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コンセプトワークは未知への冒険【書評】玉樹 真一郎(著)『コンセプトのつくりかた』 ダイヤモンド社

おはようございます、もう子供にパワプロで勝てなくなってしまった一龍(@ichiryuu)です。

今日は、ゲーム業界に革命をもたらしたWiiの企画担当者だった玉樹真一郎さんのデビュー作をご紹介。
なるほど、革命的企画はこういう手法で生み出されるのか!と唸ってしまう一冊です。

【目次】
まえがきのまえがき
まえがき
第1部 ありていく コンセプトとは何か
第2部 のぼっていく コンセプトをつくる具体的なプロセス
第3部 すすんでいく コンセプトをどう活用するか
あとがき

【ポイント&レバレッジメモ】

★「世界を良くする」

 これこそが、あなたが最終的に生み出すべきコンセプトが満たさなければならない最大の条件―――いわば「コンセプトのコンセプト」です。<中略>
実際の製品やサービスを生み出すとき、「世界を良くする」という最も大切な条件を忘れてしまうと、たいていは悲しい結末につながります。世界を良くしていないのですから、ヒットするはずがないのです。その結果、あなた自身もたいしてしあわせになれず、無駄な時間と労力を使ってしまうという罰が下されることになるでしょう。<中略>
勇者としてのあなたの使命は、コンセプトワークの中で最も大切な条件である「世界を良くする」という思いを持ち続けながら、コンセプトを考え抜くことです。

★4人の冒険の仲間たち

世界をよくするために立ち上がった「コンセプトワークするあなた」、コンセプトを伝えると同時に皆の心をあたため励ます「プレゼンテーションするあなた」、実際に良いものを具体化する「プロジェクトを行うあなた」、そして素直な心をそのまま表す「生きるあなた」。
4人が手を取り合って、ものづくりという険しい旅を乗り越えていくことになります。
特に忘れがちなのは、遊び人である「生きるあなた」です。<中略>
コンセプトは、あなたの外側である「世界」をよくする方法であると同時に、あなたの内側である「あなた」が幸せに生きていく方法でなくてはならないのです。

★コンセプトのかたち

プレゼンテーションするあなたにとって必要なことは、最終的に生み出すコンセプトがつぎの3つを満たしていることです。
1.覚えやすい 簡単に覚えられ、いつでもどこでも思い出せること。
2.伝わりやすい 人々の間で流通しやすいこと。
3.変わらない 数多くのコミュニケーションを通しても、形が変わらないこと。
<中略>先の3つの条件を満たすものは1つしかありません。それは、文字による言葉です。<中略>より性格に表現するなら「数字を除く、母国語の文字」とすべきでしょう。
そして最後にもう一つ、<中略>20文字です。長くとも20文字に収めなければ、コンセプトは覚えてもらえず、組織の中で流通しにくくなります。

★「既知の良さ」と「未知の良さ」

「既知の良さ」と未知の良さ」をまとめると、次のようになります。
・既知の良さ
ユーザーも作り手も、その良さ自体や良い理由を直感的に理解できるか、実現するには無限のリソースが必要になる。
・未知の良さ
ユーザーはその良さ自体がうまく表現できず、他メーカーも追随できない。実現するには「リソース以外の何か」が必要になる。

そしてこの、「リソース以外の何か」こそがまさに、コンセプトなのです。

★ビジョン

”素直な願い”をビジョンと呼ぶことにしましょう。
無数のビジョンの群れの向こうにうっすらと見えるものに、目を凝らしましょう。
それが未知の雲を打ち砕く、世界を良くするコンセプトにきっとなるはずです。いわばコンセプトとは、「複数のビジョンが抱える複数の問題を同時に解決してしまう魔法」のようなものだといえます。

