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歴史と向き合えば答えがある(前編) 【書評】塩野七生(著)『日本人へ リーダー編』(文春新書)

 

日本人へ リーダー篇 (文春新書)

日本人へ リーダー篇 (文春新書)

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/05/19
  • メディア: 新書
 

 

『ローマ人の物語』シリーズなど、数多くの歴史小説で知られる塩野七生氏。
精緻な歴史研究から得た知識と、一年の大半をイタリアに住み、“日本人でありつつヨーロッパから見る日本という視点”を持つ希有な人物である。

この“歴史的教養とグローバルな視点”から書かれた本書シリーズは、我々の国がどうあるべきかという貴重な指標となるだろう。

今回は2回に分けて、まず1冊目の『リーダー篇』を紹介する。

 

【目次】


イラク戦争を見ながら
アメリカではなくローマだったら
クールであることの勧め   他


想像力について
政治オンチの大国という困った存在
プロとアマのちがいについて   他


歴史認識の共有、について
問題の単純化という才能
拝啓小泉純一郎様    他

【ポイント&レバレッジメモ】

「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと思う現実しか見ていない。」
ユリウス・カエサル

なぜか、危機の時代は、指導者が頻繁に変わる。首をすげ代えれば、危機も打開できるかと、人々は夢見るのであろうか。だがこれは、夢であって現実ではない。

私の真意は、日本人に、日本国憲法を「法律」と考えるか、それとも「律法」的に考えるか、の決断を願うことにある。なぜなら、憲法が許さないという理由を盾にした現情でつづけていくと、国際社会では納得してもらえなくなるからだ。
※ 律法…掟。仏教の戒律。ユダヤ教の神から人間に与えられた、旧約聖書にある掟。
  法律…規則。条例。国会の議決を経て制定された法。ゆえに、実際上は政策。

「常に勝ちつづける秘訣とは、中ぐらいの勝者でいつづけることにある」マキアヴェリ

日本に帰国中に読んだ新聞の記事に、自衛隊員は政治の駒か、と題したものがあった。私だったらこれに、次のように答える。そう、軍隊は国際政治の駒なのです、そして、駒になりきることこそが、軍隊の健全さを保つうえでの正道なのです、と。それゆえに、軍務に就いている人の誇りを尊重する想いと、その軍務は国際政治の駒であるとする考えとは、少しの矛盾もないと思っている。

そして自己反省は、絶対に一人で成されねばならない。決断を下すのも孤独だが、反省もまた孤独な行為なのである。自分と向き合うのだから、一人でしかやれない。もしかしたら、プロとアマを分ける条件の一つである「絶対感覚」とは、それを磨くことと反省を怠らないことの二つを常に行っていないかぎり、習得も維持もできないのかもしれない。

アマチュアがその道のプロさえも越えるのは、プロならば考えもしなかったことをやるときなのだ。それには、徹底した現情直視と、それまでの方式、つまり常識、にとらわれない自由な発想しかないのである。

国の政治は、権力や財力をもつ人々が彼らの利益のみを考えてやるもので、われわれ庶民には関係ない、と思っている人が多いのが、投票率の低さの要因かもしれない。しかし、それは思いちがいだ。国の政治くらいわれわれ庶民の生活に直結していることはない、とさえも言える。

「武器をもたない予言者は、いかに正しいことを言おうが聞き容れてもらえないのが宿命だ」マキアヴェリ

政界でも経済界でも官界でも、指導的な立場にいる日本人の口から、一度でよいから聴いてみたい。「これこれこいう理由によって、今のところは動かないほうがよいと考えるし、ゆえに成果もあげることはできない」とでもいう、腹の坐わった「説明責任」を聴いてみたいのだ。

現中国政府の対日戦略は次の一事につきるのではないかと思っている。つまり、日本を押さえつけておくこと、の一事だ。そしてこれが戦略ならば、戦術には二種類ある。
第一は懐柔作戦。支配される側の存在理由を認めてやりながら、支配権を行使していくやり方。
第二はこの反対で、強圧作戦。言い換えれば、圧力をかけることで支配しようとする考え方で、どの分野でもナンバーワンでないと気がすまない国家の得意とするやり方である。

政治家にとっての「野心」は、やるべきと信じたことをやること、につきます。
一方、「虚栄心」とは政治家の場合、よく思われたいこと、ではないかと思います。
ただし、「野心」と「虚栄心」は政治家ならば両方とも持っているはずで、ゆえに問題は、どちらが大きいか小さいかであり、理想的な形は、つまらないことで虚栄心を満足させ、重要なことでは野心で勝負する、ではないかと。

つくづく思うのだが、情報の伝達ということに限れば、新聞・雑誌・書籍の活字媒体は、テレビにもインターネットにも絶対にかなわない。それで、これら活字媒体が読まれなくなり売れなくなった要因をテレビやネットの普及に帰すのだろうが、私が思うにそれは、負け犬の遠吠えにすぎない。もはや情報の伝達速度で勝負する時代ではなくなったのだから、勝負の武器を他に求める必要は不可欠であり、それもしないで嘆いているのは、知的怠慢以外の何ものでもないと思うからである。

平民の権利を守るために置かれ、グラックス兄弟も就いていた、「護民官」という役職を、現代の日本に復活してはどうだろうかということだ。ただし、現代の「護民官」が守る対象はフリーター非正規の労働者として分類されているこの人々の社会的経済的権利を確立し、同時に義務も明確にすることである。義務も加えたのは、義務も課されない所に自尊心が確立できるわけがないからである。

【感想など】
今回は【ポイント&レバレッジメモ】だけで、感想は次の記事でまとめて書かせていただきます。

とりあえず概要だけ記しておきます。

本書は月刊「文芸春秋」2003年6月号~2006年9月号に連載された記事を新書化したものです。
ちょうど小泉政権(2002年9月30日~2006年9月26日)の終了までの時期に書かれたもの。

ネタ的には古い感じがありますが、そもそも歴史とは温故知新。
塩野氏のローマやベネチアを例に引いた文章からは、むしろ新鮮ささへ感じられます。

この1冊だけでもかなりお腹いっぱいになりますが、ぜひシリーズ2冊をセットでお読みいただきたく、感想も次回にまとめて書かせていただきます。

 

日本人へ リーダー篇 (文春新書)

日本人へ リーダー篇 (文春新書)

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/05/19
  • メディア: 新書
 

 

 

日本人へ 国家と歴史篇 (文春新書)

日本人へ 国家と歴史篇 (文春新書)

  • 作者:塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/06/17
  • メディア: 新書
 

 

 

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