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いったい誰のための憲法改正か考えよう【書評】倉山満(著)『間違いだらけの憲法改正論議』 イースト・プレス

おはようございます、憲法前文を暗記させられたのがすごく嫌な思い出として記憶に残っている一龍(@ichiryuu)です。

さて今日は、憲政史研究家の倉山満さんの本をご紹介。

昨年の自民党の復権以来、憲法改正論議が盛んになってきていますが、本当に大切なポイントはいったい何なのか?
その一点を鋭く指摘する劇薬です!

 

【目次】
はじめに
第1章 日本国憲法の何が問題か
第2章 あるべき天皇の規定
第3章 あるべき人権
第4章 あるべき議会
第5章 あるべき内閣
第6章 あるべき司法
第7章 あるべき財政
第8章 あるべき憲法

【ポイント&レバレッジメモ】
★「マッカーサー3原則」

第一原則 天皇の元首規定
◎天皇は国家元首の地位にある。
◎皇位は世襲される。
◎天皇の職務と権限は、憲法にもとづいて行使され、憲法の定めるところにより、国民の基本的意思に対して責任を負う。

第二原則 戦争放棄
◎国家の主権としての戦争は廃止される。
◎日本は、紛争解決の手段としての戦争の承ならず、自国の安全を維持する手段としての戦争も放棄する。
◎日本は、その防衛と保謹を、いまや世界を動かしつつある崇高な理想に信頼する。
◎日本が陸海空軍を保有することは、将来ともに許可されることがなく、日本軍に交戦権が与えられることもない。

第三原則 民主化
◎日本の封建制度は廃止される。
◎華族の権利は、皇族を除き、現在生存する一代以上におよばない。
◎華族の特権は、今後、国または地方のいかなる政治的権力も包含するものではない。
◎予算は英国の制度を手本とする。

これではニマッカーサー11原則ではないか」「マッカーサーは数も数えられないのか」などと言いたくなりますが、驚くべきは11原則の内容です。そのほとんどすべてが当用憲法の条文になっています。

★「日本を永遠に敗戦国のままにする体制」

 当用憲法第九条第一項では表現が「国権の発動としての戦争」となっていますが、これは日本政府が翻訳でごまかしたのです。日本の憲法なのですから、日本語が正文なのですが、英文を見るとマッカーサーの意図は「国家主権としての戦争は廃止される」ですから、日本を永遠に主権国家にさせない呪いを込めたと言えます。主権国家に戻れないとは、永久にほかの国と対等の関係に立てないということです。<中略>
「第九条平和主義」を愛する護憲派のみなさんのなかには「すべての戦争を否定することは人類の理想だ」と思う方もいるかもしれませんが、そんなに理想の憲法ならば、なぜアメリカ合衆国憲法に盛り込まないのでしょうか。
 何より、朝鮮戦争が起こった途端に「日本も再軍備をしろ。第九条を言い訳にするな。解釈でどうにでもなるだろう」と言い出したのがマッカーサーなのです。最初は「日本が二度と歯向かわないように」としながら、「番犬としてしっかり働け」と言い出すのですから、ご都合主義の極承でしかありません。「人類の理想」などマッカーサーはかけらも考えていません。

★憲法には誤植がある

第7条 4 国会議員の総選挙の施行を公示すること

衆議院には総選挙があります。しかし、参議院は三年ごとに半数の改選です。だから参議院選挙に衆議院選挙が重なっても必ず国会議員に残ります。よって当用憲法が続くかぎり、「国会議員の総選挙」はありえないのです。

★日本国憲法では在日米軍が主権者だ

「天皇こそが日本の中心であり憲法論議の本質である」
「天皇の統治権を明記しない憲法改正など、やる意味はない。時間と労力のムダだ。憲法を変えなくてもできる、ほかのことに全力を注いだほうがいい。むしろ憲法を変えなくてもできることを全部やれ」

憲法論議で最も重要なのは、政府機能が麻蝉したときにどうするのか、真の「有事」を考えることです。「終戦の御聖断」のときのような国そのものが滅びそうなとき、二・二六事件のような政府機能が麻癖しているとき、関東大震災のような総理大臣が不在のとき、そして以上のような「有事」に際して菅直人氏が総理大臣だったとき、誰が日本を守るのでしょうか。
 帝国憲法では、切り札が天皇でした。
 ところが、当用憲法では「有事」という概念そのものがありません。
 なぜそうなのか。その答えは簡単です。
 在日米軍が「有事」への対応をするからです。

