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フレームワーク「5つの力」でマーケティング的に分析する街の本屋さんが生き残るためのポイント

おはようございます、一龍(@ichiryuu)です。

本をこよなく愛している僕ですが、昨今の出版不況と書店の減少は本当に心配しています。
特に街の本屋さんは深刻な状況で、今や日本全国で1日1店のペースで書店が消えています。
しかもそれは個人店にかぎらず東京の有名大型書店も例外ではありません。

なぜ本屋というのビジネスはこれほど弱いのか。
今回、マーケティング本で有名な永井孝尚氏の

『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』

でフレームワークを使った解説ですごく納得したのでご紹介したいと思います。
と同時に僕の書店や本に関して考えていることなどもつらつらと書いてみました。

 

「5つの力」から分析する街の本屋さんが生き残るためのポイント

★閉店が続く本屋

 

ここ数年、昔からあった街の本屋が次々と閉店していますよね。
「活字離れ」などという言葉が言われるようになって久しいですが、総人口自体も減少に転じていますし、本屋さんの苦戦ぶりは本書でもこのように語られています。

 なんと万引きで倒産する本屋もあるらしい。万引きで赤字に転落するほど利益が少ないからだ。新刊本の発行はこの20年間で倍になったので、一見すると本屋の店頭は賑わっているように見える。しかし実は販売部数は25 %減。全体で縮小している。本屋の数はネット書店のアマゾンにも押されて、国内全体ではこの15年間で4割も減っているらしい。

★元気な古本屋

一方、同じく本を扱っているのに、減る一方の本屋と比べて、元気な印象を受けるのが古本屋さんです。

道路沿いにはブックオフを見かけるし、街にはオシャレな古本屋も増えている。
「街のオシャレな古本屋」は僕は田舎者でよく知りませんが、ブックオフはお世話になっています。
ブックオフが元気な理由について著者は2つの理由を挙げています。 
 
 ブックオフに持ち込む人は、私のように「安くていいから引き取ってほしい」と思っている人が多い。この人たちは、お金がもらえれば御の字という人だ。
 ブックオフはそういう人たちから、古い中古本は数円〜数十円、場合によってはタダで買い取り、100円程度で売っている。中古とはいえ状態のいい人気の新刊本は確実に売れるので、定価の1割程度で買取店、5割引で売っている。
という抜群な利益率。
そして、
 
 ブックオフが成長した理由はもう1つある。これまでの古本屋は、持ち込まれた古本をチェックするには、店側に高い目利き力が必要だった。しかしブックオフの店頭でチェックするのは、主に「書き込みや折り曲げがあるか?いつの本か?」だけだ。レア本かどうかは一切関係ない。これならバイトでも査定ができ、店の人件費が削減できる。
 

という低コストです。

★フレームワーク「5つの力」について

ではここで、本屋と古本屋の儲ける力の違いについて分析していきます。
本書ではそのためのフレームワークとして「5つの力」というものを使って分析しています。

そもそも

儲かるかどうかは、ライバルとの競争だけで決まるわけではなく、さまざまな市場関係者との力関係で決まる。
わけです。
そこでその市場関係者との力関係を見ていくのが「5つの力」です。

 市場関係者を5つに分け、自分たちが儲けるためにはどんな手を打てばいいのかをマーケティング的に考える力「5つの力」というフレームワークがある。これは競争戦略の第一人者である経営学者マイケル・ポーターが提唱したもので、マーケティングはフレームワークに当てはめて考えると、より早く確実に正解に近づける。
 
 
 

ベースにあるのは

 「競争するなら、勝てる競争をすべし」というのが、ポーターの基本的な考え方である。勝てない競争には、ムダな時間とコストがかかり、儲けも減る。「5つの力」は、勝てない競争を避けて、常に勝てる状況を作り出すことで、儲けに繋げる考え方だ。

で、実際に分析する関係は次の5つ

 5つの力では、市場関係者を「買い手」「売り手」「新規参入業者」「代替品」「同業者」の5つに分ける。そして彼らと自分の力関係をチェックし、どちらが強気に立てるかを分析する。ポイントは、相手にとって自分がどのくらい「オンリーワン」の状態かを見ることだ。

