今日ご紹介するのは、以前から読みたいと思っていた外山先生の本。
ワタクシがよくいくリアル書店で、いわゆる”脳本”のコーナーを設けていまして、茂木先生の本とならんで置かれていました。
パラパラとページをめくって内容を確認していて目が止まったのは、「第40刷発行」の文字。
これは間違いないでしょうということで購入して読んでみたら、やはり名著でした。
外山先生の思考の整理学とは・・・
【目次】
Ⅰ グライダー 不幸な逆説 朝飯前
Ⅱ 発酵 寝かせる カクテル エディターシップ
触媒 アナロジー セレンディピティ
Ⅲ 情報の”メタ”化 スクラップ カード・ノート
つんどく法 手帖とノート メタ・ノート
Ⅳ 整理 忘却のさまざま 時の試練 すてる
とにかく書いてみる テーマと題名 ホメテヤラネバ
Ⅴ しゃべる 談笑の間 垣根を越えて
三上・三中 知恵 ことわざの世界
Ⅵ 第一次的現実 既知・未知 拡散と収斂
コンピューター
【ポイント&レバレッジメモ】
★グライダー人間と飛行機人間
・グライダー人間・・・何かに引っ張ってもらわないと飛べない人間
・飛行機人間・・・自力で飛ぶことができる人間
○人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分で物事を発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力を全く欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。
○グライダー専業では安心していられないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力の持ち主があらわれたからである。自分で飛べない人間はコンピューターに仕事を奪われる。
★朝飯前
○簡単なことだから、朝飯前なのではなく、朝の食事の前にするために、本来は、決して簡単でもないことが、さっさとできてしまい、いかにも簡単そうに見える。知らない人間が、それを朝飯前と呼んだというのではあるまいか。どんなことでも、朝飯前にすれば、さっさと片付く。朝の頭はそれだけ能率がいい。
◇朝飯前の時間を伸ばす方法 ⇒ 朝食を抜けばいい
★(卒業)論文の書きかた
◇テーマの絞りかた
・文学研究なら作品を読む。評論や批評から入ると他人の先入観にとらわれる。
・読んでいて、感心するところ、違和感を抱くところ、わからない部分を書き抜く。
・再三現れるか所が素材。
・テーマは一つでは多すぎる。少なくとも、二つ、できれば、三つもって、スタートしてほしい。
◇醗酵
・醗酵素となるアイディア、ヒントをさがす。作品中には求められない。
◇寝させる
・頭の中の醸造所で時間をかける。しばらく忘れる。「見つめるナベは煮えない」
・自然に頭の中で動き出す。折にふれて思い出されるようになると醗酵が始まっている。
★発見は朝を好む
◇考えがよく浮かぶ場所、三上(欧陽修)・・・馬上、枕上、厠上
○枕上も、夜の時間ではなく、朝の時間だと解したい。我々の多くは、この朝のひと時をほとんど活用しないでいるのではあるまいか。いやしくも、ものを考えようとするのであれば、目を覚ましてから、床を離れるまでの時間は聖なる思いに心をこらすことを心がけるべきであろう。
★情報の”メタ”化
◇思考の整理というのは、低次の思考を、抽象のハシゴを登って、メタ化していくこと
○「抽象のハシゴをおりろ」と命じたのは、一般意味論である。誤解の多いコミュニケイションを救うには、抽象のハシゴをおりて、二次的、三次的情報を一時的情報に還元するのが有効である。人知の発達は、情報のメタ化と並行してきた。抽象のハシゴを登ることを恐れては社会の発達はあり得ない。
○思考の整理には、平面的で量的なまとめではなく、立体的、質的な統合を考えなくてはならない。これを思考の純化と言いかえることもできる。
★つんどく方
①テーマに関連のある参考文献を集める。集められるだけ集まるまで読み始めない。
②これだけしかない、というところまで資料が集まったら、机の脇に積み上げる。
③片っ端から読む。メモ程度はのことは書いても、ノートやカードはとらない。
④すべて頭の中に記録する。もちろん忘れるが、不思議とノートをとったりした時のようにきれいさっぱりとは忘れない。
⑤たくさんの知識や事実が、頭の中で渦巻いているときに、これをまとめ、整理を完了する。
⑥論文や原稿が出来てしまえば、安心して忘れる。
<おまけ> 忘れられないものは人の深部の興味関心とつながっている ⇒ 知的個性の形成
★手帖、ノート、忘れることなど
○書き留めてある、と思うと、それだけで、安心する。それでひと時頭から外せる。しかし、記録を見れば、いつでも思い出すことができる。考えたことを寝かせるのは、頭の中ではなく、紙の上にする。
○頭を良く働かせるには、この“忘れる”ことが、きわめて大切である。頭を高能率の向上にするためにも、どうしても絶えず忘れていく必要がある。
