おはようございます、一龍です。
今日はショッキングなノンフィクション本、『下流中年 一億総貧困化の行方 』 を紹介します。
まさしく中年であり、将来独立を考えている僕にとってこの本はとてもリアルで他人事ではない問題。
今回のエントリーでは、本書から気になったポイントを読書メモとしてシェアしたいと思います。
『下流中年』の気になったポイントを読書メモとしてシェア
★生活保護を全員受ければ20兆円かかる
たとえば日本では、本来だったら生活保護を受けられるはずなのに、世間の目を気にして申請しなかったり、役所による「水際作戦」で追い返されるなどした結果、受給できていない人が非常に多い。他の欧州先進国では生活保護の捕捉率は軒並み8割から9割なのに、日本ではわずか2割程度です。
かといって、残りの8割が全員受給したら、生活保護の財政はパンクします。2割しか受けていない今でさえ国庫で3兆円くらい使っているのに、全員受けようとすれば20兆円くらいかかる。
★子供の貧困の連鎖は進学支援で断ち切れる
いま日本では、高等教育への進学率が約8割(大学が50%、専門学校が30%)ですが、貧困層になるとガクッと下がって3割程しか大学、専門学校に進んでいない。しかし、貧困層の進学率を全体の進学率並みになるまで、彼らの進学を支援すれば、それが社会全体の生産性を高めることになり、2.9兆円の経済効果があるというんです。
さらにそのぶん社会保障の支出が減るので、国の財政負担が1.1兆円分軽くなる。合計で4兆円くらい、経済にプラスになるというわけです。
★正規と非正規の分断が起きている
日本特有の社会的分断に、「正規/非正規」という、働く人の中での分断があります。
ヨーロッパなどでは「同一労働同一賃金」ということで、同じ仕事をしていれば同じ賃金をもらえる、という方針が確立されています。同じ仕事をしていれば、身分的に変わらず、賃金的にも単価は変わらないことが基本になっています。
正規か非正規かという身分上の分断がなく、ただ単に何時間働くか、何年契約にするか、という違いだけになります。
日本では、給与的な分断もさることながら、身分的な分断もそれにより起こっています。1時間あたりの賃金だけでなく、社会保険や昇給のチャンスが身分により決まるということが「正規/非正規」の関係にはあります。それが大きな分断を生んでいます。
★労働環境からの転落要因
社会的に孤立している人の中には、ふつうに何の問題もなく大学を卒業し、たまたま非正規労働者になったという人もいます。しかし、圧倒的に、孤立した人々の過去に多いのは、不登校やいじめ(これは職場でのいじめも入ります)、うつや引きこもりの経験があるという人たちです。
とくに厳しい状況の人は、子供の頃から社会的排除を受け続けています。単純に労働市場からの排除だけではなく、それ以前からの社会的排除によって現在があるという人も多いわけです。つまり、正規の雇用につけず、非正規雇用になるしかったというだけではなく、過去の社会的排除の経験を、挽回できる場がなくここまできたという状態です。過労死ギリギリまでの長時間労働による「うつ」、人間関係の厳しさ、職場でのいじめ。これらの問題の根深さが大いに影響しています。
★相対的貧困率への理解が足りていない
現在、この国では、「相対的貧困率」への理解が足りていないと思います。
ある国や地域において、通常あたりまえとされている生活さえもできない状況を「相対的貧困」といいます。日本では16.1%の世帯がこの相対的貧困の状況にあります。これに対して「絶対的貧困率」とは、食べるものがない、家もないといった状況を言います。
たしかに日本では、アフリカの最貧国にあるような絶対的貧困に苦しんでいる人は少ない。しかし、貧しいけれども食っているではないか、という意見の人がまだまだ日本に多く見られます。
ホームレスの人と話していると、廃棄されたコンビニ弁当を食べるときには、人間としてのプライドを捨てなければいけなかったと聞きました。自分のプライドや自己肯定感を捨てざるをえないーーーそれが相対的貧困の本質です。
★非正規労働者780万人
総務省の労働力調査をベースに厚労省が作成した資料「非正規雇用の現状と課題」によると、バブル期に約2割だった非正規雇用労働者の割合は、バブル崩壊と1996年の派遣法改正を期に急増していることがわかる。
