近年、日本の労働環境と生産性の低さを改善すべく政府主導で「働き方改革」が叫ばれるようになった。
その流れは、ここ数年であまりにも”ブラック”だということが世間的にも認知されるようになった教育の現場にも押し寄せている。
僕は2019年3月に退職した元高校教師で、すでに現場を離れてしまったが、僕が勤務していたまでの期間に限っていえば、教育現場の働き方改革にはまったく有効な手立てが打てていない状況にあるといえる。
人員増員もなく(むしろ削減した)、思い切った業務見直しもなく、結局の所、教師一人ひとりに効率化と生産性向上を期待するしかない状況だ。
そんな苦しい状況の中で、教師の働き方改革にぜひとも参考にしてほしいのが栗田正行先生の著作だ。
現役高校教師である栗田正行先生は、業務の傍らすでに著作を10冊以上刊行している。
ビジネス書を多読されており、そこから得たメソッドで働き方を効率化し、執筆時間を生み出している。
まさに、教師の働き方改革の成功例だ。
そして、そのメソッドを惜しげもなく著書で公開してくれている。
これを是非活用してもらいたい。
また、その著作には効率化のための仕事術だけではなく、教員にとって大切なスキルである授業や生徒に接するときに必要なスキルをテーマにした本もある。
栗田先生は塾講師をされているときに、そういったスキルを徹底的に叩き込まれたそうだ。
一般の方は知らないと思うが、実は教員は「板書術」や「発問の仕方」そして「保護者対応」など、授業や対人対応に必要なスキルを系統だって学ぶ機会がない。
僕もそうだったが、諸先輩の授業を見せてもらったり、日頃の言動を観察して技を盗んだりして自分のスタイルを作り上げていく。
しかし、それには非常に長い時間がかかってしまうし、その間失敗も経験することだろう。
ぜひ現役教師の紹介するテクニックを学んで、1日でも速く自分のスタイルを作り上げる参考にしてもらいたい。
長くなったが、これから栗田正行先生の著作を紹介していく前に少しだけ約束事を。
当ブログでは栗田先生の現時点(2019年6月10日)での全著作をレビューしており、以下に出版年月日の新しい順に紹介している。
(新刊が出たら随時更新する)
アイキャッチとしてAmazonのリンクを使っているが、Kindle版が出ているものに関してはKindle版のリンクを貼ってある。
栗田先生の著書はテーマがニッチなため、僕のような地方に住んでいる人にとっては地元の本屋に置いていない可能性が高いし、すでに電子書籍でないと手に入らないものもあるからだ。
気になった本があれば、それぞれのレビュー記事を見てもらいたい。
では、紹介していこう。
教師の働き方改革に役立つ、現役高校教師栗田正行先生の全著作紹介
『高校教師の働き方 最高の教師ライフを送る仕事術』
教師の仕事内容はとにかく多岐に渡る。
「授業」「校務」「部活」の3本柱はできて当たり前の仕事で、この3つだけですでにかなりの”マルチ能力”が必要となる。
しかし実際の現場ではその上に、担任ならクラス経営や保護者対応も大きな負担となってのしかかってくる。
つまり、専門科目に対する学問的知識、教える能力、コーチング能力、マネジメント能力、事務処理能力、コミュニケーション能力・・・そして体力と、必要とされる能力はとにかく多い。
これだけ広く求められる能力を全て兼ね備えようとするのは無理だろう。
ただ、テクニックを学んで効率よくすることはどの分野でも可能だ。
本書は多岐にわたる教師の仕事のほぼ全体をカバーして、仕事術を公開している。
校種や学校の規模によって業務の中身も大きく変わるが、参考になる点が必ずあると思う。
そして、本書で参考になったなら、特定分野についてさらに深く書かれた栗田先生の本を読み込んでもらいたい。
教師の仕事総合解決書として使うと良い本だと思う。
『いつも人間関係で振り回されてしまう先生へ』
教師の働き方改革が求められる中、実は教員同士の人間関係に時間を取られている事例もたくさんあるのが現実だ。
実際僕も、多くの「困った先生」を見てきたし、時間を取られる経験をしてきた。
本来、生徒のために時間を確保したい教師が、煩わしい人間関係に時間を取られないように、しかも職員室という閉鎖された空間でよい人間関係を維持していくためにはどうしたらいいか。
困った先生をタイプ別に対処法を紹介してくれているこの本は大いに参考になるだろう。
栗田正行(著)『いつも人間関係に振り回されてしまう先生へ』学陽書房【本の紹介】「困った先生」の対処法をピックアップ『できる教師のTODO 仕事術: たった1冊のメモからできる働き方改革』
仕事の効率化ではメジャーな方法のTODOリストの活用方法を解説してくれている本。
教員の仕事はルーティンワークが多いのと、毎年同じようなスケジュールを繰り返しているのが特徴。
