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ボロボロ・ガタガタ病をださないために【書評】西多 昌規(著)『病んだ部下とのつきあい方』 中央公論新社

おはようございます、最近休みがなくて病み気味の一龍(@ichiryuu)です。

さて今日は、先日も新刊を紹介した精神科医、西多昌規先生の最近出たもう一冊の本をご紹介。
今回はストレスマネジメントがテーマ。

非常にデリケートな問題だけに、どう対処していいか悩んでいる上司の方は必読です。

 

【ポイント&レバレッジメモ】
★時には部下に同伴して、ファクト中心の情報を医者に伝える

 主治医としては、毎回ではなくたまにでもいいので、上司からの情報が欲しいときもあるのです。本人の様子だけでは、わからないことが多々あるからです。調子の悪いときは、喋るのも一苦労の人もいます。逆に経済的問題や失業に対する不安から復職を焦って、不調にもかかわらず好調をアピールする人もいます。<中略>
 気に入らない、文句ばかり言っている部下であっても、なるべく私的な感情を交えず、ファクト中心の情報を医療者に提供していただければ、方針も立てやすくなります。

★「病んでいるサイン」

 注意すべきはなんといっても、行動面の異常です。仕事でいちばんわかりやすい行動は、「遅刻」です。うつ病には、午前中は具合が悪く、午後になると持ち直してくる「日内変動」という症状があります。これを端的に示すのは、「遅刻」あるいは「欠勤」です。<中略>
 仕事での凡ミスも行動面での重要なサインの一つですうつ病の患者さんの悩みの一つに、「本を読んでも全然頭に入ってこない」「字面を読み続けられない」という症状があります。思考力、集中力の低下を示す、わかりやすい訴えです。<中略>
 遅刻・欠勤や仕事でのエラーは、当然ながら周囲との軌繰を生じます。イライラが嵩じて、突然逆ギレしたりするのも、サインの一つでしょう。まして、洗顔した形跡もなく髪も髭もぼうぼう、あるいは化粧もせずにスッピンで、服装もぐちゃぐちゃか毎日同じ、風呂にも入っていないらしき体臭、まして酒臭まで漂わせて出勤してきたならば、赤信号レベルです。

★「病んでるサイン」に気づいたら

「病んでいるサイン」に気づいた場合に最初にすべきことは、
「休養を取るように指導する」
「医療機関への受診を勧める」
など積極的に働きかにることではりません。心配していることを伝え、相談しやすい環鏡を作ることです。
「いつもの君らしくないようだ。時間を作るから、ちょっと相談に乗ろうか」
「わたしから見ても、元気には見えないよ。時間をとって話をしてくれないか」
 ニュアンスの差はあっても、相手を心配し、相談する落ち着いた機会を持つことを示してあげることが大切です。たとえ、「いえ、大丈夫です」と初めは遠慮されても、相談のチャンスが持てるという保証は、安心感につながります。「医者へ行ったらどうか」は、その後の話になります。

■部下を病ませないための10のヒント(抜粋)

★「相手の主体性」を尊重する態度で接する

 うつ病の三大妄想の一つに、「微小妄想」というものがあります。客観的には仕事はそこそこできているのに、「僕は業績もビリなんです」と言い張り、他人の説得や訂正をまったく受け付けなくなってしまう症状のことです。
 世代が違う部下に対する基本姿勢は、「自分の思い通りには動かない」と部下に対する期待値を下げることです。そうすれば、部下のミスにも寛容になれるはずです。「ちゃんとやってくれるだろう」「ああ言っときゃ、わかるだろう」とは思わなしことです。過大な期待が裏切られることは、怒りや敵意の元です。
 繰り返しますが相手の主体性を尊重することです。「常識的にはこうだが、君の考えを聞かせてもらいたい」など、対等に扱おうとしているという態度を示せば、すぐには意見を言えなくても、教育的な意味は大きいと思います。