○”時の試練”と派、時間のもつ風化作用をくぐっていると言うことである。風化作用は言いかえると、忘却に他ならない。古典は読者の忘却の層をくぐり抜けた時に生まれる。作者自らが古典を作り出すことはできない。
○思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である。
★書く
◇まだ書けないと思っているときでも、もう書けると自分に言い聞かせて書く。 ⇒ とにかく書いていると、頭の中に筋道が立ってくる。
◇書く以外に、聞き上手な人に、考えていることを聴いてもらうのも、頭の整理に役立つ。
【感想など】
◇上記抜き出したポイントは全体の約3分の2です。
他にも抜き書きしたい個所が多数あったのですが、
とくに、本の初めの部分は、何でもカードにとって置きたくなる。あらかじめ持っている知識の量が少ないほどカードをたくさん取りたくなる。あまりカードが多くなるのは、それだけものを知らないということで、自慢にならない。
と外山先生がおっしゃっているので、
「今日はこれぐらいにしといてやろう」(←池乃メダカのギャグですが・・・関西の人しかわからないかも)って感じでやめました。(笑)
◇この本はいわゆるハウ・ツー本ではありません。
「思考方法」や「思考の整理方法」にたいする外山先生のベーシックな考え方を、学生に対しての卒論の書きかたの指導方法などを例にしつつ述べている本です。
とはいっても、もちろんハック的な記述も多数あって、カード、スクラップ、手帳、メタ・ノートなどの活用法は興味深いものがありますが、それは実際に読んでいただくとして、本筋に。
今回、この本でいちばん気になったのが、外山先生が強く主張している「寝させる」ということ。
「忘れる」ということにもつながると思います。
いったん仕入れた知識を「寝させて」おいて、何らかのアイデアとの化学反応で醗酵の始まりを待つ。
なんだかワタクシのような凡人には「寝かせて」おいて、そのままきれいさっぱり100パーセント忘れてしまいそうでちょっと怖いのですが、実際のところはどうなんでしょう。
実感としてよくわからない部分ですが、そういえば、フォトリーディングでは1ページ1秒のペースでフォトリーディングしたあと、次の段階に進む前に、潜在意識にインプットした情報の処理のために数分から数時間程度、時間を取ることを教えられます。
食べ物の消化吸収と一緒で、知識や情報の吸収も、ある程度時間がかかるのかもしれませんね。
それに勝間和代さんも「本で読んだ知識が何かの拍子にパッと思い出される」ことがあるそうなので、ここは素直に、本文中に出てくる「見つめるナベは煮えない」の言葉通り、一つのことを考えつづけるよりは、「もっと(自分の)頭を信用してやる」のがよいのでしょう。
◇勝間さんで思い出したのですが(←さっそく思い出したぞ!エライぞ、俺脳!)、アイデアが浮かびやすい「三上」について、勝間さんは
「お風呂」・「自転車」・「人と話しているとき」 (『起きていることはすべて正しい』より)とおっしゃってましたが、本書では続きが。
それは文章上達の秘訣の「三多」
三多・・・看多(多くの本を読むこと)、做多(多く文をつくること)、商量多(多く工夫し、推敲すること)だそうで、これは素直に納得。
ついでに、外山先生のアイデアの浮かびやすい「三中」というのもありまして、
三中・・・無我夢中、散歩中、入浴中
「無我夢中」はともかく、「散歩中」と「入浴中」はやはり定番。
適度な運動やリラックス状態が良いアイデアの浮かぶカギ。
しかしワタクシ個人的には上記の最中にアイデアが浮かんだためしがありません。
なぜなら、「散歩中」は我が家のバカ犬にグイグイ引っ張られ、「自転車」では交通量が多いので考え事などしている余裕もなく、「入浴中」は子供と激しくお湯の掛け合いをしていてリラックスとは程遠い。
耐えがたきを耐えてオリマス・・・。
◇さて最後に、本書のもう一つの大きなテーマである「グライダー人間」と「飛行機人間」。
学校教育が「グライダー人間」の訓練所である以上、卒業して世の中に出てくる新社会人はほとんど100パーセント近くが「グライダー人間」である。
ワタクシは、それはそれでよいのではないかと思うし、学校教育に「飛行機人間」排出を期待するのは酷だろうと思う。
なぜなら、「飛行機人間」予備軍の生徒はいつの時代も少数派で、多くの場合、学校教育の手に負えない。
それよりは、社会に出てから「グライダー人間」が「エンジンがほしい」と思ったときに「訓練」を受けるシステムを充実させた方がよいのではないでしょうか。
それにもしシステムがなくても、「エンジンが必要」だと気づいた「グライダー人間」は自力で「飛行機人間」になるべく訓練をし始めますよ。そのあらわれが、昨今のカツマー現象や仕事術などのビジネス書ブームではないでしょうか。
もっとも勝間さんは、ジェット戦闘機のような「飛行機人間」ですが。
最後に本書からの引用を
人間らしく生きていくことは、人間にしかできない、という点で、すぐれて創造的、独創的である。コンピューターがあらわれて、これからの人間はどう変化していくであろうか。それを洞察するのは人間でなくてはできない。これこそまさに創造的思考である。