そういったワークスタイルにあわせた「デイリーTODO」と「シーズンTODO」を組み合わせて使う方法が秀逸。
また、そもそもその仕事に意味があるのかという視点も学んでほしい。
栗田正行(著)『できる教師のTODO 仕事術: たった1冊のメモからできる働き方改革』東洋館出版社【本の紹介】教師の働き方改革はメンタルブロックを外すことから『高校教師の学級経営 最高のクラスをつくる仕事術』
初めて担任をする若い先生にぜひ読んでほしい一冊。
担任業務は1〜3年(新入生から卒業生)まで1クール経験してようやく勘所がわかってくると思うが、この一冊があれば経験しないとわからない勘所を”予習”することができる。
もちろん、ベテランの担任も学級経営を見直す助けになる本だ。
栗田正行(著)『高校教師の学級経営 最高のクラスをつくる仕事術』明治図書出版【本の紹介】新任教師、初めて担任をする人のマニュアルとして必携『仕事が早い教師の「絶対やらない」習慣』
「やらないこと」を切り口にして、教師から時間を奪っている習慣を見える化してくれている本。
序章の「やらない習慣 5つの原則」を読むだけでも仕事に対する見方が大きく変わると思う。
なお、教師が仕事を効率化して時間を生み出す目的は、教師にとっていちばん大切な「生徒と向き合う時間を生み出すため」であることを肝に銘じておいてほしい。
栗田正行(著)『仕事が早い教師の「絶対やらない」習慣』(学陽書房)【本の紹介】「やらない習慣5つの原則」であなたも時間が確保できる『できる教師のPDCA思考』
通常のPDCAといえば
PLAN(計画)→ DO(実行)→ CHECK(検証)→ ACTION(行動)
だが、栗田流は
PLAN 到達したい目標を決め、手法を考える
DO 手法に基づき、実行・実践をする
CHECK 客観的に検証・確認をする
ADJUST 検証結果から調整する
となる。
そしてそれを実行するためのPDCAシートが秀逸。
あと、教育の現場でどのようにPDCAを活用するかという事例が豊富に掲載されている。
『仕事のできる先生だけがやっている モノと時間の整理術』
実は当ブログの栗田先生の著書レビューの中で一番読まれているのがこの本。
それだけ先生方が整理整頓で苦労されているということだろうか。
実際、どこの学校でも職員室の机上は書類であふれている。
断捨離が流行しているが、モノを減らすことは時短にもつながるので本書を参考にしてデスク周りの整理に役立ててほしい。
栗田正行(著)『仕事のできる先生だけがやっている モノと時間の整理術』明治図書出版【本の紹介】現役高校教師栗田正行先生に学ぶ、デスクの整理整頓のポイント『子どもの学力は「ふせんノート」で伸びる』
栗田先生の著作の中では珍しい、生徒のためのノート術。
生徒がノートのとり方で困っているなら、アドバイスのひとつとして教えてあげるのもいいだろう。
あと、これは教員の自分のための勉強ノートにも十分威力を発揮する内容となっているので、自分なりにアレンジして実践するのもいいと思う。
栗田正行(著)『子どもの学力は「ふせんノート」で伸びる』かんき出版【本の紹介】子どもの学力が伸びる「ふせんノート」の効能と作り方のポイント『9割の先生が知らない! すごい板書術』
全体的にやや小学校教員向けの板書術の印象。
だが、中高でも使える内容が満載で、参考なると思う。
なによりも、「板書」のテクニック集として読んでおけば、伝え方の幅が広がるだろう。
もちろん、電子黒板の時代になっても基本は同じだ。
ビジネスマンのプレゼンの「見せ方」の参考にもなると思う。
栗田正行(著)『9割の先生が知らない! すごい板書術』学陽書房【本の紹介】現役高校教師に学ぶ、あなたのセミナーがもっと効果的になる黒板の使い方『「発問」する技術』
「発問」は授業中の重要なコミュニケーションの一つであり、生徒の理解を導き深めるためのテクニックでもある。
昨今、アクティブ・ラーニングの導入を文科省が推奨しているが、たとえ生徒が自ら学ぶ授業スタイルになっても、教師の「発問」の重要性は変わらない。
非常に重要なスキルだけにしっかり学んでおきたい。
栗田正行(著)『「発問」する技術』東洋館出版社【本の紹介】ビジネスシーンにも応用可能!部下にやる気を出させる「発問」する技術は現役教師に学べ『図解 できる先生の勉強法 できる先生の人脈術』
先生のための自己啓発書。
はっきり言ってしまうと、僕は先生ってあまり勉強しない印象をもっている。
先生は人間的にも魅力のある人であってほしい。
そのためにも本を読み、人から学び、つねにバージョンアップしていってもらいたい。
そもそも、自分が勉強していないのに生徒に「勉強しろ」といっても説得力ないよね。
栗田先生のおすすめ本一覧もある。
あと、当ブログも旧ブログ名「一流への道」でキュレーションサイトとして紹介されている。