★あいさつは、相手の敵意を打ち消し、仲間であることを示す儀礼

 むしろ言葉以外の情報を相手に伝えるのが、「あいさつ」の機能的役割でしょう。相手に伝えられているのは言葉そのものの意味ではなく、表情や口調、姿勢、声色など非言語的な要素です。そしてこれらの要素が、相手の機嫌や感情などを伝えることになります。<中略>
 あいさつをすることは、相手の敵意を打ち消し、仲間であることを示す儀礼とも言えるわけです。あいさつをするのは簡単なことですので、「病んでいる部下」を作らない、気持ちのいい職場作りに使わない手はありません。

★相手を質問攻めにすることは控えて、自分から自身の弱みを晒す

 人間は他人から弱みを晒されると、情にほだされるところがあります。なにかこの人のためにしてあげたい、そういう利他的な心情が働いてきます。おそらくは、脳内のオキシトシンの作用もあるのでしょう。
 さしあたって自分の中に生じてきた「利他的」なものを満足させるいちばん手っ取り早い行動は、自分も「腹を割る」ということなのです。これは、別に意識してやることはありません。正常で健康な共感性を持っていれば、自然にできることです。
 本音を話せれば関係もよくなることはわかっているけど、話すと嫌われるか、変に思われるのではないか、そういう不安もあるでしょう。対人関係でのギクシャクを改善していくためには、少しずつの「自己開示」が必要です。「腹を割る」のはややオーバーな表現ですので、「腹を小出しに割る」程度にしておきましょうか。

★部下が病む恐れのあるNGワード

 理不尽な叱責や厳しい注意を受けるときは、言う方も言われる方もいい気持ちはしないのは当然です。あるいは、やりたくない仕事を命じられるときも、命じる方も命じられる方もつらく、重い空気が流れるものです。
「お前のために言っているんだ」「今後、君の勉強になるから」
 こういった場面で、上司である相手から飛び出す定番フレーズ(?)でしょう。
 結論から言うと、逆効果です。この言葉の背後にある、「お前がちゃんとしてくれないと、オレが困るんだよ」「誰かがやってくれないと、責任を取るのはわたしだ」という、自己保身や自己欺臓が見え見えなのです。<中略>
「お前のために」などとは言わず、「人のやりくりで困っている」と正直に苦しい内情を打ち明けたほうが、お互いの距離が縮まります。秘密を打ち明けられれば、「この人からは信頼されているな」という信頼感が生まれてきます。特に交渉では、信頼感は条件などよりも重要なファクターです。

【感想など】
◆ストレスマネジメントは必須テーマ
つい先日も西田先生の本を紹介したところですが、

続いて最新刊をもう一冊紹介。

今回はタイトルからもわかるように職場でのストレスマネジメントがテーマです。
労働環境がどんどん厳しくなっていく昨今、心を病む労働者が増えていることはよくニュースで伝えられています。

ワタクシも職場で実際に心の病から病気休職、あるいは退職していった人たちを何人も見てきました。

同僚の立場では「なにかしてあげられることはなかったのかな」と軽い自責の念にとらわれたりするのですが、これが上司の立場だと話は厄介。

世知辛い話ですが、部下の健康管理の責任が問われます。

厳しい労働環境の中でも「みんな元気で明るい職場」というのが理想であることはまちがいありません。

部下が健康で、元気に働いてもらうためにはどうしたらいいか、多くの上司に読んでいただきたい本です。

◆根本的に世のなにかがおかしい
本書前半には、多くの症例ととともに、対処法が紹介されています。

この部分については下手に部分的に抜き書きして、当ブログ読者に誤解を与えてはいけないので、今回はピックアップしませんでした。

ぜひ、本書に直接当たり、正確に読み込んでください。

症例と対処法はさておき、本書を読んでいて感じたのは、「世の中何かがおかしい」ということでした。

本書中にこんな一節が登場します。

過重労働で心身ともに疲弊していた労働者は、産業革命が進んでいた19世紀のイギリスにも存在していました。内科医ジェームズ・ジョンソンが、「消耗症候群ないしボロボロ・ガタガタ病(wear and tear malady)」という名称で表現しています。現代日本の「病み社員」を表現するのにも、ピッタリはまる病名です。

