おはようございます、一龍です。
昨今、安保法制を含めて世界の中での日本の存在や国際貢献のあり方などが議論されることが多くなっています。
そんな中、日本の先人の国際貢献のエピソードをたくさん紹介している『外国語には訳せない うつくしい日本の言葉』 を読む機会がありました。
有名な杉浦千畝さんをはじめ、数々のエピソードが登場するのですが、私が最も興味深く読んだのは、第1章の 日本語にしかない「お」の概念 でした。
今回はこの章から日本語から読み解く日本の本質について書かれた部分をシェアしたいと思います。
『外国語には訳せない うつくしい日本の言葉』より、日本語にしかない「お」の概念のポイント
★「お」がつくと意味が深まる日本語の魅力
まずは著者の地ゅう杢している6つの日本語についての部分です。
私の好きな言葉。日常よく使われ、使うことによって親近感が増したり相手の理解が深まったり、品格までも伝えてしまう不思議な言葉たち。それはいろいろあるが、特に私が好きなのは、この6つである。
<おもてなし>
<おかげさま>
<おてんとさま>
<おめでとう>
<おつかれさま>
<おたがいさま>
偶然かもしれないが、皆、頭に「お」がつく。この「お」を「接頭語」と呼ぶ。私は文法の専門家ではないが、こんな概念は、日本語にしかない。
「お」がつくと言葉に表情が出てくる。ニュアンスが膨らんでくる。このあたりが日本語の本当にすばらしいところだ。
「お」がつくことで多くの日本語は丁寧で品格がよく聞こえることが多々ありますよね。
そんな単語の中でも上記の6つは、ちょっと特別だというのです。
日頃コミュニケーションを円滑にするのに役立つ言葉ですが、外国人から見ると独特なのだそうです。
この中から4つほど紹介しましょう。
★おかげさまは論理的でない?
まずは<おかげさま>ですが、これはかなり日本語特有の表現のようです。
日本語を習い始めた外国人だったら、こう思うだろう。「ナンデ『オカゲサマ』ナノ?」誰ノオカゲナノ?」。
「ダッテ『オカゲサマ』ッテ、誰カニ世話ニナリマシタ、トイウ意味デショウ?」
なるほど、そう思うわけですね。
たしかに論理的に考えると意味としては「誰かに世話になりました」という表現です。
この言葉を著者は「情」という言葉で説明しようとしますが、これも理解できないでしょね。
私たちは、誰と特定できないけれど誰か、もっというと人だけでなく神様も含めて、いろいろな力のおかげで生きているというのを、無意識のうちに理解しているのかもしれませんね。
★おめでとうとコングラチュレーションは違う
次は<おめでとう>ですが、これはどこの国にもある表現だと思います。
現に
「オメデトウ?英語ニダッテ、アルジャナイ?」
この話をすると、ほとんどの外国人がこう反論する。
そうですが、これも私たちは気が付かないだけで、諸外国と比べて<おめでとう>を使う場面がたくさんあるそうなのです。
ところが日本語の場合<おめでとう>をいう時の場所、時間、しきたり、年齢、そういう条件が、なんとまあ、たくさんあることか!日本人は、いろいろな人生の場面、場面に心を込めることを知っているのだ。
おそらく、われわれの祖先は長い間、良くも悪くも毎日毎日代わり映えしない生活を、小さな村社会で過ごしてきた結果、生活の中のほんの小さなことでも喜びを見つけるようになったのでしょう。
その結果、
つまり生活の中で、小さなことにも喜びを見出し、それを<おめでとう>と、いろいろに表現する。しきたりになってしまえば、この言葉は、いつまでも死なない。というより、いろいろな言葉、しきたりができていることが、日本のすごいところではなかろうか。
★<おたがいさま>
<おたがいさま>という言葉は、最も外国人にも理解できる言葉かもしれません。
というのは
「いえいえ、ご心配なく。おたがいさまですよ」
これは意外とキリスト教に通じるもので、面白い。ということは外国人が一番修得しやすい「お」のつく言葉ではないかと思われる。英語には「 We all are on the same boat (私たちは皆、同じボートに乗っている)」という言葉があるが、まさにそういう感じだ。
ここではキリスト教の名が挙がっていますが、相互扶助の精神はなにもキリスト教だけではありません。
イスラム教だって仏教だってそう。
ただ、特筆すべきは次の1点。
キリスト教で言えば「私はあなたのためにあり、自分のできることは小さなボランティアでもしたい」そんなきもちの根本となる言葉である。ただ一神教のキリスト教とは違って、日本では、お寺で教わったからとか神主さんに言われたとかではなく、生活の中で生まれていったのではないだろうか?
われわれ日本人は宗教的な教義とは関係ないところで<おたがいさま>の精神を持っているということろでしょう。
★”日出る国”の言葉
6つの言葉の中でも一番日本らしい言葉が<おてんとさま>という言葉。
もう時代劇ぐらいでしか聞かない死後になりつつある言葉ではありますが、それでも
「おてんとさまが見てるよ」
「おてんとさまが知ってるから」
こんな言葉が出てくる国は、とても幸せな国だ。
<おてんとさま>は太陽を敬い親しんで使う言葉だ。天地を司りすべてを見通す、超自然の存在・太陽のことである。これは太陽とともに生活してきた国ならではの言い回しであって、「お」がつくと敬いとともに親しみがわく。
という著者の考えには大いに賛同したい。
我々は気が付かないのですが
実は<おてんとさま>太陽に毎朝手を合わせる国なんて、そうそうないのである。
たしかにそうでしょう。
キリストもブッダもマホメットも太陽については何も言っていません。
しかも気候的に、中央ヨーロッパから北は太陽があまりに弱々しい。
逆にイスラム教徒が多い地域やブッダが生きた古代インドなどは暑すぎて、とても太陽を拝む気にはならないでしょう。
だから「おてんとさまが見てるよ」という言葉は、北欧の人に言ってもピンとこない。
アフリカの人に言ってもわからないだろう。太陽は恵みを与えてくれるよりも、ともかく暑さを運んでくるだけの疎ましい存在であって、親近感という感じではない。
日本の機構によるところが多いとは思いますが、日本神道の主神、天照大御神=おてんとさまという太陽信仰がベースにあることも忘れてはいけません。
★使い方が難しい「お」のつく言葉
さて、本書で紹介している「お」のつく6つの言葉のうち、4つを紹介しましたが、著者はこの6つの子と場は難しい言葉だといいます。
しかしそれだけに
日本語は難しいといわれるが、いちばん難しいのは、この6つの「お」がつく言葉かもしれない。だから反対に考えれば、この6つの「お」がつく言葉をうまく使いなせるようになれば、日本の心がわかるかもしれない。
確かに言われてみるとそうかもしれません。
この6つの「お」のつく言葉が挨拶で出てくるかこないかによって、コミュニケーションのスムーズさが違う。
この言葉たちが行き交うと、人間関係のバランスが自然にとれる。ストレスのないコミュニケーションが図れる。この言葉たちは、人間関係をうまくする、日本人同士のキーワードなのかもしれない。
で、著者のこの主張を読んでふと思ったのです。
昨今若者の言葉の乱れがよく言われますし、コミュニケーションを苦手にする若者の増加もよく話題になります。
この二つって結びついているんじゃないかと。
そういえばこの6つの言葉を上手に使う若者ってめったに見ないですもんね。
★なぜ「お」が選ばれたのか?
さて最後に渡しが一番興味をもった部分を紹介します。
それは古神道の一霊四魂という思想。
一霊四魂とは、心は天とつながる一霊「直霊(なおひ)」と四つの魂:「幸魂(さちみたま)」・「和魂(にぎみたま)」・「荒魂(あらみたま)」・「奇魂(くしみたま)」から成り立つという日本古来の考え方で、幸魂は幸福、和魂は調和、荒魂は活動、奇魂は知恵を担うとされている。
で、興味深いのは
そして、この一霊四魂が日本語の母音であるアイウエオの五音と一対一で対応しているというのが、日本古来の言霊学の思想であるという。
その対応は以下のとおり
・「直霊」・・・ウ
・四つの魂
「幸魂」・・・ア
「和魂」・・・オ
「荒魂」・・・エ
「奇魂」・・・イ
さらに、著者の友人の合気道をされている方が言うには
この中で一番重要なのが、調和を担う和魂。これに対応する母音が「オ」。
つまり、オは五つの母音の中でも、いちばん重要かつ象徴的だと彼はいうのだ。
なぜなら
オに対する和魂の和は『和を以って貴しと為す』の和だから
なのだそうです。
「これは偶然ではないですね。日本には昔から『和を以って貴しと為す』という大和・調和の思想があるのは、知ってますよね。和を大切にするのが、日本人の最大の特徴ともいえます。だから日本人の特徴を表す言葉には、和魂の『オ』の音がつくのでしょうね。言霊的に考えても納得がいきます」
言霊的には母音にはそれぞれ意味があって、「お」には”和”の意味合いがあるのだということです。
なるほど、だから「お」がつくと、なんだか丁寧で品格がよく聞こえるのでしょう。
なぜなら人と人を結びつけ、調和させる作用が「お」という音にあるからなんですね。
『外国語には訳せない うつくしい日本の言葉』まとめと感想
本書は本来、第2章以後で、6つの言葉、
<おもてなし><おかげさま><おてんとさま><おめでとう><おつかれさま><おたがいさま>
をキーワードとして、かつて日本人が行った世界で尊敬されるエピソードをふんだんに紹介しいるのがメインの内容です。
トルコのエルトゥールル号の海難事故とか、ウズベキスタンのタシケントの劇場建築とか、日本人が世界に誇るべきエピソードでありながら、日本人自身が知らないことが豊富に掲載されています。
それらのエピソードはどれも素晴らしく、誇らしいのですが、こういった日本人の特性というか、精神のベースにあるものを「6つの言葉」を使って浮き彫りにしていた点が非常に興味深く、今回は第1章に注目しました。
この6つの言葉、どれも日本人のアイデンティティを端的に表していますよね。
著者が
こういう「6つの言葉」の背景には、「世の中は自分一人で生きているのではない。皆に助けられているのだ。皆どころか、太陽にも、神様にも、自然にも、隣人にも助けられて生きているんだ」という感じがすごくある。日本人ならではの人生観、と言えるものだと思う。
と言っていますが、まさにそのとおり。
気候は穏やかですが、狭い島国で貧しさの中で協力して生きてきた歴史があればこそ、これらの言葉を自然に使ってきたのでしょう。
先述しましたが、これらの言葉が近年あまり聞かれなくなっていると思います。
豊かになり、個人と社会の関係性が変わってきたからでしょうか。
どんなに時代や社会が変わっても、無くしたくないですね。
本書はあさ出版社、吉田様から献本していただきました。
ありがとうございました。
『外国語には訳せない うつくしい日本の言葉』目次
はじめに
第1章 日本語にしかない「お」の概念
第2章 おもてなし 日本人は世界一「相手を楽しませる」ことが好きな民族
第3章 おかげさま チームプレーを得意とする、世界が認めた「和」の精神
第4章 おてんとさま 「見られていなくてもきちんとする」意識
第5章 おめでとう 外国にはないお奥の深い概念、生活に生きる独特のしきたり
第6章 おつかれさま 奴隷を持たなかった国だからこその、ともに働く一体感
第7章 おたがいさま 日本人が国際人として振る舞うための、必要な心
あとがき