★「人権」がもともと存在した日本

 まず、もともと日本は「人権」など発明しなくていい国だったということを忘れてはいけません。「人は、人だから殺してはいけません」など、『古事記』の時代から常識です。そもそも天皇ですら人民を家畜のように扱ったら許されません。鎌倉時代の名執権・北条泰時の逸話でも「民は宝」と強調されたりします。江戸時代は「切り捨て御免」と言って、武士は庶民を切り殺してかまわないという法があるにはありましたが、本当にそれをやったら、よほどの理由がないかぎり、本人は切腹のうえで御家断絶です。ペリーが日本に来たとき、日本の庶民のあまりに明るい笑顔に驚いたそうです。日本には中世ヨーロッパのような暗黒の世紀はありません。日本の庶民は家畜のように扱われたわけではないので、わざわざ「人権」という観念を発明しなければならなかったヨーロッパとは違うのです。

★日本国憲法における「憲政の常道」

 吉田は昭和二十一年(一九四六年)六月二五日の衆議院本会議で、「御誓文の精神、それが日本国の国体であります」「日本に於ては他国に於けるが如き暴虐なる政治とか、或は民意を無視した政治の行はれたことばないのであります、民の心を心とせられることが日本の国体であります、故に民主政治は新憲法に依って初めて創立せられたのではなくして、従来国其のものにあった事柄を単に再び違った文字で表はしたに過ぎないものであります」と答弁しています。「五箇条の御誓文」に始まる「憲政の常道」を、吉田は明確に理解していました。民主政治などアメリカ人に教えてもらう必要はありませんでした。
 昭和天皇は、戦前の歴代内閣に対して(戦後は史料がないのでわかりません)、「明治天皇のお定めになられた憲法を遵守すること、財界の安定を図ること、外交で無理をしないこと」とのお言葉を下されていました。
 池田の「政治は総選挙によって民意を間うて行う」「国民が真面目に働けば報われる経済にする」「自由という価値観を共有する国々と仲よくする」は、昭和帝の大御心に沿うものではなかったでしょうか。

★憲法の「条文」より大事な三つのこと

 ひとつは憲法観の合意です。
 憲法観の合意は、国民全体でなされていなければなりません。主要政党が憲法論議でなすべきは、憲法、すなわち国家のあり方に関して、基本的なところで合意を形成していくことです。
 とくに重要なのは、軍隊を持つかどうかの合意です。こんな根本的な問題で合意がない国は、おそらく日本だけでしょう。<中略>
 第二は、憲法附属法です。
 当用憲法第九十六条で憲法改正の規定を定めていても、国民投票法がなければ、仮に衆参両院が発議しても、絶対に憲法改正はできません。憲法を生かす法が憲法附属法です。憲法附属法がなければ、憲法典の条文だけを変えても無意味なのです。
 逆に、憲法附属法があれば運用はできます。<中略>
 第三は、憲法習律です。
 平たく言えば、運用です。憲法は、条文より運用が大事。そんな当たり前のことを日本人は忘れているのではないでしょうか。

【感想など】
◆憲法改正論議の本質とは
著者の倉山満さんは香川県生まれ(おっ!)の憲政史研究家。

その著者が昨今の憲法改正論議に対して、

本書では、あまりにも条文論議に流されて、本来の憲法論議を忘れている潮流に樟さしたくて、あえて過激な挑発を行いました。

とおっしゃるとおり、一見かなり過激な理論展開をされているように感じるのですが、ワタクシにはいたってまともな憲法論議に読めました。

さすが憲政史の専門家らしく、欧米の憲法やその成立と背景を史実に基づいて説明され、日本との事情の違いを指摘。
また、現行の日本国憲法の誕生のいきさつから「これはおかしい」という点を浮き彫りにされていく過程は疑問点を挟む余地がありませんでした。

そして、現行憲法の一番の問題点を「有事の際の意思決定権が不明」という一点に喝破されたのは見事だと思います。
ただ、その例として菅直人を槍玉に挙げているのはお口が悪いと言いますか・・・(痛快でしたが 笑)。

条文の表現や憲法9条の取り扱いばかりに目がいく憲法改正論ですが、憲法改正の本質とは国の最高法規として国民の利益になるかどうかだと思います。

残念ながら現在の憲法改正論議は著者が言うように的外れなものが多い、というかずれた論議ばかりが目につきます。
そのあたりの問題定義として本書は劇薬となると思います。

◆問題はでたらめな運用
ワタクシは憲法改正賛成者です。
ただ、その理由はマッカーサーに押しつけられたからとか、軍隊を復活させたいからといった理由からではありません。