「消耗症候群ないしボロボロ・ガタガタ病」、本当に今の心を病んでいる労働者にぴったりすぎる命名です。
しかもこの名称が、産業革命時のイギリスですでに登場しているだなんて。

経済の発展は、人間を豊かにし、幸せにするはずのものであってほしいのですが、経済の発展が始まったときから、まるで影のように心の問題は表裏一体でついてきているのですね。

この「消耗症候群ないしボロボロ・ガタガタ病」の予防法自体は意外と簡単。
それは「休む」こと。

実際、心を病んだ人が、休むだけでも回復する例が多いそうです。

が、みなさんおわかりのとおり休めない。

重要なのは、日本ではともすれば軽視されがちな「休む」ことの重要性を再確認してほしいということです。有給休暇の消化率も諸外国に比べて圧倒的に低く、ゆっくり休めるのは「定年後」という働き方は、どう考えても尋常ではありません。

ワタクシも西田先生と同様、本当におかしいと思います。
しかも、定年後すらもう休めない社会になりつつあります。

このままでは日本人は一生働いて、ボロボロ・ガタガタになって死んでいくしかないのでしょうか。

◆このままではドミノ崩壊も
最初にワタクシも心を病んだ同僚を何人も見てきたと書きました。

これは決して他人ごとではありません。

一人のうつ病が他人をも病ませてしまう「ドミノうつ」、あるいは病休の続出で組織自体が戦力低下し、ついには機能停止に陥る「ドミノ崩壊」も、現実に生じています。

とあるように、そのリタイアした人の仕事は残された我々に上乗せされます。

いうまでもなく、みんな余裕なんてありません。
一人去り、二人去り、それを支え続ける過程で、ある日突然ダムが決壊するようにチームが機能停止に追いやられる。

そんな現場も見てきました。
その多くの場合、ダムの決壊を最後まで支え続けていたのは上司でした。

責任を感じてのことでしょうが、そうならないために上司ができることはストレスマネジメントをきちんと学ぶことではないでしょうか。

一般的に上司になる人は有能でエネルギッシュな方が多いので、「心の病」というと、「俺には関係ないよ」というスタンスの人が多数を占めていると思います。

またそういう人は、部下にも自分と同じレベルの結果を求めたりします。

ストレスマネジメントは部下だけでなく、結果的に自分自身を守ることにつながります。
研修なり何なり、正しい知識を学ぶ機械を持ってほしいものです。

◆自分が病まない
最後に、本書最終章では、上司であるあなたが病まないために、
自分自身のストレス対処の特徴を知る心理評価法として、勤労者のためのコーピング特製簡易尺度が掲載されています。

ストレスを自分がどう処理する傾向があるのかを知っておくことは、「ミイラ捕りがミイラにならない」ために必要なことです。

ぜひチェックしてみてください。
部下の健康はもちろん大事ですが、あなたが病んでしまっては元も子もありませんから。

とにかく一刻も早く、ストレスマネジメントについて、うつ病など心の病について、上司たるもの、チームを預かる立場にあるのであれば、正しい知識を身につけてもらいたい。

それが、病まなくてもいい人を救い、自分自身のためにもなります。
まずは本書を一読!

本書は著者の西多先生から献本していただきました。
ありがとうございました。

【関連書籍】

本書内で引用・紹介されている本

女王バチのために黙々と働く働きバチや、列を成して大きな荷物を運ぶアリたちに共感を覚えた経験は誰にもあるはず。しかし実際に観察すると、アリもハチもその7割はボーッとしており、約1割は一生働かないことがわかってきた。また、働かないアリがいるからこそ、組織が存続していけるというのである!これらを「発見」した著者による本書は、アリやハチなどの集団社会の研究から動物行動学と進化生物学の最新知見を紹介。人間が思わず身につまされてしまうエピソードを中心に、楽しみながら最新生物学がわかる科学読み物である。生命の不思議に感動すると共に、読後には社会・会社・家族などへの考え方が少しだけ変わる、ラクになる。

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