★ブックオフの「5つの力」

では実際に「5つの力」を使ってまずブックオフのマーケティングを見ていきましょう。
 

(1)買い手
 「本を安く買いたい人」にとって、ブックオフは安くて品揃えが豊富だし、実際に本を手に取りながら買える。国道沿いにあることが多いので行くのも簡単だ。
 買い手にとってはブックオフがほぼ唯一の選択肢なので、買い手は言い値で買うしかない。つまり買い手に対してブックオフの方が強気に立てる。

(2)売り手
 以前、手軽に大量の本を買い取ってくれるのは、ブックオフがほぼ唯一の存在だった。だから古本を売りたい人は、買取価格がタダ同然でもここに本を持ち込んだ。結果、ブックオフは売り手に強気に立てたので、格安で本を仕入れることができた。

 しかしいま状況は変わってきている。古本を売るには、さまざまな選択肢がある。古本を宅配便で送るだけの簡単買取サービスを提供している駿河屋やオークションサイトやアマゾンの中古市場もある。
(3)新規参入業者
 これから古本屋をはじめたい業者は、安さと品揃えではブックオフに太刀打ちできない。となると「安さと品揃え」以外の分野で勝負するしかない。ここではブックオフは強気に立てる。
(4)代替品
 代替品とは、別業界でお客さんのニーズに応える商品やサービスだ。
 ブックオフの場合、代替品はヤフオクやメルカリなどのオークションサイト、さらにはアマゾンの中古市場や駿河屋のような中古のネット通販ショップだ。
(5)同業者
 「他の古本屋」にとって、「安さと品揃え」ではブックオフにはかなわない。
 一方で、マンガ、歴史、小説などの専門分家に特化した専門性を持つ古本屋は強い。
 つまり古本屋業界の中では、「安さと品揃えで強いブックオフ」と、「専門性に特化した他の古本屋」で棲み分けが行われており、巧みに競争を回避している。
まとめると
 
 このように5つの力で見ると、ブックオフは買い手、新規参入業者に対してはほぼオンリーワンの存在で強気に立て、同業者に対しても競争せず棲み分けている。
 一方でインターネットの普及とともに登場した代替品であるオークションサイトや中古ネット通販業者に対しては、弱い立場だ。そこでブックオフは対策として、オンライン事業立ち上げたり、ヤフオクと提携したりしている
「代替品」の登場で初期の頃のような圧倒的な”強さ”はなくなってきたものの、まだまだオンリーワンの部分を残しており、しばらくは強い状態が続けられそうです。

★書店の「5つの力」

一方の普通の本屋さんですが、こちらはこの「5つの力」で考えると”儲からない理由”がよくわかります。

(1)買い手
 最近の本屋の品揃えはどこも同じだ。つまり一般読者に対して、本屋は強気に立てずに立場が弱い。しかも対策をほとんど打っていないところが多い。
(2)売り手
 本屋への売り手は限定されている。「出版取次」と呼ばれる書籍卸売業者で、これは大手2社のほぼ独占だ。彼らから仕入れられなくなると、本屋は本を調達できない。つまり本屋から見ると、売り手である出版取次には弱い立場だ。ここにも対策を打っていない。
(3)新規参入業者
「本屋をはじめたい人」は、誰でも本屋をはじめられる。参入障壁はほとんどない。消費者に支持されるまったく新しいタイプの本屋が登場すると、お客さんを一気に奪われる可能性は高い。
(4)代替品
 本屋の代替品は、電子書籍とアマゾンだ。これらと比べると、本屋は品揃えも使い勝手も負けている。つまり代替品に対して本屋の立場は弱い。
(5)同業者
どこの本屋も品揃えに大きな違いはなく、似たような店舗だ。違いを打ち出せない本屋同士で、激しい競争している。
おわかりのように、5つ全てにおいて「Lose」状態。
 このように普通の本屋は、どの市場関係者に対しても弱い立場だ。対策もまだ打っていないところが多く、本屋同士で激しく競争している。
 本屋は勝てない闘争を続けている。
 だから儲からないのである。
この状態を変えない限り、本屋さんが姿を消すのは時間の問題と言えそうです。

