日本の進路について、「我が意を得たり!」と「目からウロコ」の両方を体験できる良書。
この本の主張にはほぼ全面的に賛成する。
ただし、そこには大きな問題点が・・・。
【目次】
まえがき
Ⅰ 21世紀日本の国家ヴィジョン
1 国家ヴィジョンの不在
2 日本が成熟フェーズに入ったことの意味
3 新しい国家ヴィジョン:国民の誰もが医・食・住を保障される国づくりⅡ 経済政策の転換
1成長戦略は要らない
2成長論から分配論
3産業構造をシフトする二つのテーマ
4この国のかたち:社会保障と市場メカニズムの両立Ⅲしくみの改革
1行政主導政治のしくみ
2官僚機構を構築している四つのファクター
3官僚機構の改革戦略
4国民が変わらなければならないことあとがき
【ポイント&レバレッジメモ】
★経済成長率=(労働力の増加率)+(資本ストックの増加率)+(技術進歩率)
経済のアウトプットは、ヒト(労働)とカネ(資本ストック)が投入された量と、それらをいかに上手く活用するかという技術(TFP:全要素生産性)によって決定されるということである。
※全要素生産性・・・モノを作るテクノロジー、産業構造の構成、国民の教育水準
⇒「日本は既に成長フェーズを終えて、成熟フェーズに入っている」
★衣・食・住を保障するという社会インフラ
衣・食・住が国家によって保障されるようになれば、人はこの国で安心して生まれ、育ち、働き、老後を送ることができるようになる。「国民全員に衣・食・住を保障する」が、国民が不安なく前向きな生活を営み、活力ある社会を運営するために何よりも有効であると考えれば、このサービスこそがこれからの時代に求められる公共財であり、新しいタイプの社会インフラだということになる。
⇒実現のための追加コストは24兆円
★財源確保
1消費税税率10%UPで22兆円
2金融資産課税1%の課税で14兆円
3相続税の大幅アップ遺産額の50%を徴収できれば14兆円
★成熟化時代に取るべき経済政策
◇「成長戦略は要らない」「景気対策は止める」
◇「産業構造のシフト」
1 旧いスタイルの公共事業の典型産業である土木建設業のウェイトを軽くして、社会保障・福祉サービスを担う産業を充実・拡大させる ⇒内需拡大型産業 380万人の雇用
2 今後も外貨を稼ぎ続けることができるような国際的に競争力のある新しい分野の高付加価値型の輸出産業を育成して行く ⇒石油・食糧の輸入代金27兆円を稼ぐ 本命はハイテク型環境関連産業
★「高福祉なのに自由経済」から「高福祉だから自由経済」
◇手厚い社会保障と固い雇用保護の組み合わせは、国民経済を不健全にする
◇デンマークの特徴
・国民負担率は71.7%で世界最高水準、社会保障・社会福祉も世界最高水準
・教育への投資が世界トップ水準
・市場メカニズムの徹底的な尊重・・・労働者の解雇しやすさも最高水準
手厚い社会保障による生活の保障があるからこそ、労働者は解雇に応じるのだし、企業の方は解雇も人材の入れ替えも自由に行えるからこそ市場経済に勝って社会保障の原資を賄うための利益をあげることが出来るのである。
★しくみをセットで取り替える
これまでにも、行政改革を目指したことは度々あってもそのどれもがうまくいかなかったのは、緻密にかつ極めて強力に構築されている行政機構の部分的な手直ししかできなかったこと、そして強力な行政機構と一対をなしている独特の予算会計制度を改められなかったことに原因がある。
政治や政策を抜本的に変革しようとするならば、こうした行政のしくみをセットで取替なければならない。
★官僚機構の二つの本能
より核心的な理由を言うと、日本の官僚機構は素晴らしく良くで来ていて、大変に官僚的だからこそ変えなければならないのである。何を言っているのかというと、官僚機構とは変化を排除しようとする本能と肥大化しようとする本能を持つものである。日本の官僚と官僚機構は昔から素晴らしく優秀で、そのため二つの本能に基づいて常に変化を排除しながら増殖を続けている。
★三権分立の頂点に立つ官僚
・国会に対する優越・・・法案を官僚がほぼ独占的に書くことによって、実質的に立法権を乗っ取る
・「大臣に従わない」という戦法で大臣を自分達の意向に添った方向性でしか仕事をさせないことで、実質的に官僚機構が大臣や内閣を牛耳っている
・「行政裁量に対する司法の敬護」・・・高度な専門性と正しい心がけで行政が裁量して行うことに対しては、司法は敬意を以ってそれを信頼するので、原則的にその妥当性を認める。
★官僚機構の4つのファクター
1行政裁量権とデータの独占による「実質的な政策決定権」
2人事自治権と共同体ルールによる「組織的結束力」
3ブラックボックス化した特別会計による「莫大な資金力」
4メディアの掌握による「プロパガンダ機能」
★官僚機構に対する有効な策
1政治=官邸/内閣が官僚の人事権を掌握