たとえ占領軍に押しつけられた憲法でも、中身がよければ使い続ければいい。
軍隊に関しては国家には力の抑止力が必要だと思っていますし、もし周辺地域の事情等で本当に必要がなければ軍を持たなくてもいいと思っています。

そういったこまごまとしたことは時代と地域の事情によって変わってきます。

問題はでたらめな憲法の運用です。
時代や地域の事情の変化に憲法を変えずに解釈で対応する今の憲法の運用は異常です。

憲法はその国の最高法規。
そこに表記された内容を絶対に守らなければならない、国の運営の依て立つところです。
それが拡大解釈でどんなふうにでも運用できるというのは、もはや憲法が機能していないということです。

例えば第9条の戦争の放棄と軍隊の不保持。
あの文章からは誰がどう読もうと、自衛隊は違憲です。

憲法で否定している軍事力を持った集団が存在する。

ワタクシは国家には軍隊が存在するのは当然だと思っていますし、現状の東アジア状態から見れば軍はなくてはならないと思っています。

しかし、(自衛隊の皆さんがクーデタを起こすとは思っていませんが)軍隊という実力集団は国家にとって諸刃の剣。
最高法規によって認められていない実力集団が存在するということは異常なのです。

スッキリと、日本国の現状に合うように、誰がどう読んでも拡大解釈の余地がない条文にしてほしいだけです。
この考え、おかしいですかね、護憲派の皆さん。

◆大日本帝国憲法は意外とよくできた憲法だった

さて、本書を読んで個人的に大収穫だったのは大日本帝国憲法、いわゆる明治憲法は、意外とよくできた憲法だったということを知ることができたことです。

学校教育では必ず、

明治憲法=天皇主権で国民に人権が認められず、民主的ではない憲法
日本国憲法=国民主権で民主的な憲法

という定義のもと、二つを対比して教えられますよね。

明治憲法はダメな憲法で、日本国憲法はとっても素晴らしい!って感じで。

しかし、人権という概念そのものがヨーロッパと日本ではその醸成のされ方がまったく違うし、明治憲法でも臣民としての権利が保障されていたというのは目からウロコでした。

「民を安んじる、慈しむ」という概念は長い日本の歴史の中で、為政者が変わっても脈々と受け継がれてきたものだったんですね。

フランス革命やアメリカ独立戦争が人類史上で、一つのターニングポイントとなっていることは否定しません。

が、民主主義の歴史をなんでもかんでも為政者から権利を奪い取る戦いに仕立て上げ、それを素晴らしいことと学校で教え込む学校教育には疑ってかかる必要がありそうです。

なぜなら、そこには多分にマルクス臭さが感じられますから。

◆天皇の存在
それともう1つ明治憲法の優れた点、それは最終意思決定者がはっきりしていたこと。
有事の際に、天皇の御聖断があったわけです。

2・26事件の時も大東亜戦争の終結の判断も御聖断でした。

ところが日本国憲法にはこういった”最後の切り札”的な意思決定機構が存在しない。

だから本書でもけちょんけちょんに書かれていますが、東日本大震災のような戦後最大の危機的状況が発生しても、菅直人はじめ、その後の民主党政権では、「何も決まらない、何もすすまない」という麻痺状態になってしまいました。
(ついでに言うと、”決める内閣”たらんとした野田政権が決めたのはデフレ期にやってはいけない増税でした)

ただ、今後憲法改正論の議論の中で天皇大権の復活はないでしょう。

ではどうするか?
歴史を見渡すと危機対応の制度をしっかり作ってうまくやった国もあります。
例えば古代ローマでは有事の際には独裁官が選出されました。

現代の日本なら、総理大臣にさらに強力な権限(議会を通さずに緊急で法案を成立させるような)を臨時で与えるような仕組みでも構わないと思います。

そういった有事の際のシステムとそれを法的に裏付ける憲法の条文の議論無しに憲法改正をやっても、単なる言葉遊びで終わってしまうと言う点が、筆者が力説している点です。

そして、その”独裁官”に権限を与えるのは誰か?
これはもう日本では天皇陛下以外にない。

このあたりの論議をしっかりと掘り下げてほしいですね。

憲法はあくまでも国民の幸せな暮らしのためのツールでしかありません。
何かの宗教のお題目のように、なにがなんでも改正反対!の人たちは、少し目を見開いて考えてもらいたい。

憲法を解釈次第ででたらめな運用をされている状況をしっかり見つめて。

本書はイースト・プレス社、畑様より献本していただきました。
ありがとうごじあました。

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