本書を読んで常々蓄積されていた“本好きとしての不満”を解消してくれるのは電子書籍だと確信した。
電子書籍の登場は既存制度を打ち壊し、新たな創造の舞台を構築する。
【目次】
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか?
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
終章 本の未来
【ポイント&レバレッジメモ】
★電子ブックリーダーの戦争の行方を決めるのは「プラットフォーム」
◇電子ブックで求められるプラットフォーム
多くの人気書籍をラインアップできている。
読者が読みたいと思う本、あるいは本人は知らないけれど読めばきっと楽しめる本をきちんと送り届けられる。
そうした本をすぐに、しかも簡単な方法で入手できて、その時々に最適なデバイスを遣い、気持ち良い環境で本が楽しめる。
★「アンビエント」・・・「環境」とか「遍在」と訳されたりしますが、わたしたちを取り巻いて、あたり一面に漂っているような状態のこと
◇アンビエント化された本の世界では、古い本も新刊本も、あるいはアマチュアの書いた本もプロの書いた本も、すべてがフラットになっていきます。
◇アンビエント化がそのような本に与える影響はマイクロ化ではなく、リパッケージ―――つまり今あるパッケージを剥ぎ取られて、別のかたちに再パッケージされることです。
★プラットフォームとして市場を支配するための三つの要件
①多様なコンテンツが安く豊富にそろっていること。
②使い勝手が良いこと。
③アンビエントであること。
★「セルフパブリッシング」
プロであろうがアマチュアであろうが、誰もが自分で書いた本をフラットに電子ブックプラットフォームへと投げ込むことができるシステム。これによって電子ブックは単なる「本の販売所」としてではなく、巨大な知的空間の生態系を作り上げるためのツールとなっていきます。
◇「良い本が読者に届けられる出版文化」という前提自体が、1980年代のニューアカデミズム・ブームのころを最後に崩壊してしまっていて、今の出版業界はその残滓を食いつくしながら、一方で生き残りのために自己啓発本をはじめとする一般に受ける本を量産しているにすぎないのです。
★「記号消費」・・・商品が本来持っている機能的価値とは別に、現在の消費社会ではその社会的な付加価値のほうが重要視されるようになっている
★「これからのジャーナリストに必要なスキル」(NYタイムズのヴァーリム・ラヴルシクさんとスリー・スリーニヴァンサン教授の対談より)
①的確なタイミングで的確な内容のコンテンツを的確なスキルを駆使し、多様なメディアから情報を発信する能力。
②多くのファンたちと会話を交わし、そのコミュニティを運用できる能力。
③自分の専門分野の中から優良なコンテンツを探してきて、他の人にも分け与えることのできる選択眼。
④リンクでお互いがつながっているウェヴの世界の中で自分の声で情報を発信し、参加できる力。
⑤一緒に仕事をしている仲間たちや他の専門家、そして自分のコンテンツを愛してくれるファンたちと協調していく能力。
★セルフパブリッシングは、出版をいかに変えるか?
第1に、ソーシャルメディアを駆使して書き手が読者とダイレクトに接続する環境が生まれ、それによって書き手のいる空間が一つの「場」となっていくこと。
第2に、電子ブックによってパッケージとしての紙の本は意味を失い、コミュニティの中で本が読まれるようになっていくこと。
第3に、セルフパブリッシングの世界では大手出版社かどうかは意味がなくなり、中小出版社でもあるいはセルフパブリッシングする個人でも、購読空間の中で同じようにフラット化していくこと。
⇒出版社が進む2つの方向
①書き手との360度契約
②スモールビジネス化
★健全な出版文化
健全な出版文化とは、マニアックな本、特定分野に特化した本、全員に読まれる必要はないけれどもある層の人たちにはちゃんと読まれたい本。そういう本がきちんと読者の元に送り届けられるような構造をいいます。ベストセラー優位の構造だけではだめなのです。
【感想など】
昨年のキンドルの登場(日本では今年中?)や、今月28日に迫ったiPadの発売でいよいよ日本でも本格的な電子書籍時代をむかえることになりそうです。
ワタクシもすごく楽しみにしてる一人で、もちろんiPadの予約はしっかりしていますよ!
28日が待ち遠しい!