2特別会計を透明化・解消
【感想など】
もうすぐ参議院議員選挙です。
昨年、政権が民主党に移る歴史的出来事がありましたが、それは国民の誰もが現在の暮らしに何らかの不満や不安を抱えていることの表れだったと思います。
投票率の低さからも「政治に無関心」と思われている日本人ですが、きっと国民の誰もが「この国は今のままではいけない」とか、もっと漠然と「なんかおかしい」と感じているのではないでしょうか。
しかし、「では何をどうしたらいいの」となると「・・・」なんですよね。
そんな漠然と不安を抱えている国民の皆さんに一つの方向性を示したのが本書です。
我が国が今後どういう方向に進むべきか。
冒頭でも書きましたがまさに「我が意を得たり」と「目から鱗」の連続でした。
なんかモヤモヤ胸につかえていたものが一気にすっきり、視界良好になったような気分です。
しかし同時に「本書に書かれている改革が果たしてできるのか?」という疑問と不安も頭をもたげてきます。
それは例えば、財源の話であったり、官僚機構のことであったりしますが、ワタクシとしてはもっと根本的に“日本人の国民性”が気になりました。
本書で著者が日本の進むべき方向のお手本としている国がデンマーク。
「なんで?」と思われる方も多いと思いますが、実は“世界一幸せな国”なんです。
※参考までに ⇒ 「幸福度調査」首位はデンマーク、中国54位、日本は?―米研究機関
ワタクシも以前、このニュースを見たときにビックリしたのですが、さらにびっくりしたのが本書冒頭部分での一節。
「自分は幸せだ」と思う人の比率が世界一のデンマーク。
「自力で生活できない人を国が助けてあげる必要はない」と思う人の比率が世界一の日本
日本人ってそんなに厳しかったかな?
それに寄付金の額が世界一少なく、貧困による自殺者数は世界一だそうです。
今もなお、「働かざるもの食うべからず」という価値観の国なんですね。
そして、金持ちがケチ・・・。
まぁそれはいいとして、こういう国民性の国がデンマークの様な「分配型社会」、つまり「働かなくても、食ってよし」路線に転換できるのか?
ここにとんでもなく大きな壁を、ワタクシは感じてしまいました。
この国民の価値観をなんとかパラダイムシフトすることはできないものか・・・。
それが出来なければ、本書の提示する改革案を実行しようとする政治家も現れないだろうし・・・。
だって、某党のKさんが「消費税10%」ってちょこっと言っただけで逆風が吹くわけですから。
これだけの借金を抱えているのだから、一分一秒でも早く税収を上げて、借金を返さなければ後々大変なことになるって誰もがわかってるはずなのに。
民主主義はあくまでも“民が主”。
そろそろ現実に目を向けなければ時間切れになってしまいそうなのに。
そして政治家。
「卵が先か、鶏が先か」じゃないですが、国民が変わるためにはヴィジョンを提示できる政治家の登場も欠かせません。
が、それも期待できそうにない。
本書では経済政策について、「成長戦略は要らない」「景気対策は止める」という路線を提示していますが、選挙の演説を聴いていると思いっきり「経済成長」をぶち上げる人ばかり。
(本書に書かれている改革をできそうな人は誰かなと考えたのですが・・・、いないなぁ。 しいて言えば田中角栄さんみたいな人かな?)
最近ワタクシ思うのですが、政治家の世代というものが政策に影響している点もあるのではないかと。
今現在60代後半の大物政治家って「高度経済成長期世代」ですよね。
40後半から50代の中堅政治家は「バブル世代」。
経済が成長し、景気の良かった頃を知っている世代の政治家には、安定経済への政策の転換はできないのではなかと。
もしかしたら、“失われた10年”世代が政治も社会も中枢を担うようになったら、日本の経済政策の転換もすんなりいくかもしれませんね。
ともかく、参議院議員選挙前に読んでほしい本。
私たちの子や孫が「この国に生まれて幸せ」と言ってくれるような国にするのは私たちの務め。
その方法の一つがここにあります。
一読あれ。
本書はXEEDの 山岸千恵様から献本していただきました。
ありがとうございました。
【関連書籍】
波頭亮氏の著書
【管理人の独り言】
先日当ブログでも紹介した奥野宣之さんの新刊
この応援書店POPに参加させていただきました。
左上、龍のアイコン(上杉謙信「懸り乱れ龍」)がワタクシで、総勢8名の関西ブロガーの応援団です。
奥野さんのご厚意で今回参加させていただきましたが、本好きにとっては嬉しい限り。
ぜひ書店に寄られた時はビジネス書コーナーで探してみてくださいね。
ただし、残念ながら関西だけですので東京の一龍ファンの方(いるのか?)はごめんなさい。
この本を読んでから、各党の話を聞くと、
とてもいろいろ気づきがありそうですね。