感想など

◆本当の問題は「対策を打っていない」こと

以上、フレームワーク「5つの力」を使うことで本屋さんがどうして儲からないかを『これ、いったいどうやったら売れるんですか』からまとめてみました。

業界関係の方はもう気がついている内容だと思いますが、こうしてフレームワークに当てはめて分析するとすごくよくわかりますね。

今、現状で本屋というのビジネスは、「5つの力」から見ると5つとも弱いという全敗状態。
ビジスネとして継続するにはあまりに競争力が弱く、どんどん縮小していくちいさなパイを奪い合う消耗戦であることがわかります。

ここからはっきりわかることは、「今のままではダメ!」ということ。

なのにですよ、僕がすごく気になったのは、本屋の「5つの力」を分析していく中で何度も出てくる「対策を打っていない」という言葉でした。

非常に厳しい言い方をしますが、市場の変化に対してほとんどの街の本屋さんは何の対策もしてきていないのです。
客目線で見てもそれは感じていて、僕が子供の頃と現在で比較して本屋さんというのはなんにも変わってないと思います。
このままではなんというか、「座して死を待つ」だけじゃないでしょうか。

実は本書は、マーケティング的分析をして、「だから本屋はもうダメだ」で終わっているわけではありません。

著者は考え方を変えれば、この状況から抜け出せるとして、 マーケティング的に解決方法も提示してくれていますし、具体例も示してくれています。

詳しくは本書で確認していただくとして、ポイントだけ紹介すると

・業界で最も低コストをめざす「コストリーダーシップ戦略」
・顧客の特定のニーズに対してベストをめざす「差別化戦略」
・狭い四条で徹底的な差別化をめざす「集中戦略」
の3つの方法です。

で、本書で紹介している具体例、例えば代官山蔦屋書店まんだらけなどは、いずれもあきらかに普通の本屋とは違う取り組みをしているのです。

斜陽産業と言われながらも、やりようによってはまだまだ可能性はあると思います(だってほとんどの同業者が何も対策を打っていないのですから)。

たとえば僕が知っている本屋さんで言うと、東京天狼院さんなどがいい例でしょう。
ちいさな書店ですが、選書にこだわりがあるし、カフェを併設して居心地が良いし、店主や店員さんは気軽に話しかけてくれるし本のコンシェルジュ的な役割も果たしている。
また、お客様を巻き込んだ様々なイベントを提供して、その一部はネット配信もしている。
本業の”本”をネタにお客を引き込んでいるといった感じです。

僕が実際に行ったことのない書店では、毎日のようにイベントを開催しているB&Bさん。
斎藤一人さんファンにはおなじみ、店主が本のソムリエとして知られていて、お客様の悩みにぴったりの本を選書してくれる読書のすすめさん。
店主に1万円で本を選んでもらえる「一万円選書」に全国から注文が殺到しているという北海道砂川市にあるいわた書店さんなど。

お店の場所や規模に関係なく、元気な書店はたくさんあるのです。

何度も言いますが、出版業界全体が縮小している現在ですが、その最前線でお客様と直接触れる場である本屋はやり方次第でまだまだ可能性を秘めているビジネスだと思います。

本を並べて待っていればお客様が来て買っていってくれる。
そんな時代はとうの昔に終わっていることに早く気がついて、他とは違う取り組みをぜひ街の本屋さんには頑張ってもらいたいです。

◆このままでは紙の本の末路は伝統工芸品?

で、なんで僕がここまで熱く「本屋さん頑張れ!」と言っているかというと、僕が単に本好きだからではありません。

本書にこんな一文があります。

本屋さんの役割とは、「文化との出会いを演出すること」
この意見に僕は全面的に共感します。

本屋さんって他の小売業とは違って「その国、地域の文化を支える」という特別な役割があると思うのですね。

もちろん本屋さんも商売ですから売れ筋の本や雑誌、マンガをお店に並べるのはいいと思いますが、たとえ売れなくても岩波文庫や新書、講談社学術文庫とかその他学術的専門書をしっかり置いている、しかもそこに店主の「人生で最低これだけは読んでおけよ」的な選書がなされている本屋さんは「おっ、やるな」と思うし、何としてでも生き残ってほしいですよね。