中でも、35歳〜54歳は働き盛りであるにもかかわらず非正規労働者が年々増加を続け、2015年には780万人に上っている。
一方で、非正規労働者は78.2%が月収20万円未満。10万円未満も36.7%に上るなど、とても日々生活していけるような水準ではない。社会保険制度の適用割合も、雇用保険67.7%、健康保険54.7%、厚生年金52%、賞与支給31%、退職金9.6%などと深刻だ。
感想
◆自己責任論だけではどうしようもない
僕は人生に対するスタンスとして、「自分に起きる事はすべて自己責任、今の自分は過去の自分の選択の結果」というふうに考えることにしています。
しかし、この「下流中年」に関しては、自分ではどうしようもない、環境や構造上の問題も多分にあると思っています。
というのも、僕自身が就職の時期がちょうどバブルの頃で、大学の同級生たちは一部上場の誰もが名前を知っている起業にみんな入った世代でした。
しかし、僕の就職時期がバブルの絶頂期で、その後の後輩たちはどんどん就職状況が悪化。
わずか数年で就職状況がこれほど変わるものかという現実をまざまざと見せつけられた経験があります。
この違いって、生まれた年が数年早かったかどうかだけの違いで、本人の優秀さは関係ありません。
確かに自己責任という言葉は、どんな状況でもついてまわるものでしょう。
また、ホリエモンとかいに言わせれば、「起業すればいいじゃん」なんて言うんだと思います。
しかし、バブルがはじけたのも、その後の政府と日銀の失策で20年もの長い間経済成長できなかったのも、「下流中年」の世代の責任ではありません。
◆自己責任ではどうしようもないことこそ政府が解決する施策を出すべき
安倍首相になって、すこし経済に明るい兆しが見えるようになりました。
人口減少から人手不足が予測され、女性の社会進出を狙った「一億層活躍」なんて言葉も登場しています。
しかし、労働力として有望な「下流中年」の世代には何の施策もなされていない印象を受けます。
同一労働同一賃金とか、正規と非正規の壁を取っ払う試みも重要かもしれませんが、これは下手をすると日本式の労働環境のいい部分を破壊する恐れもあります。
労働市場はもっと流動的になったほうがいいと思いますが、あまり行き過ぎると”安定”はありません。
下手をすると1億総契約社員社会となり、また新たなセイフティネットが必要となるでしょう。
それに中途採用を増やす試みは大切ですが、それが新卒採用の減少に繋がるようになると、新たな貧困を生み出す原因ともなります。
税、年金、生活保護など広範囲で抜本的な改革を政府には期待したいです。
ベーシック・インカムも本気で議論してみてはいかがでしょうか。
◆子供への貧困の連鎖だけは絶対に断ってほしい
難しい問題で、僕などには結論は導き出せないのですが、これだけは達成してほしいことがあります。
それは子どもへの貧困の連鎖を断ち切って欲しいということです。
政治家の方々には目に届かないでしょうし、そもそも教育問題に力を入れても票につながらないからなんの旨味もない仕事にしか映らないでしょうが、能力があるのにお金がなくて進学を諦める子どもたちが大勢いることを知って欲しいです。
努力や能力や才能が正当に評価される社会を作るのが政治家の勤めだと思うんですけどね。
最後に蛇足ながら「下流中年」世代の方々に一つ提案。
ブラック企業でひどい目にあったり、人間関係が苦手で会社になじめないというのなら、田舎で農業やってみたらどうですか?
楽じゃないし、そんなに儲からないけど、田舎では田畑が余ってるし、人間関係の煩わしさもあまり無いですよ。
もと農家のこせがれからの提案です。
本書はSBクリエイティブ様から献本していただきました。
ありがとうございました。
目次
はじめに あえて言う。「下流老人」だけでなく「下流中年」にも目が向けられるべきだと
第1章 『「生きづらさ」について』から8年、生きづらさはどう変わったか 対談:雨宮処凛×菅野稔人
第2章 我々はいかにして「下流中年」にさせられているのか 執筆:赤木智弘
第3章 それでも、「下流転落」に脅えることなかれ インタビュー:阿部彩
第4章 ルポ・下流中年 12人のリアル 執筆:池上正樹・加藤順子
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