『9割の先生が知らない! すごい時間術50のルール』
いちばん重要なリソースが「時間」。
教師の仕事には授業や部活などそもそも絶対に時短ができないものがたくさんあるし、手間のかかる生徒ほど教師の時間を奪う現実がる。
そういった時間を差し引いた残り少ない時間の枠内でいかに効率よく仕事をこなすか。
本書にはさまざまなメソッドが紹介されているので参考にしてほしい。
個人的には本書で紹介されているトリンプ・インターナショナル・ジャパンで実施されている「がんばるタイム」は実践して効果抜群だった。
栗田正行(著)『9割の先生が知らない! すごい時間術50のルール』学陽書房【本の紹介】現役高校教師に学ぶ、ビジネスパーソンも真似すべきすごい時間術7つのポイント『保護者の心をつかむ「言葉」のルール』
保護者の信頼を得られるかどうかが、1年間の生徒とのかかわりで非常に重要な影響を持つ。
そしてその信頼関係は不用意な一言で壊れることも多々あることに注意したい。
近年、教員の多くの時間をあてるひとつが保護者対応なので、保護者とのコミュニケーションをいい形で維持できることが、働き方改革の成否につながることはまちがいない。
栗田正行(著)『保護者の心をつかむ「言葉」のルール』東洋館出版社【本の紹介】現役高校教師が保護者と信頼関係を築く「PARENTS」の法則は、そのままビジネスパーソンがお客さまと信頼関係を築く法則になる『9割の先生が知らない! すごい話し方 50のルール』
自分が想像している以上に実は伝わっていないということを教師は知らなかったりする。
言ったから伝わっているは大間違いだ。
ちょっとしたテクニックで教えたいことの内容や支持したいことの理解度は劇的に変わる。
本書で紹介されているテクニックを一つでもいいので取り入れてみてほしい。
おそらく手応えがあるはずだ。
栗田正行(著)『すごい話し方50のルール』学陽書房【本の紹介】ちょっとしたコツで見違えるほど伝わる!すごい話し方のポイント『効率が10倍アップする! 「時間」を生み出す教師の習慣』
業務量が多いとはいえ、教師の仕事は毎年決まったルーティンを踏むことが多い。
だからこそ、ビジネスパーソンとは違った時間術が効果がある。
年間を通じて仕事量を平均化し、忙しい時期を作らないというメソッドは僕も目からウロコだった。
栗田正行(著)『「時間」を生み出す教師の習慣』東洋館出版社【本の紹介】世界一長時間労働の日本の先生方に、夏休みの課題図書にしてほしい一冊『わかる「板書」 伝わる「話し方」』
一冊で「板書」と授業での「話し方」が学べる本。
「板書」に関しては中高向きの内容の印象。
「話し方」については小学校向けか。
いわゆる「発問」に関して非常に細かくメソッドを解説してくれている。
自分勝手な伝え方になっている方に【書評】栗田 正行(著)『わかる「板書」 伝わる「話し方」』 東洋館出版社『「働くパパ」の時間術 仕事も家事も育児もうまくいく!』
この本は栗田先生のデビュー作で、本書だけは教員の業務に関係ないイクメン本です。
ただ、土日も部活で不在なことが多い教師の家庭は母子家庭とよく言われるので若い男性教員は読んでおいてほしい。
ちなみに、僕が妻に言われた一番つらかった言葉は
「よその子の世話ばっかりせんと、たまには自分の子の世話もしたら」
そんなことを言われないように。
パパだからこそ頑張れる【書評】栗田 正行(著)『「働くパパ」の時間術』 日本実業出版社教師の働き方改革に役立つ、現役高校教師栗田正行先生の全著作のおすすめポイント:まとめ
以上、栗田正行先生の全著作を紹介した。
教師の仕事に特化した本は、授業関連ならまだ多少はあるが、仕事術の本は非常に少ない。
そして、もしあったとしても的はずれな”使えない”ものが多い。
というのも、多くの場合、教育学を専門にしている大学の先生や教育評論家と言われる人たちが書いているからだ。
はっきり言わせてもらうと、こういった人たちは現場を知らないためか、あるいは理想に燃えすぎていて現実が見えないのか、かなりピントが外れていて、「いいことを言っているが、使えない」物ばかりだ。
その点、栗田先生の著書は現役教師というだけあって、どの著書も現場に基づいた内容で、今すぐにでも使えるメソッドが豊富だ。
理想としては、現役高校教師がそのメソッドを書いた本がたくさん出てくれるというのが一番いい状態だろう。
だが、通常教員というのは忙しすぎて、本を書く時間などない。
そのため本当に欲しい情報の”玉数”自体が少ない状態だ。
今現在、現役教師が書いたテクニック集としては栗田先生の著書は非常に貴重な存在だと言える。
ぜひ参考にして、教員としてのバージョンをアップをしていってもらいたい。
そのためにこの記事が一助となれば幸いである。