ただ、僕が本当に心配しているのは、こういった信念を持った街の本屋さんも含めて本屋さんがこの先消えていってしまい、紙の本と触れることができるのは図書館だけという事態になること。

「じゃあ図書館があるからいいじゃないか」と思う人はまだ問題の本質がわかっていない。

僕は紙の本にとっての本当の脅威は電子書籍であると考えています。

おそらく今はまだ元気な古本屋も電子書籍の普及で商品となる本が少なくなり、玉切れでいずれ商売が成り立たなくなるのではないかと推測しています。

そういう時代になったら、おそらく図書館にすら紙の本がなくなってしまうかもしれません。

なぜなら、材料や流通、在庫などのコストのかかる紙の本を作らなくなり、いずれは紙の本を作る技術すら失われてしまい、ごく一部の技術を伝承している人が作る紙の本は伝統工芸品として贅沢品になるのではないかと思っているのです。

どうでしょう、これは僕だけの荒唐無稽な想像でしょうか?
街でスマホで漫画を読んでいる中学生を見ていると、けっして荒唐無稽な想像ではないと思いますが(ぎゃくに紙の週刊少年ジャンプを読んでいる中学生を最近は全く見かけません)。

ここで、「電子書籍があるなら紙の本はなくなってもいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。

それがダメなんですよ。
電子書籍はアクセスできない人がいるのが問題なのです。
そしてそのアクセスできない一定の層というのは「情弱」である可能性が高く、「情弱」は貧困問題とも結びついてきます。
貧しい人々は本を読むことすらできなくなる?その可能性はなくはないのです。
さらにいうとその結果は、貧困層の固定化という状況を生み出すのです。

人類の歴史のなかで新技術の誕生で消えていった古い技術はたくさんあります。
いずれは紙の本も消えていく運命なのだと僕は思っています。

幸い紙の本は電子書籍に比べてアクセスのしやすさという圧倒的なアドバンテージがまだまだあるので、かつてレコードがあっという間にCDに駆逐されたような勢いで消滅することはないでしょう。

ですが、レコードにはなかった”売れない”というハンデキャップを負っているのは大きなマイナス要因です。

「一冊の本との出会いが人生を変えた」という話をよく聞くじゃないですか。
僕も大した人生じゃないけれど、そういう経験をしました。

しかし将来はその体験ができない階層が誕生するかもしれません。

一日でも長く紙の本が生きながらえ、本を目にするチャンスを多くの人が平等に得られる状態であることを僕は希望しています。

そのためには紙の本が売れ続けないといけないし、その意味において”売る”を担当している街の本屋さんは重い使命があるわけで、とにかく頑張ってほしいと思うわけです。

◆最後に

さて、長々と本屋さんについて書いてきましたが、最後に本書の紹介もしておきましょう。

本書はマーケティング的思考で様々な業種を分析しているマーケティング入門書的な存在です。
目次を見ていただくとわかると思いますが、なかなか興味深いテーマで個人的に特に「北海道でマンゴーを育てる」は目からウロコでした。

マーケティング担当者でなくても、「なるほどこういう戦略だったか」と楽しくマーケティングを学べる一冊です。

本書はSBクリエイティブ様より献本していただきました。
ありがとうございました。

目次

第1章 腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか? 「バリュープロポジション」と「ブルーオーシャン戦略」
第2章 人はベンツを買った後どうしてベンツの広告を見てしまうのか 「顧客」と「ブランド」
第3章 雪の北海道でマンゴーを育てる? 「商品戦略」と「顧客開発」
第4章 あの行列のプリン屋が赤字の理由 「価格戦略」
第5章 なぜセブンの隣にセブンがあるのか? 「チャンネル戦略」と「ランチェスター戦略」
第6章 女性の太った財布には、何が入っているのか 「プロモーション戦略」と「マーケティング・ミックス(4p)」
第7章 きゃりーぱみゅぱみゅは、なぜブレイクしたのか? 「イノベーター理論」と「キャズム理論」
第8章 古本屋が普通の本屋より儲かる理由 「マイケル・ポーターの5つの力」と「競争戦略」

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