★コンセプトは、ビジョンの集合体から生み出される

遊び人の世界では、「問題が多いほど、解決しやすくなる」という不思議な現象が起こるのです。<中略>
遊び人の世界で生じるもう1つの不思議な現象とは、「否定されるビジョンほど価値がある」という価値の逆転現象です。<中略>

脆く、弱く、否定されやすいビジョンを無数の集めることこそが、コンセプトへの最大の近道となる。

★ものづくりの4つの原理

4人の仲間が司る原理は次のようになります。
【1つめの原理】生きるあなた:「すきになる」→ビジョンを生み出し共有するための原動力となる
【2つめの原理】コンセプトワークをするあなた:「かわる」→道の良さ良さを志し、ビジョンとアイテムを探し続ける
【3つめの原理】プレゼンするあなた:「わかる」→ビジョンとアイテムを組み合わせた物語を紡ぎ出し、仲間の心に火をつける
【4つめの原理】プロジェクトを行うあなた:「できる」→コンセプトを守りつつ、数々の試練を乗り越え「良いもの」をアウトプットする

【感想など】

著者の玉樹さんは任天堂で「Wii」の企画担当者として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わり、「Wiiのエバンジェリスト」「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と呼ばれる方だそうです。

今回の【ポイント&レバレッジメモ】では、本書のプロローグ的な章、第1章から「コンセプトとは何か?」ということに関しての記述を中心にピックアップしました。

ドラクエに登場する勇者たちになぞらえて表現しているのが非常に秀逸で、この部分だけでも十分読み応えあり。

普段ワタクシなどは、コンセプトという言葉を非常に曖昧な意味で使っていたなと反省するとともに、コンセプトとは何ぞやというところがハッキリわかりました。

これだけでも大収穫なのですが、これはあくまでプロローグ、つまり冒険の前夜です。

本書のキモの部分はこの後の 第2部 のぼっていく コンセプトをつくる具体的なプロセス です。

なんと約150ページにわたって、まだWiiのなかった時代に「次世代ゲーム機の開発をせよ」という命令を受けたと仮定して、仮想的なコンセプトワークを実際に紙面上で展開しているのです。

これがもうあまりに凄過ぎて、抜き書きなどとてもできません。

ネタバレになるため、あまり触れられないのですが、基本的にはブレストと同じような手法です。

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(チラ見せ)

チームのメンバーが出されたお題にそって意見をドンドン出していき、それを付箋に書き、グループ化し、分析し、・・・・・というふうに進んでいきます。

が、さすがは任天堂ですよ、要所要所で質問を変え、視点を変え、徐々にコンセプトをはっきりさせていく手法は圧巻。

我が家にもWiiはありますし、他の本でWiiのコンセプトは知っている、つまりゴールを知っている状態でコンセプトワークの経過を読んでいるわけですが、それでも本書の仮想コンセプトワークは随所で「ほほう!」「ここは、そうきますか!」の連続。

徐々に徐々にゴールが近づいてくるのがワクワクします。

とにかく読んでいただきたい。
この言葉に尽きます。

さて、最後に。

コンセプトを殺す話が登場します。

産みの苦しみを経て誕生したコンセプトは、実現された瞬間に、「未知の良さ」から急速に「既知の良さ」へと変換・消費される運命にあります。

そこで開発者にとって必要なものは何か?一番大切なものは何か?

スティーブ・ジョブズが例として引用されていますが、それは

過去のコンセプトを超えて行こうとする態度

です。

一つの冒険の旅が終わったら、まったく新しい冒険へ出発する。
その繰り返しがコンセプトワーカーなのですね。

そんな真の勇者が世界を変えるのです。

本書はスタジオビビ、編集者の乙丸様より献本していただきました。
ありがとうございました。

【関連書籍】
本文中で引用・紹介されている本

企業の再発進は定評あるポーター戦略論から初版刊行後10年、経営戦略論の古典として、本書の地位はますます揺るぎないものとなった。今回の増刷を機に、省略していた原注。参考文献を付し、内容の一層の充実をはかった。

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