の大学だけが大学じゃない! (ディスカヴァー携書)

国境なき大学選び 日本の大学だけが大学じゃない! (ディスカヴァー携書)

  • 作者:山本 敬洋
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2010/07/17
  • メディア: 新書
 

 

<参考記事>

 

www.s-ichiryuu.com

 

で、北京大学の留学経験者として登場した方。

そして、中国人民大学付属中学高等学校で教鞭をとった経験もあり、現在は中国のメディアにもコメンテーターとして登場する“中国でいちばん有名な日本人”と言われている方です。

それゆえ、中国の、特に「八〇後」と呼ばれる若者の中でも、特に優秀なエリート(候補生)たちを間近でみていることもあり、本書での若者評は面白いです。

これも本書で紹介した本ですが、

 

実力大競争時代の「超」勉強法

実力大競争時代の「超」勉強法

  • 作者:野口悠紀雄
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

<参考記事>

 

www.s-ichiryuu.com

 

この本の初めに出てくるのが「八〇後」。

野口氏の本ではその優秀さだけしか伝わってこず、そのためなにやら空恐ろしいイメージしか湧かなかったのですが、本書を読んで、「なんだ、八〇後もただの人間やん」と、親近感を持ってしまいました。

というのも、ワタクシのようなバブル期以前の、最後の受験地獄を味わっている世代にとって、

長期間、激動の競争環境と、緊張した状況に身を置いているうえ、親や学校、社会からつねに巨大なプレッシャーを受けているからだ。
 彼らのライフスタイルは、「勉強さえできればいい」、「目指せ『三好学生』(学習・体育・道徳の三分野ともに優れた学生という意味で、表彰の対象となる)」ときている。

というのはあたりまえな環境でしたから。

なんせ、“新人類”と呼ばれた世代ですからね。
お若い加藤さんはご存じないでしょうが、予備校生が必勝の鉢巻き巻いて出陣式をやっていた時代がこの国にもあったのですよ。
それが現在の日本の変わり様。
結局バブル崩壊と少子化で価値観が変わってしまったのですが、今現在バブル景気で、少子化が進みつつある中国でも、この価値観の揺り戻しは近い将来あるのではないかとワタクシは思っています。

とはいえ、北京大学や中国人民大学付属中学高等学校で学んでいる若者たちの優秀さは、やはり日本の若者の比ではなさそう。
著者の教え子である14歳の女子学生がいったセリフを読んで、ワタクシも驚愕しました。

「先生、日本の政治家がまず取り組まなくてはいけないことは、国民に、日本がこの先、政治・経済・軍事を含めて、どのような方向に国家建設をすすめるのかという方向性を、自らの行動で示すことだと思いますよ。
 そもそも、それができない制度は時代遅れだし、それができない人間は政治家になるべきではありません。資本主義とか社会主義とかは関係ありません。
 そして、どういう豊かさを国民に保障するのかを、制度設計として、わかりやすく伝えることです。そのための問題提議をするのが、メディアの役割だと思います」

この言葉、そっくりそのまま今の日本の政治家に投げつけたくなる素晴らしい意見ですよね。
これを14歳の女子学生が・・・、そうですか。
あらためて中国の恐ろしさ(?)を感じてしまいました。

さて、本書では読みどころ満載で、どこにスポットを当ててよいものやら迷うほどでした。
中国人のマナーの悪さ。
公とプライベートの価値観の違い。
自由。
歴史認識問題。
挙げればきりがないほどですが、本書のもう一つの秀逸さは、中国を赤裸々に紹介し、日本と比較することで、日本の実像や問題点、特殊性を見事に浮かび上がらせている点。

現代中国について知ろうと読み始めたら、ついでに現代日本の問題点にも新たな視点を獲得できてしまう。

これは日本人で、日本で育ち、日本人としてのアイデンティティを持ったまま中国で暮らす著者にしかできない立ち位置、視点がなせる技でしょう。

こういう立ち位置で日本について書けるのは、加藤さん以外でワタクシが知っているのは、イタリアに拠点を置く塩野七生さんぐらいじゃないですかね。

 

日本人へ リーダー篇

日本人へ リーダー篇

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
 
日本人へ 国家と歴史篇

日本人へ 国家と歴史篇

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
 

 

 

ワタクシ達は、この狭い島国で、しかもほぼ単一民族の中で生活しています。
グローバル化だの何だのと言われて久しい昨今ですが、この国を少し離れたところから客観的に観察することなんて事実上無理ですよ。

とすれば、本書のような、なんらかのバイアスのない、立ち位置が非常に公平な本は、これからの日中関係を考えるうえで必読の本ではないかと。

ワタクシも本書から沢山勉強させていただきました。

まずは一読。

一冊で二度おいしい本です。

お楽しみあれ。

 

中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか (ディスカヴァー携書)

中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか (ディスカヴァー携書)

  • 作者:加藤 嘉一
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/03/20
  • メディア: 新書
 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA