おはようございます、一龍です。
先日、夏からずっと世論を賑わせていた安保法案に一応の区切りがつきました。
日本の安全保障の大きな転換点となるわけで、法案自体か非常に重要なものであったことは間違いありませんでしたが、それだけにこの法案を巡る議論の過程で、法案に関連してそれを取り巻くマスコミの様々な矛盾や問題点が浮き彫りとなったのも興味深いものでした。
今回は『日本の自立 戦後70年、「日米安保体制」に未来はあるのか?』 から、日本ではマスコミがなぜか伝えない安倍総理の米議会での演説や、その影響などを中心にピックアップしてみました。
なお、本書は8月初旬に出版されたもので、西村・ケント両氏の対談は衆議院での審議中のものです。
安倍総理の米議会演説に関して、マスコミがおかしいポイント
※本書では中華人民共和国について、西村幸祐氏は「シナ」、ケント・ギルバート氏はPRC(People’s Republic of China)と表現しており、当ブログでも抜粋の部分では原書のままの表記をしている。
★安倍総理の米国両議会演説の影響をマスコミは伝えない
西村:安倍総理が訪米して4月30日(日本時間)に上下両院合同会議で演説をしました。両議会というのは史上初。僕は賞賛してあまりある成果だと考えています。G7エルマウ・サミットは明らかにその延長線上にありました。
ケント: 安倍総理の両議会演説は非常に評価できます。日本が国際的発言権を手に入れたということを意味しています。演説の趣旨は、いわゆる属国などではなく対等な立場で、日本がアメリカに協力して世界をよくしていこうという決意だったと思いますが、その協力態勢をはっきりさせるという意思がヨーロッパにもしっかり伝わったんでしょう。今回のサミットはそういう流れでした。
西村:<中略>あの演説の直後にジェニファー・リンドという米ダートマス大学の准教授が米ウォール・ストリート・ジャーナルに記事を書いているんです。女性の政治学者でアジアを専門にしている人なんですが、彼女はアメリカのメディアでたびたび安倍批判のコラムを書いていて反日的な意見が多かった。それが今回の演説を受けて日米和解のマイルストーンになると激賞に近い賛辞を送っています。一里塚になる、これで和解が導かれるだろうと言っているんですね。つまり日本についてのアメリカの言論が変わりつつある。安倍総理訪米前後の米メディアを調べていて気がついたんですが、慰安婦の問題について触れるとき、いままでなら必ず性奴隷、セックス・スレイブという言葉がセットだったのが、あの頃からなくなっています。
4月に行われた米議会での安倍総理の演説について、日本のマスコミは演説をしたという事実については報道しましたが、その評価については
西村:産経新聞以外は評価していません。一般的にはそういう印象になると思います。評価せずに避けたという言い方が正しいでしょう。
後に「秋までに安保体制を整える」と約束した部分だけはよく取り上げられましたが、あの演説の評価、アメリカでの日本に対するその後の変化、そしてサミットに及ぼした影響についてはまったく伝わってきませんでした。
故意に評価せずに避けているとしか思えません。
★”硫黄島の二人”にはまったく触れず
西村:<中略>一番ひどかったのはローレンス・スノーデン海兵隊中将と硫黄島守備隊司令官・栗林忠道中将のお孫さんで自民党衆議院議員の新藤義孝さんの二人が握手をしたときのシーンに触れたメディア、とくにテレビメディアを見なかったことですね。スノーデン海兵隊中将は23歳のときに海兵隊大尉として硫黄島に上陸した人。硫黄島はよく知られているように大東亜戦争末期に激戦の地となった島です。アメリカにとっても記念碑的な戦いで、アーリントン墓地に記念碑が建っているし、近年はクリント・イーストウッドが映画にもした。僕は今回の演説のなかでももっとも核になる部分、白眉の部分だと思いましたね。
西村:<中略>一番驚くべきなのは生中継したNHKの解説委員が硫黄島の二人のことに触れなかったことですね。演説の内容は評価しない。集団的自衛権に反対する意見しか言わなかった。
生中継を観ていなかった私はこういった演出があったことすら知りませんでした。
NHKですら触れないとういのはどういうことでしょうか。
首相官邸HPで「米国連邦議会上下両院合同会議おける安倍内閣総理大臣演説」を見ることができます。
上記の部分は約12分50秒頃です。
なぜ日本のマスコミはこれを伝えないのでしょうか?
何か意図があってのことでしょうか?
★安保体制を整える約束をしたのはおかしい
ケント:あの日は僕も夜中まで起きて見ていました。一つだけ疑問に思ったのは、日本の国会でもはっきり言っていないのに、秋までに安保体制を整える約束を米議会でするというのはどういうことなのかという点ですね。根回しもしていないようだし、約束できるのかな、あんまり日本らしくないなと思いました。つまり安倍総理はこれから苦労するだろうなというのが僕の直感だった。ここだけを日本のマスコミは集中して批判するだろうし、野党も当然そうするだろう。でも、それもやむをえない。安倍総理は覚悟の上だったのでしょう。そこだけはやはりちょっと疑問で、それ以外はすべて評価します。
西村:政治技術的な面から言えばケントさんの言ったことは非常に正しくて、あれは別の言い方をしたほうがよかったかもしれません。「秋までには国会で議論を尽くします。そして完全な安保体制ができあがるはずです」くらいにしておけばよかったかもしれない。
ケント:約束してしまいましたからね。日本の皆さんがまだ納得していないことを、どうして約束できるんだってことは批判されてもしかたがない。でも、あれは計算して言ったようにも思います。
二人が言うように、この米議会での約束は、その後散々叩かれることになりました。
不退転の決意を示したかったのか、それとも数の論理で確実に可決できるという考えからだったのか。
あるいは盛大なリップサービスだったのか。
いずれにしても、参議院での可決のときに感じた「手続きのおかしさ」はここに原点があるように思います。
この点に関しては勇み足だったなと私も思います。
★これは日米の「歴史的和解」
ケント:天皇誕生日の件(安倍総理が演説したのは日本時間では4月29日。これは昭和天皇の誕生日)はうまい具合に重なったくらいにしか僕には思えませんが、とにかく安倍総理の演説の影響はきわめて大きいですよ。まず米上院議員と下院議員のほとんどが演説を高く評価しています。世界が重視するポイントはそこです。そこを見てヨーロッパの人たちは、日米関係は良好である、安心できると判断する。アメリカとともに日本もこれからはアジア極東の安定に大きな役割をはたすんだという意思表示を、いまのヨーロッパは非常に好意的に見ていると思います。逆に韓国とPRCはがっくりでしょう。韓国はもうまるでダメですね。米国内の韓国系反日団体が慰安婦の資料を配ろうとしたら、米議員に受け取りを拒否されましたよね。
この受取拒否は共和党議員ばかりでなく、親派である民主党議員も受取拒否したというから、安倍総理の演説の影響の大きさが伺えます。
また、その後に開かれたG7エルマウ・サミットでは中国をめぐる問題もAIIBについての議論も安倍総理が口火を切ることになったのを見ると、ヨーロッパ各国への影響も計り知れません。
そういった成果や影響を日本のマスコミが評価し伝えるのを、やはり見たことがありません。
★日本がオバマを引っ張ってきた
西村:(いままた、アメリカとフィリピンが協力態勢を強いていることについて)最近やっとですね。2014年の4月にオバマ大統領がフィリピンに行ってきましたが、その際に新軍事協定が交わされています。米軍の派遣拡大ですね。それに関連するんですが、とにかく僕は今回の安倍総理の演説というのは賞賛してし過ぎることはないと思っています。と言いますのはね、第一次オバマ政権のときに当時国務長官だったヒラリー・クリントンがピボット・トゥ・エイジアということを言っていました。アジアに軸足を移すという意味です。いままで国益は中東都ヨーロッパにあるとしていたのを、アジアにそれがあると考え方を変えるということですね。2011年にヒラリー・クリントンが米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」に寄せた論文に初出するんですが、当時はまったくかけ声だけで、実際にまるでピボットしていませんでした。それがやっと最近になってそうなってきたのは安倍総理が誕生してからのこの2年半ほどのあいだのことです。アメリカはやっと気がついた。日本がオバマを引っ張ってきた。そんな感じがしないなもありません。
アメリカがいつまでも世界の警察でならなてはいけないのか? という思いがアメリカ政府にあるのはわかります。
実際に米軍再編として、西太平洋ではフィリピンから撤退しましたが、その途端中国が南シナ海に出てきました。
それでもオバマ大統領は積極的に動こうとはしませんでしたが、そのオバマ大統領の目を極東アジアに向けさせたという功績は大きいと思います。
安保法制では集団的自衛権をとりあげて、「アメリカの戦争に巻き込まれる」ということが反対派からいわれていましたが、私はそうではなくてどちらかと言うと、とにかく引き気味のオバマ大統領に対して「巻き込まれてあげるからもっとしっかり極東アジアに目を向けてよ!」というのが正しいニュアンスでないかと思います。
★中国のシナリオ
西村:シナの戦略としてはこういう筋書きだと思います。まずは村山談話を継承させる。安倍総理は一貫して継承すると言っています。本心は多分そうじゃないと思いますけどね。そして再び8月に謝罪をさせる。大きな節目は9月に予定されている記念大会と軍事パレードです。中国共産党と人民解放軍は今年、2015年を「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」としています。そこで国内外に対して大々的に自分たちの正当性を訴えるわけですね。
西村:中国共産党は9月の式典で大々的に広報をして、今後の自分たちの外交を正当化していく戦略であることは間違いありません。その後、おそらく南シナ海にADIZ(防空識別圏)を設定します。防空監視をして、場合によっては軍事行動を起こすぞ、という表明です。
これは7月以前の対談での予測ですが、大筋予想通りに推移していますね。
習近平氏とオバマ大統領の会談でどんな取り交わしがおこなわれるかによりますが(歩み寄ることはないと思いますが)、中国としては南シナ海での実効支配を強めていくことは間違いないでしょう。
★中国の国防動員法
最後に本書を読んで初めて知った、中国の「国防動員法」について。
西村:国防動員法というのは、つい最近、2010年にシナが施行した法律です。中国共産党が有事だと認定しさえすれば、海外にいる人民を含め、シナの国民は年齢の規定はありますが、すべて国防の義務を負うことになる。その瞬間から工作員として活動を開始しなければなりません。違反者には厳しい罰則規定もあります。さらに注目すべきなのは、国防動員法には大陸に進出している外資系企業は全て軍と政府の管轄下に置かれる規定があるということです。これは中国共産党が有事認定するだけで大陸進出企業はすべてを失うということを意味します。
これも日本のマスコミはまったく伝えていません。
これかなり重要な法律だと思うのですが、なぜ伝わらないのでしょう。
感想など
こういった本を紹介する場合、私自身の立ち位置を表明しておくべきだと思います。
私は今回の安保法制については反対していました。
ただし、それは立憲主義の立場からです。
安保法制でやろうとしていることについては必要だと思っているし賛成です。
しかしこれを実行するのであれば、解釈改憲ではなく憲法改正をするべきだと。
そもそも現行憲法は前文と第9条が矛盾していると感じてしかたがない。
ということで、私自身は憲法改正賛成派です。
現在の情勢にあった憲法に改正して、スッキリしたかたちで運用していただきたいと思っています。
さて、安全保障云々は置いておいて、今回取り上げたのはマスコミは何を伝え、何を伝えなかったのかという点です。
以前、安倍総理がマスコミに圧力をかけたとかかけなかったとか話題になりました。
なにかそれを引きずっているのかと勘ぐってしまいます。
マスコミというのはジャーナリズムに基づいて、反体制というスタンスは常に持ってなくてはいけないとは思います。
政府の意にそう報道ばかりしていては民主主義は保たれません。
ですが、一夏通しておこなわれた安全保障法案に関する報道では、どうも偏り過ぎなのではないかという感じがしてなりませんでした。
報道するなら賛成派も反対派も両方の意見を流して、国民の判断材料を提供してもらいたいのに、反対派の意見ばかりが目につきました。
本書では「なぜ」という部分までは踏み込んでいませんが、安倍総理の米議会での歴史的な演説がもたらした意義をマスコミは伝えていないということをとりあげましたが、安保法案が通った今、それに対する各国の評価はやはりあまり伝わってきません。
安倍総理に対する何か私怨のようなものを感じてしまうのは私だけでしょうか。
本書はイースト・プレス社様から献本していただきました。
ありがとうございました。
目次
はじめに 日本の自立を妨げる人々と戦うために 西村幸祐
第1章 ポスト「戦後70年」の日米同盟
第2章 なぜ日米関係は「ねじれる」のか
第3章 覇権主義化する中国、追従する韓国
第4章 クールジャパンと変わりゆく日米文化構造
おわりに 騙されるな!日本は絶対に自立できる! ケント・ギルバート
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