まっ、それはいいとして、
マスコミやネット上での電子書籍への意見も賛否両論、日ごとにヒートアップしている感があります。
もっとも、知識人と呼ばれる方々や出版業界の方々は、おおむね反対意見が多い様子。
黒船の到来に対して、出版業界では戦々恐々とした雰囲気が漂っていますが、皮肉なことに、最近キンドルやiPad、電子書籍に関する“紙の本”が多数発刊されて活況を呈しています。
本書もそのうちの1冊。
しかし、そこはジャーナリストの佐々木氏。
かつてiPodが音楽業界をどう変えたかを参考例に、本の世界がどう変わるか冷静に緻密に予測されています。
いやはや、読めば読むほどアップルという会社は恐ろしい会社だなぁと。
興味深く読ませていただきました。
ただ、正直に言って、電子書籍が本の世界(著者、出版社、書店、読者)をどう変えていくかは数年経ってみないと分からないだろうし、もしかしたら何も変わらないかも知れない。
その点については時間の経過が答えを出してくれるだろうからことさら議論する必要を感じていません。
あくまでも予測ということで楽しんで読めばいいと思います。
それよりもワタクシが強く共感したのは現在の出版社と本の販売に関する問題点。
これねぇ、田舎に住むワタクシにとっては本当に身にしみて感じている問題なのですよ。
つまり
読みたい本が手に入らない、読むべき本と出会えない
という現状。
今朝、とあるTV番組の一コーナーで“電子書籍”の特集をしていたのですが、そのなかでコメントしていた“知識人”がこんなことを言ってました。
「誰でも出版できるようになったら出版物の全体的な質が低下する」
現在1日に出版される本の数、約200冊。
今でも十分すぎるほどの量の新刊が出ています。
そしてこの中で、本当に読むべき本が何冊あるんでしょうね。
仮に1冊だとして、1日に1/200冊が、電子書籍での出版数が増えて1/2000冊になったとしても、一体何が変わるのでしょうか?
出版界の課題は全体の質を底上げすることではなく、分子の数(読むべき本)を増やすことではないのでしょうか?
さらにこの知識人の発言でビックリしたのは
「読者の質が問われている」
と言ったこと。
小売業の人が、「商品が売れないのは客が悪いんだ」と言ってるようなものですよ。
出版不況って読者のせいですか?
それに読者をバカにしてるようで失礼ですよね。
ちゃんと、読みたい本、読むべき本に出会わせてくれたら読者は必ず読みますよ!
そう、
本と読者のマッチングモデルが劣化し、読みたい本を見つけることができない本の流通プラットフォームに最大の問題があるのです。
まさしくこれが出版不況の最大の理由だと思います。
著者は
多くの編集者はどこかで見たことのあるようなビジネス本や自己啓発本の量産を、まるで機械工場の労働者のように繰り返しています。
と、出版社の問題にも言及しています。
ですが、ワタクシの様な知的レベルの低い人間には“量産”された本でも学ぶべきところが沢山あるので、そこは全然気になってはいません。
本当にいい本だなぁと思える本はたくさんあります。
問題なのは、委託制とかデータ配本といった流通制度上の問題のためなのか、
①読みたいと思った本が店頭にない。新刊がすぐに店頭に並ばないこと。
ワタクシの住む地域では今でも雑誌は発売日の次の日に店頭に並びます。
新刊の単行本に至っては1カ月ぐらい平気で遅れる。
②リアル本屋さんの素晴らしい点である“本との出会い”が演出できていないこと。
近所の本屋さんは売り場面積広いのに岩波文庫を扱っていません。新書も扱っていないレーベルが多数あります。
そのぶん女性雑誌とマンガとは充実のラインナップです。
おそらく日本中の本屋さんが同じような状態なのでしょう。
売れる物しか入庫しない。
でもそれで本当にいいのでしょうか?
“紙”か“電子書籍”かは全く問題ではないと思います。
それは読書の目的を考えればわかります。
文芸なら“感動体験”“疑似体験”であったり、教養書なら“知識”、ビジネス書ならば“問題解決”“他者の経験知”であったりするわけですから。
問題はその求めるテキストあるいはコンテンツに出会えるかどうか。
著者が言うように
最も大切なのは
「読者と優秀な書き手にとっての最良の読書空間をつくること」
なのです。
電子書籍の登場がその空間を創造する衝撃となってくれることを願います。
【関連書籍】
本書中に登場する本を紹介します。